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都内で働く女性Aさん(20代)はあわてていた。今年度、有給休暇をまだ1日も使っていなかったことに気づいたからだ。2019年は連休が多く、取得していた気になっていた。年度内に5日取得しなくては。でも、残り2カ月で消化しきれるだろうかーー。

2019年4月から始まった「有休義務化」。会社側は10日以上の有休が付与される労働者に対し、年間5日取得させることを義務付けられた。違反すると、対象となる労働者1人につき30万円以下の罰金を科せられる。

Aさんがあわてたのも、この制度を知っていたからだ。

しかし、結論から言えば、Aさんの場合は勘違いだった。というのもAさんは転職組。入社日の関係で、有休は毎年秋に付与されていたからだ。

●自分の有休付与日、知ってますか?

「どこの会社でも同じような勘違いが多いんですね」。こう語るのは、とある中小企業の人事担当者だ。

「かく言う自分もちゃんと調べるまで勘違いしていたんですが…。『4月から有休義務化』って繰り返し報道されていたじゃないですか。言葉が一人歩きして、年度内に5日取らなきゃって誤解している人が多いみたいなんですよね」

実は「1年に5日」の始点(基準日)は4月とは限らない。正確な基準日は2019年4月以降に有休が付与された日なのだ。

たとえば、冒頭のAさんは5月入社。有休が付与されるのは入社半年後だから、毎年11月に基準日がある。

つまり、Aさんは2020年3月31日までではなく、同年10月31日までに5日を取得すればよい。あわてなくても、まだたっぷり余裕があったのだ。

しかし、Aさんは自分の有休付与日がいつだったかも知らなかった。有休取得率の低さから生まれた新制度だが、有休をあまり使って来なかったからこその誤解が生じていると言えそうだ。

●大企業は年度内であることが多い

もちろん、3月31日までに有休を取得しなければならない会社もある。大企業のように新卒が多く、人の動きが少ない企業では、管理コストなどを考えて、前倒しで有休を付与している場合がある。

たとえば、1年目は10月に有休が付与されるが、2年目以降は秋ではなく、4月に有休が付与されるといったケースだ。

このように付与日を4月に統一している企業では、年度内に有休義務をクリアしなければならない。

●悩ましい付与日の統一「管理コストか、公平性か」

だったら、どの企業も付与日を統一した方が分かりやすいのではないかという疑問も湧いてくる。これに対し、前述の人事担当者は次のように解説する。

「うちの会社でも検討したことはありますよ。ただ、毎月、新しい社員が入ってきます。そうすると、入社月によって、有休がすごく多い人もいれば、法令通りという人も出てくる。公平性が保てなくなってしまうんですよ」

特に人の入れ替わりが激しいベンチャー企業やIT業界では、付与日の統一は難しいかもしれない。その分、管理職の負担も増えるといえるだろう。

「うちは社員がそんなに多くないので、表計算ソフトで管理しています。一定期間が経過しても取得日数が少ない場合は、部門長にアラートが飛ぶ仕組みです。事業規模が大きければ、システム化しているところもあるでしょうね」

ちなみに冒頭のAさんは、まだあわてなくて良いと分かったものの、せっかくの機会だからと2月に有休5日を申請、大型連休をつくることにしたという。次の有休付与日(11月)までに、また「バカンス」を設けようと考えている。

「1年に5日」はあくまで最低ライン。実際にはそれすら難しいという労働者も多くいるはずだが、比較的休みを取りやすい環境にいる人は、これを機会に有休の使い方を考えてみると良いだろう。