「外車といえば左ハンドル」、そのようなイメージはもう過去のものになりつつあります。いまやほとんど輸入車が右ハンドルで、左ハンドル車はわずかな車種に設定があるのみ。なぜこうなったのでしょうか。

左ハンドル車、いまやひと握り

「外車といえば左ハンドル」は、もはや過去のお話になりつつあります。2019年現在、左ハンドル車が激減しているのです。


「メルセデス マイバッハSクラス」の左ハンドル車(画像:メルセデス・ベンツ日本)。

 輸入車の業界団体であるJAIA(日本自動車輸入組合)によると、現在の輸入新車で左ハンドル車の割合は5%ほどだそうです。

 BMWの日本法人ビー・エム・ダブリューも、左ハンドル車はコアなファンがいる一部のスポーティモデルなど、格上のクルマでわずかに輸入している程度だといいます。メルセデス・ベンツ日本も、やはり「Sクラス」などの高級ラインや「AMG」などスポーティなモデルに左ハンドル車を設定しているものの、「Aクラス」などのエントリークラスでは、右ハンドル車のみとしているモデルも多いと話します。つまり、左ハンドル車を選択できないケースも増えているのです。

 左側通行である日本の国産車は、一部の作業用車両などを除きほぼ右ハンドル車です。これは同じ左側通行であるイギリスも同じで、車両どうしのすれ違い時や右折時など、運転のしやすさなどが関係しているといわれており、そして駐車場の精算機や料金所の窓口なども、日本では基本的にクルマの右側に設けられています。右側通行のドイツやアメリカで造られた左ハンドル車は、日本では何かと不便です。輸入車各社が右ハンドル車を増やしてきたことについては、JAIA、ビー・エム・ダブリュー、メルセデス・ベンツ日本とも「日本ならば右ハンドル車のほうがいいでしょう」と、市場動向を踏まえてのことだと口を揃えます。

 一方で、メルセデス・ベンツ日本は「左ハンドルをお好みのお客様も一定数いらっしゃいます」とも話します。

「『昔から『Sクラス』に乗っていて左ハンドルに慣れているから』というお客様のほか、特に『AMG』については、『左ハンドルのほうが本来の設計だから』とお考えになるお客様がいらっしゃいます」(メルセデス・ベンツ日本)

 セールス部門からのそうした声を受け、メルセデス・ベンツでは右ハンドル車が基本ではあるものの、一部車種で左ハンドル車も設定している状況だそうです。

右ハンドル増の背景に技術的な発展

 メルセデス・ベンツ日本によると、左ハンドル車と右ハンドル車で設計の違いは多少あるものの、後述するウインカーレバーの位置など目立つ部分を除けば、実際に運転した際の違いは「わたしたちでもわからない程度」だといいます。しかし過去には、その違いは現在より大きかったそうです。

「運転制御システムが機械式だったころは、右ハンドルにするとアクセルにつながるケーブルが湾曲するなど、操作感に影響を与えることがありました。しかし、ケーブルを介さない電子制御に置き換わると、左ハンドルと右ハンドルの差がなくなっていったのです」(メルセデス・ベンツ日本)

 右ハンドル車の増加は、このような技術的な進歩を背景に、日本の市場動向に合わせていった結果だといいます。「30年ほど前は『Sクラス』もほぼ左ハンドルで、年間の販売台数は3万台に満たないレベルでしたが、モデルを増やし、より広いお客様へメルセデスを届けていった結果、いまや7万台を超えています」(メルセデス・ベンツ日本)。日本における右ハンドルの輸入車の増加は、輸入車がより広いユーザーに浸透していったことを物語っているのかもしれません。


BMW「M4 カブリオレ」。Mシリーズには左ハンドル車が比較的多いという(画像:ビー・エム・ダブリュー)。

 ちなみに、輸入車は右ハンドルでも、ウインカーレバーがドライバーから見てハンドルの左側についていることがほとんどですが、ビー・エム・ダブリューによると、これは国際的なISO規格で、ウインカーレバーの位置がそのように定められているためだそうです。日本車は日本のJIS規格にのっとっており、ウインカーレバーがハンドルの右側にありますが、たとえばイギリスでは右ハンドル車が主流でも、ISO規格にのっとりウインカーレバーは左側に取り付けられるといいます。