等しく学習しても搾取は生まれる 東大が囚人のジレンマによる新モデルを提示
19世紀のドイツの思想家カール・マルクスは、労働階級と資本階級との関係を「搾取」という言葉で形容した。マルクスの思想はソ連崩壊とともに顧みられることは少なくなったが、所得格差を示すジニ係数は1980年以降日本や欧米などで上昇傾向にある。この搾取関係をゲーム理論における囚人のジレンマから理解する試みが、東京大学の研究グループによって行われている。
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■行動選択の困難を突く囚人のジレンマ
ある囚人が別の囚人を裏切るか協力するかという行動選択の損得を示すモデルが、囚人のジレンマだ。各囚人が最適な行動を選択したにもかかわらず、より多くの利益を得る選択がなお存在するという。囚人のジレンマは1回限りの選択を対象とするモデルだが、現実では過去の行動戦略から学習し行動することが多く、より現実に即したモデルとして繰り返し囚人のジレンマが存在する。これによると、学習を繰り返すことで囚人が最善の行動を選択できるようになる。
■搾取側と被搾取側との行動戦略の違いも明らかに
社会において、一方が他方の利益を犠牲にし、不当な利益を得る搾取現象が頻繁にみられる。搾取が環境や個人の能力差に由来するのかや、対等な個人間でも発生するかは社会科学者にとっての研究対象であり、囚人のジレンマを表すモデルでの分析が従来行われてきた。だが、一方が搾取戦略を採用し、他方がそれにあわせた戦略を取るという制限されたモデルが使用されていた。研究グループは今回、両者が自分の利益を大きくするよう同様の学習をしたにもかかわらず、搾取関係が発生することをシミュレーションで理論的に示した。また、搾取の度合いが最大の場合の戦略を調べた。その結果、相手がいったん裏切ると搾取側は裏切り続ける一方、搾取される側は寛容的な行動を時々選択することも判明した。
研究グループは、本成果が搾取の発生に新しい視点を与え、搾取を解消する研究の加速が期待されるとしている。
研究の詳細は、Physical Review Research誌にて5日に掲載されている。