地球の周囲には「ヴァン・アレン帯」というドーナツ状の放射線帯が存在しています。今回、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のジオスペース探査衛星「あらせ」の観測データを利用した研究によって、ヴァン・アレン帯の謎の一端が解明されました。


観測を行う「あらせ」のイメージ図(Credit: ISAS/JAXA)


■ヴァン・アレン帯の電子がエネルギーを得る場所は限られていた

今回の研究成果をまとめたもの。地球の夕方側(左上、明るい緑色のエリア)でエネルギーを得た電子は左回りで朝方側(右下)へ移動し、朝方側にいた「あらせ」の観測機器に捉えられた(Credit: ISAS/JAXA)


ヴァン・アレン帯には、高いエネルギーを持った電子が集まっています。高エネルギーの電子はときに人工衛星などの障害を引き起こすこともあるため、ヴァン・アレン帯の様子を詳しく知ることは、宇宙空間を利用する人類の日常生活にも関わってくる問題です。


今回、九州工業大学の寺本万里子氏らの研究チームは、JAXAのあらせやNASAの探査機「ヴァン・アレン・プローブ(Van Allen Probes)」などの観測データを用いて、ヴァン・アレン帯の電子がどこでエネルギーを得ているのかを調べました。


研究の結果、ヴァン・アレン帯では地球の夕方側の限られた場所でのみ電子が加速される(エネルギーを得る)ことが判明しました。従来はヴァン・アレン帯の広い範囲でエネルギーを得ていると思われていた電子が、実はごく限られた場所でだけ加速されていたことが初めて明らかになったのです。


■複数の探査機で観測することの有用性を再確認

「あらせ」とともに観測データを取得したNASAの「ヴァン・アレン・プローブ」の想像図(Credit: JHUAPL/NASA)


今回の研究に用いられた観測データの一部は、2017年3月30日、地球の朝方側にいたあらせの複数の観測装置によって取得されています。データは高エネルギー電子の数が周期的に増減している様子を示していたものの、電子にエネルギーを与える役割を果たす電磁場に変動はみられませんでした。


いっぽう、同時刻に地球の夕方側にいたNASAのヴァン・アレン・プローブの観測装置は、高エネルギー電子と電磁場がどちらも変動している様子を捉えていました。異なる場所にいた2機の探査機によって得られた観測データが揃ったことで、今回の発見がもたらされたと言えます。


GPS衛星、放送衛星、気象観測衛星など、人工衛星は日常生活にとって欠かせないインフラのひとつです。研究チームは今回の研究結果をヴァン・アレン帯のシミュレーションモデルに反映することで、ヴァン・アレン帯によって引き起こされるトラブルを回避するために役立てたいとしています。


 


Image/Source: ISAS/JAXA
文/松村武宏