日本の曲技飛行チームといえば、航空自衛隊の「ブルーインパルス」が知られますが、海上自衛隊にも「ホワイトアローズ」というチームがあります。一般イベントデビューの舞台は、最後の「レッドブル・エアレース」でした。

空自は「ブルー」、海自は「ホワイト」

 2019年9月の千葉大会が最後の開催となる「レッドブル・エアレース」。世界屈指の操縦技術を持つアスリートたちが、極限までシェイプアップされた飛行機「エアレーサー」を駆り、立ち並ぶパイロンを高度20mで右に左にかわしながらタイムを競う、とてもスリリングな競技です。これを盛り上げるサイドアクト(エキシビション)のひとつとして、2019年千葉大会では、海上自衛隊の曲技飛行(アクロバット)チーム「WHITE ARROWS(以下、ホワイトアローズ)」がエントリーされています。


エシュロン隊形で飛ぶ海上自衛隊の曲技飛行チーム、ホワイトアローズ(2019年1月、板倉秀典撮影)。

 アクロバットチームといえば、航空自衛隊の「ブルーインパルス」が有名ですが、「ホワイトアローズ」は聞いたことがないという人が多いでしょう。それもそのはず、このホワイトアローズは2018年10月に誕生したばかりの新しいチームで、一般のイベントで展示飛行を行うのは今回が初めてなのです。

 ホワイトアローズは、海上自衛隊で哨戒機や哨戒ヘリコプターなどのパイロットを育成する小月航空基地(山口県下関市)第201教育航空隊(以下、201教空)の、教官パイロットたちで編成されたチームです。使っている飛行機はT-5練習機。富士重工業、現在のSUBARUが製造した国産のターボプロップ練習機で、海上自衛隊の航空学生が入隊後、初めて操縦する飛行機です。

実は前身あり、「ホワイトアローズ」発足の経緯

 海上自衛隊の哨戒機やヘリコプターは、正副操縦士2名が横に並ぶサイド・バイ・サイドの機体ばかりですので、クルー同士のコーディネーション(調整力)が学びやすいよう、T-5練習機も同様につくられています。また、2名の操縦士の後ろにも座席があり、最大4名が搭乗できます。ホワイトアローズはこのT-5を4機使用しますので、計8名のパイロットが連携してアクロバットを行っていることになります。


関門海峡上空をダイヤモンド隊形で飛ぶホワイトアローズ(2019年1月、板倉秀典撮影)。

 201教空では、パイロットの卵である航空学生に飛行機の基本的な操縦技術を教える一環として、曲技飛行を通じて教官の技量向上も図ってきました。その曲技飛行は、これまでにも航空学生の入隊式や小月航空基地祭などで披露されています。

 そのチーム名として、以前はフランス語で「白い翼」を意味する「ブランエール」や、201教空のコールサインから「ルーキーフライト」を名乗っていましたが、2018年10月に、正式に海上自衛隊の公式曲技飛行チームとして再スタートすることになり、それに合わせて「ホワイトアローズ」と命名されました。

T-5練習機ゆえの、ひと味違う妙技とは?

 そしてホワイトアローズの、一般のイベントへの初めての参加が、「レッドブル・エアレース千葉2019」でのサイドアクトだったのです。ただし、201教空はあくまでも次世代の海上自衛隊パイロットを育成する部隊。そのため、今後の一般イベントでの展示飛行は年間1、2回程度のみとかなり少ないようです。


千葉大会予選前日に会場へ飛来した「ホワイトアローズ」。編隊で低空を飛ぶ演技は、エアレースとは違った迫力(2019年9月6日、板倉秀典撮影)。

 サイド・バイ・サイドのT-5のコクピットでは、2名のパイロットが左右を目視でチェックしながら編隊を維持しています。また、1名が曲技飛行に専念しているあいだ、もう1名は計器の数値を読み上げることもします。つまり、4機が糸でつながったようにピッタリと飛ぶのは、8名のパイロットの意思がひとつにまとまっていることの表れでもあります。

 筆者(板倉秀典:コピーライター/カメラマン)がパイロットへインタビューしたところ「T-5はパワーコントロールがシビア」とのことで、スロットル(アクセル)を素早く、大きく動かし続けてはじめて緊密な編隊が実現できるそうです。

 ジェット練習機T-4を使用する航空自衛隊ブルーインパルスと比べると、ホワイトアローズはスピードが遅く小回りもできるため、より観客に近く、低いところを安全に飛ぶことができます。静かで優雅、でも近くて迫力があるのが海上自衛隊アクロバットチーム、ホワイトアローズの魅力なのです。