伊藤忠商事東京本社ビル(Rs1421さん撮影、Wikimedia Commonsより)

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伊藤忠商事の株価が資源価格の持ち直しなどで連日年初来高値を更新している。9月12日まで6営業日連続で更新し、13日にいったん連騰が途切れた。しかし連休明け17日には、週末にサウジアラビアの石油施設が攻撃されて中東の緊張が高まり、原油価格が上昇したことを受けてさらに上値をつけて更新。その後も右肩上がりのペースで、20日には終値を2359円50銭として、上場来高値を塗り替えた。

伊藤忠は大手商社の中でも国内小売り事業のような「非資源」が堅調で投資家の評価が高い中、足元の資源価格の上昇によって株価が底上げされている。

米中摩擦の中でも業績伸ばす手堅さ

伊藤忠の株価は年初から上昇基調にあった。2019年3月期連結決算(国際会計基準)の純利益は前期比25.0%増の5005億円と3年連続で過去最高を更新。食料(商社用語で、傘下の大手コンビニ「ファミリーマート」のような小売りも含む)や繊維などの非資源事業が好調なところに、資源価格の回復が好業績を後押しした。

その流れは2020年3月期に入っても続いている。8月2日に発表した2019年4〜6月期連結決算は純利益が前年同期比29.9%増の1472億円と、四半期としては過去最高となった。引き続き非資源分野が好調だったうえ、ブラジル鉱山事故の影響で鉄鉱石価格が上昇・高止まりしていることから金属事業なども伸びた。米中貿易摩擦による世界経済の変調を受けて大手商社5社のうち三菱商事、住友商事、丸紅の3社の純利益が前年同期を下回る中、予測しがたい世界の動きに耐える力強さを改めて示す結果となっている。ちなみに三井物産も強みの鉄鉱石価格上昇などが追い風になって純利益が5.6%増えた。

伊藤忠の業績に対してアナリストの評価は高く、4〜6月期決算発表後、野村証券は「同業他社が非資源分野を中心に野村予想を下回る中で相対的な堅調さが際立つ好決算」として鉄鉱石市況の上昇を織り込む形で利益予想を上方修正した。野村のリポートは「相対的な決算の良好さは内需系の事業ウエイトが高いことも一因。4〜6月期決算で他社は自動車や化学品といった外需関連分野で、野村予想比で軟調な展開となるケースが多かった」とも指摘している。

原油価格上昇が大きな追い風に

8月30日に目標株価を2350円から2420円に引き上げたSMBC日興証券は、足元で進めている自社株買いなどの株主還元策にも注目する。伊藤忠は2018年10月に「株主還元方針」を発表し、発行済み株式総数の約5%に相当する7800万株の自己株式を月内に消却するとした(消却すれば株主の持つ1株当たりの価値は確実に高まる)。さらに中期的に配当性向を30%(2019年3月期は約26%)に高める目標を設け、合計1億株(当時の株価で約2200億円相当)の自社株買い実施方針も示した。この発表を受けて当時、株価は上場来高値を更新した。2019年6月の発表分によってすべて達成する見込みとし、「株主還元方針」のアップデート版にも注目しているという。そうした市場との対話を重視する現経営陣の株主還元策への期待感が株価を下支えしているようだ。

ここへ来て中東でキナ臭い動きが続き、原油価格が上昇している。サウジアラビアの石油施設への攻撃を受けて16日のニューヨーク市場の原油先物の終値は1バレル62.90ドルと前週末比15%高となった。原油価格の上昇は日本の消費者にとってあまり良いことではないが、商社にとっては朗報となる。会社によっては1バレル当たり1ドル上昇すると、30億円近い増益になるとの指摘もある。伊藤忠にとっても追い風で17日の株価の上昇は原油価格を織り込んだと見られている。というわけで、伊藤忠株はまだまだ、上昇気流に乗る可能性がありそうだ。