【ルヴァン杯決勝】右足首の負傷、ベンチスタート…苦難を乗り越え大一番で輝いた小林悠の魂の咆哮
[ルヴァンカップ決勝]札幌3(4PK5)3川崎/10月26日/埼玉スタジアム2002
札幌との決勝でチームの窮地を救ったのは頼れるエースストライカーだった。
2年前の光景は今も脳裏にこびりついていた。リーグ戦では好調をキープし、川崎有利と目されていたC大阪とのルヴァンカップ決勝。しかし、試合開始直後に失点を喫すると、1トップで先発した小林悠も最後まで本来の力を示せずに0-2で敗れた。かつて川崎でコンビを組んだ経験があり、この試合で先制点を奪った杉本健勇らが歓喜する姿を、ただ呆然と見守るしかなかった。
あれからチームはリーグ連覇を達成し、頂点に立つ喜びを覚えた。それでもカップ戦の優勝経験はなし。愛するクラブを頂点に導きたいという想いは誰よりも強かった。
しかし、大一番を前にした10月20日、アクシデントに見舞われる。練習試合で右足首を痛めてしまったのだ。「どうしてこんな時に…」ショックは隠しきれなかった。
それでもエース、そしてキャプテンとしての意地がある。翌日から練習に参加しながら足首の回復を目指し、出席した前日会見では「練習自体は出られているのでまったく問題ありません」と怪我の影響をキッパリ否定。
ただし、札幌との一戦に向けたスターティングメンバーに名前は記されず、ベンチからのスタート。「そりゃ悔しかったです。やっぱりスタートからいきたかった」と本心を語るも、「右足首のことがなくとも(レギュラーを争うレアンドロ・)ダミアンが先発かなと思った」と自らの出番を冷静に待った。
振り返ると元ブラジル代表FWレアンドロ・ダミアンが加入した今季は、例年以上に苦難の多いシーズンだった。開幕当初は4-2-3-1の右サイドハーフで起用されたが、持ち前の得点力を発揮できる機会が減少。チームのために割り切ろうとする想いと、ストライカーとしてのプライドが、葛藤として心の中で渦巻いた。
その後は鬼木監督との話し合いもあり、CFとしての出場機会が増える。しかし、今度は夏場のチームの不調もあり、なかなかゴール数を伸ばせない日々が続いた。
そんなシーズンを象徴するかのような札幌戦でのベンチスタート。鬼木監督は、試合数日前に小林についてこう評していた。
「(試合を前に)そんなに多くを話す機会はないですが、ただ振る舞いはいつも変わらないです。キャプテンとして、とにかくチームのために、何ができるかを考えている。それプラス、ゴールですよね。彼はゴールでチームを引っ張ていこうという想いが強い。そしてサッカーに対する情熱みたいなものも強い。そこは変わらず評価しています。あとは彼だから作れるチャンス、彼にしか作れないチャンスがいっぱいあるので、そこへの想いも僕は強い。それをどれだけ決め切れるか。それもまた彼の成長のために大事なこと。
もっとも彼はキャプテンだから試合に出られるだろうという気持ちは元々ないはず。点が取れなければ仕方がないという話を本人もしている」
結果を残せていないのだから仕方ない――。小林自身もそう割り切っている部分があるのだろう。もっともピッチに立てば、ゴールを決められる自信は常に抱えていた。73分から登場した札幌戦も「ヒーローになることしか考えていなかった」と振り返り、「自分が点を取るから大丈夫」と周囲に語りかけていたという。
そして1-1で迎えた88分にそれは実際のものとなる。得意とする相手最終ラインとの駆け引きから、後方にいた大島僚太から浮き球のパスを引き出すと、相手GKとの1対1を制したのだ。スタジアムのボールテージが一気に増した瞬間、スタンドに向けて大きく咆哮する小林の姿がそこにはあった。
それはまさにストライカーとしての意地を誇示するかの如く、猛々しく、ここまでの鬱憤を開放するかのような叫びだった。
そして小林は延長戦にもつれたゲームで再びチームを救うことになる。試合は後半終了直前に札幌に2-2の同点に追い付かれ、延長戦に入ると、96分にはCBの谷口彰悟がVAR判定で退場を命じられ、そのプレーで喫したFKを決められる。10人で1点のビハインド。
この時点で札幌の勝利を予想した人は多かったのではないか。それでも109分、中村憲剛の蹴ったCKをファーで山村和也が折り返すと、オフサイドラインギリギリで待っていたのが小林だった。チームを窮地から助け出す値千金の同点弾。
その後、GK新井章太の活躍でPK戦を制し、歓喜の瞬間を迎える。光り輝くトロフィーを掲げたその顔には弾けんばかりの笑顔が溢れた。苦難を乗り越え手にした悲願の優勝。それは盟友・新井の大会MVP受賞も相まって、忘れられないものになったはずだ。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
【ルヴァン杯決勝PHOTO】札幌3(4PK5)3川崎|互いに一歩も譲らず激しい猛攻も川崎がPK戦を制し初優勝!!MVPには・・・!?
札幌との決勝でチームの窮地を救ったのは頼れるエースストライカーだった。
2年前の光景は今も脳裏にこびりついていた。リーグ戦では好調をキープし、川崎有利と目されていたC大阪とのルヴァンカップ決勝。しかし、試合開始直後に失点を喫すると、1トップで先発した小林悠も最後まで本来の力を示せずに0-2で敗れた。かつて川崎でコンビを組んだ経験があり、この試合で先制点を奪った杉本健勇らが歓喜する姿を、ただ呆然と見守るしかなかった。
しかし、大一番を前にした10月20日、アクシデントに見舞われる。練習試合で右足首を痛めてしまったのだ。「どうしてこんな時に…」ショックは隠しきれなかった。
それでもエース、そしてキャプテンとしての意地がある。翌日から練習に参加しながら足首の回復を目指し、出席した前日会見では「練習自体は出られているのでまったく問題ありません」と怪我の影響をキッパリ否定。
ただし、札幌との一戦に向けたスターティングメンバーに名前は記されず、ベンチからのスタート。「そりゃ悔しかったです。やっぱりスタートからいきたかった」と本心を語るも、「右足首のことがなくとも(レギュラーを争うレアンドロ・)ダミアンが先発かなと思った」と自らの出番を冷静に待った。
振り返ると元ブラジル代表FWレアンドロ・ダミアンが加入した今季は、例年以上に苦難の多いシーズンだった。開幕当初は4-2-3-1の右サイドハーフで起用されたが、持ち前の得点力を発揮できる機会が減少。チームのために割り切ろうとする想いと、ストライカーとしてのプライドが、葛藤として心の中で渦巻いた。
その後は鬼木監督との話し合いもあり、CFとしての出場機会が増える。しかし、今度は夏場のチームの不調もあり、なかなかゴール数を伸ばせない日々が続いた。
そんなシーズンを象徴するかのような札幌戦でのベンチスタート。鬼木監督は、試合数日前に小林についてこう評していた。
「(試合を前に)そんなに多くを話す機会はないですが、ただ振る舞いはいつも変わらないです。キャプテンとして、とにかくチームのために、何ができるかを考えている。それプラス、ゴールですよね。彼はゴールでチームを引っ張ていこうという想いが強い。そしてサッカーに対する情熱みたいなものも強い。そこは変わらず評価しています。あとは彼だから作れるチャンス、彼にしか作れないチャンスがいっぱいあるので、そこへの想いも僕は強い。それをどれだけ決め切れるか。それもまた彼の成長のために大事なこと。
もっとも彼はキャプテンだから試合に出られるだろうという気持ちは元々ないはず。点が取れなければ仕方がないという話を本人もしている」
結果を残せていないのだから仕方ない――。小林自身もそう割り切っている部分があるのだろう。もっともピッチに立てば、ゴールを決められる自信は常に抱えていた。73分から登場した札幌戦も「ヒーローになることしか考えていなかった」と振り返り、「自分が点を取るから大丈夫」と周囲に語りかけていたという。
そして1-1で迎えた88分にそれは実際のものとなる。得意とする相手最終ラインとの駆け引きから、後方にいた大島僚太から浮き球のパスを引き出すと、相手GKとの1対1を制したのだ。スタジアムのボールテージが一気に増した瞬間、スタンドに向けて大きく咆哮する小林の姿がそこにはあった。
それはまさにストライカーとしての意地を誇示するかの如く、猛々しく、ここまでの鬱憤を開放するかのような叫びだった。
そして小林は延長戦にもつれたゲームで再びチームを救うことになる。試合は後半終了直前に札幌に2-2の同点に追い付かれ、延長戦に入ると、96分にはCBの谷口彰悟がVAR判定で退場を命じられ、そのプレーで喫したFKを決められる。10人で1点のビハインド。
この時点で札幌の勝利を予想した人は多かったのではないか。それでも109分、中村憲剛の蹴ったCKをファーで山村和也が折り返すと、オフサイドラインギリギリで待っていたのが小林だった。チームを窮地から助け出す値千金の同点弾。
その後、GK新井章太の活躍でPK戦を制し、歓喜の瞬間を迎える。光り輝くトロフィーを掲げたその顔には弾けんばかりの笑顔が溢れた。苦難を乗り越え手にした悲願の優勝。それは盟友・新井の大会MVP受賞も相まって、忘れられないものになったはずだ。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
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