男性と付き合った経験が一度もない36歳女性が婚活をしたら、何が起きたのでしょうか(写真:Yue_/iStock)

結婚相談所での活動者の中には、生活圏内の自然な出会いで、恋愛をまったく経験してこなかった人たちもいる。30歳を過ぎ、40歳を過ぎて周りを見渡せば、友人たちのほとんどが家庭を築いていて、「私も結婚したほうがいいのではないか」と、相談所の門戸をたたく。

仲人とした婚活現場に関わる筆者が、毎回1人の婚活者に焦点を当てて、苦悩や成功体験をリアルな声と共にお届けしていく連載。今回は、「人生における恋愛の熱量」について考えたい。 

男性と付き合った経験が一度もない

吉田友美(仮名、36歳)は、相談所での活動歴が4カ月になるが、これまで男性と付き合った経験が一度もない。


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結婚相談所の場合、見た目や写真がきれいに撮れているかどうかの個人差もあるが、30代半ばならば最初の2カ月は、月に30〜40件近くの申し込みがかかる。すでに登録している既存会員が一斉に新規参入者を見て、申し込みをかけてくるからだ。これを業界用語では“お見合いバブル”と呼んでいる。

真っ黒なストレートのロングヘアで清楚な美人顔の友美には、2カ月で100を超えるお申し込みがあった。しかし、お見合いをしたのは、月に1回程度。私が、「この方は条件もいいし、都内の方だし、お会いしてみたら?」と強く勧めた人たちとだけ会っていた。

そして、お見合い4人目まではお断りしていた友美だったが、5人目にお会いした米川隆次(仮名、39歳)には“交際希望”を出し、交際することになった。

「今までお会いした人たちの中で、1番話しやすかったですし、見た目もすてきでした」

隆次は、1部上場企業の社員で、身長175センチ、年収も800万円あり、サイドを短く刈り込んだヘアスタイルには、清潔感があった。

しかし、「これまで一度も男性とお付き合いしたことがない」という友美は、どのように交際をしたらいいのかわからず戸惑っていたので、私は、こうアドバイスをした。

「まず連絡は、小まめに取り合うことですよ。 LINEはもう交換したの? 婚活にとってのLINEは、連絡ツールではなく、コミュニケーションツールなんですね。ファーストコールでデートの日を決めて、そこからぱったりと連絡が途絶えて、会う直前に前日確認するような業務連絡LINEを入れ合うカップルは、交際も短命なの。お付き合いをするようになって、テンションが上がっていたのに、連絡を取らない期間に下がってしまうから。1回下がったテンションは、なかなか上がらないんですね。

最低でも1日1回は、 LINEで連絡を送り合って、何でもいいから日常のたわいもない出来事を話したほうがよい。あと、女性は待っているだけではダメですよ。自分からも積極的に連絡を入れる。LINEだけでなく、電話で生の声を聞いて話すのも大切ですね」

根がまじめなのだろう。友美はメモを取りながら話を聞いていた。私はさらに、結婚相談所で婚活をするというのは、どういうことなのかを話した。

婚活をするというのは、婚活市場に自分を棚卸しすることなんです。つまりね、商品はたくさん並んでいるの。お相手から“いいな”と手に取ってもらえたら、こちらも選んでもらえるようにアピールしないといけない。そうじゃないと、自らをアピールして選んでもらう努力をしている人たちに負けてしまうの。ただボーッとしていたら、棚に戻されてしまうんです」

メモをしていた友美がペンを止めて、困惑したように言った。

「でも、男性と付き合うのは初めての経験なので、自分から積極的にLINEや電話をするのは、ハードルが高いです」

「だったら、LINEがきたらすぐに返事を返しましょうね。電話に出られず着信歴が残っていたときには、気づいた時点で折り返す。電話をかけるハードルが高いのなら、『お電話に出られなくてごめんなさい。今なら大丈夫ですよ』とショートメールを入れましょうね」

なぜこれまで恋愛してこなかったのか

入会面談のとき、「男性とまったくお付き合いをしたことがない」という友美に、「『好きです』と告白されたり、『付き合ってください』と言われたりしたことはなかったの?」と聞くと、『一度もありません』という答えが返ってきた。

さらに、こう続けた。

「中学、高校は私立の女子校でしたし、大学も女子大でしたから」

周りに女性しかいない環境だったからだと言いたいのだろうが、女子高、女子大育ちでも、男性とお付き合いしている女性たちは、大勢いる。部活で男子校と交流会をしたり、インカレでほかの大学の男子と仲良くなったり、バイト先で出会ったり、男性と触れ合うチャンスはいくらでもあったはずだ。

これは単に恋愛への興味が薄かったからではないか。学生時代に何に1番興味があったのかを聞いてみた。

「宝塚が大好きでした。今もそうで、ごひいきのジェンヌさんがいるんです。その方を全力で見送ると、次のごひいきさんを見つける。ファンクラブにも入っています。ジェンヌさんとのお茶会に参加することもあります」

私は一度も公演を見たことがないのでその魅力やすばらしさは想像するしかないが、一度観劇をすると、夢中になり、どっぷりと宝塚にのめり込んでいく人は、男性にも女性にも多いと聞く。

すでに退会してしまった女性会員(39歳)も、宝塚のファンで、「全国で公演を見ている」と言っていた。そして、宝塚ファンに共通するのは、自分の愛情やお金や時間を、舞台で華やかに歌い踊るジェンヌに注ぎ、そこにいいようのない満足感や高揚感を得ていることだ。これは何も宝塚に限ったことではなく、アイドルや舞台俳優にハマりのめり込んでいる人たちもしかりだ。

ただ、手の届かないアーティストたちに愛情を注ぎながらも、生身の異性とも付き合う人たちもいる。一方でリアルな恋愛をせずに歳を重ねてしまう人たちもいる。その個人差は、なぜ生まれてしまうのだろうか。

リアルな恋愛をするかは熱量の問題?

入会面談のときに、友美にこんな質問をした。

「学生時代は、周りに男性がいなかったのかもしれないけれど、就職してからは職場に男性がいたでしょう? 周りにいる男性を好きになったり、お付き合いしてみたいなと思ったりしたことはないの?」

少し考え込み、友美は言った。

「いいなと思った人はいたけれど、そこから先をどう進めていいのかわからなかったし、おそらくですが、恋愛に結び付くほど好きではなかった気がするんです」

私は、この仕事を始めて、まったくリアルな恋愛をせずに歳を重ねている人が相当数いることに驚かされた。そして人によって、異性を好きになる熱量が違うことにも気づかされた。

出会った瞬間に一目ぼれをして、好きになったら猪突猛進するタイプの人がいる。その恋が実らず玉砕して傷ついても、その傷が癒えた頃にはまた別の人を好きになっている。

また、人を好きになる感情よりも性の対象として異性を見て、体の関係を持つまでは全力を注ぎ、目的を達成すると気持ちがストンと冷めてしまう、いわゆるヤリモクもいる。

友美のように“いいな”と思っても、“それが恋愛に結び付く感情なのかどうかわからない”という、恋愛に対しての思いが薄い人もいる。

私は、さらに友美に聞いた。

「これまで恋愛してこなかったのに、なぜ今ここで結婚相談所に入ろうと思ったんですか?」

すると、友美が言った。

「大学時代からの仲良くしている5人組がいるんですね。2人は20代で結婚をして、もう1人は30をすぎた頃に結婚をした。私ともう1人が独身だったんですけど、その1人が先日結婚したんです。独身なのは私だけ。早くに結婚した3人にはもう子どももいるし。私もみんなと同じように結婚したほうがいいのかなと思って」

ところが冒頭で記したように、入会2カ月で100人以上から申し込まれても、これまでお見合いしたのは、たったの5人だったのである。その理由も、「誰を選んでいいか、その基準がわからない」というものだった。

5人目の男性とはうまくいっていたはずが…

ところが、5人目に見合いをした3つ上の隆次には、交際希望を出し、順調にデートを重ねていた。

「お付き合いの進捗は、どうですか?」と、 週明けの月曜日にLINEを入れると、「もう4回お会いしました。コロナの影響で水族館やテーマパークは閉館しているところが多いので、今度の日曜日は、桜を見に車で遠出することになっています」というLINEが返ってきた。

これは一安心と思っていたのだが、翌日の火曜日に隆次の相談室の仲人から、“交際終了”の連絡が来た。私は驚いて相談室に電話をかけると、仲人は言った。

「今度の土曜日に車でドライブに出かける約束をすでにしているようなので、今交際終了を出すのはどうかとも思ったんですけど。米川が、『約束しているからといってドライブに行って、それから交際終了を出したら、そのほうがよっぽど失礼じゃないか』と言うので」

どうしてそんなに急な心変わりをしたのか。それは、先週お見合いした相手を隆次が気に入ってしまったからだという。その女性は、隆次と同い歳の39歳なのだが、交際にとても積極的だった。

「LINEも女性側から毎日くるし、2週間前に見合いしてから、すでに4回会っていると言うんです。今、コロナの影響で会社も残業がないでしょう? ウィークデーも、『この日、食事しませんか?』と女性から積極的に誘ってくる。あと、LINEも1日、4〜5往復しているみたいなんです。

米川が言うには、『友美さんとの連絡はいつも自分からで、彼女からLINEが来たことは一度もない。返信もその日ではなく、決まって翌日か翌々日で』と。

ところが、同い年の彼女は、積極的だし話をしていても楽しい。すっかり気に入ってしまったみたいなんですよ」

これはもう仕方がない。婚活市場において、ちゃんと自分で選ばれるようにアピールした女性に、ただ待っているだけの女性は負けてしまうのだ。

その夜、米川の相談室から「交際終了」が来たことを友美に告げた。彼女にしてみたら、土曜日のドライブを楽しみにしていたのだから、青天の霹靂(へきれき)だろう。しばし沈黙の後、かすれた弱々しい声で聞いてきた。

「どうして急に交際終了なんですか?」

そこで、仲人から聞いたことを話した。すると、またしばし沈黙の間があって、今度は涙声で言った。

「男の人とお付き合いするのは初めてだったので、私からLINEを送ったり、電話をしたりすることは、恥ずかしくてできなかった。それに、来たLINEにすぐ返事をするのは、ガツガツしていると思われるんじゃないかって。頂いたメールには、必ず返信していたので、私はうまくやり取りができているものだと思っていました」

私は、もう一度、婚活市場で婚活をするというのは、どういうことなのかという話をした。「ライバルがたくさんいることを忘れてはいけないんですよ」と言って、その日は電話を切った。

すると、翌日、こんな LINEが来た。

「人を条件で選んだりしていいものか。でも、そうしないとお見合いができない。そんなことをしている自分がはしたないと思ってしまいます。ただそれをしていかないと結婚ができないんですよね。それなら、そこまでして結婚をしなくてもいいかなと思い始めています」

“結婚してこそ一人前”という考え方は、もはや昔のこと。今は、結婚をするかしないかは、個人で選択する時代になっている。

人を好きになる熱量の少ない人にとっては、結婚することが難しい時代なのかもしれない。