韓国の若者たちはどのような“今”を生きているのでしょうか?(写真:wilightShow/iStock)

輸出の優遇措置の解除や元徴用工問題などにより、緊張感が高まる日韓関係。韓国では日本製品の不買運動がたびたび報じられ、日本では対馬や九州などで韓国人観光客が減少するなど、民間にも影響が出始めています。

一方、日本の若者の韓国への親近感は、引き続き根強いものがあります。私は3月末に調査目的でソウルを訪れましたが、春休み期間中だったこともあり、金浦空港はものすごい数の日本人女子大生らでごった返していました。

私がマーケターとして10年来調査を行っている若者研究の観点から言うなら、いま韓国は、日本の若者、とくに10〜20代女性の多くにとってファッション、コスメ、スイーツ、フード、音楽といった分野で流行の先端を行く国だと、日本の若年層の女子には捉えられています。

その後、日韓関係が深刻にこじれた後も日本の若者への調査を行っていますが、特に若年層の女子の間における韓流支持はあまり揺らぐことなく、根付いています。ただし、日本の若年層の女子の間でも、本人たちの希望はさておき、昨今の日韓関係を鑑み、親が子の渡韓を止めるケースも増えつつあるようです。

さて、韓国の若者たちは日ごろ、どんなトレンドの中で生きているのでしょうか。今回の渡韓では、ソウル市内に住む男女6人に家庭訪問調査を試み、かつ若者が集うトレンドスポットでの街頭インタビューも行い、彼らの意識・生活価値観を探ってきました。彼らが直面している社会問題や現政権に対する気分、対日感情、身の回りの流行や恋愛事情。これらから現在の韓国社会が浮かび上がってきます。(取材は3月に実施したものです)

【訪問取材者】

A君:25歳/書店勤務。小説家志望。好きな作家は村上春樹。

B君:28歳/広告代理店勤務を経て、社員数名の動画制作会社を起業。

C君:33歳/オンラインショッピングサイトのプログラマー。

Dさん:20歳/大学で建築学科を専攻する大学生。

E君:18歳/夜間大学の日本語学科専攻。将来は服飾関係を志望。

Fさん:25歳/東京に4年留学ののち、現在はソウルで企業に勤務。

韓国社会の生きづらさを表す「ヘル朝鮮」

今の韓国の若者が取り巻かれている環境を表すものとして「ヘル朝鮮(チョソン)」という流行り言葉があります。ヘル(Hell)とは地獄のこと。韓国社会が若者たちにとっていかに生きづらいかを表した言葉です。2、3年ほど前から流通している言葉ですが、現在でもその状況は変わっていないようです。

その最も深刻な“地獄”が、若者の就職問題です。「韓国の社会問題は?」の問いに就職問題を挙げなかった若者は、たったの1人もいませんでした。

「競争社会で勝ち残り、いい大学に入っていい企業に入らないと、その後の人生で経済的な苦しさを強いられます」(A君)

「大企業と中小企業の賃金差がものすごく大きいのは問題」(Fさん)

韓国社会は日本とは比べものにならないほど、大企業と中小企業の給料格差が激しいことで知られています。例えば韓国の雇用労働者統計(2017年)によると、従業員300人以上の企業の平均賃金が352万7000ウォン(約35万2700円)なのに対し、300人未満では224万3000(約22万4300円)。5人未満では167万2000ウォン(約16万7200円)まで落ちます。

ちなみに大企業とは、ほぼ四大財閥(サムスン、現代自動車、SK、LG)と政府系であるポスコの系列企業のこと。財閥系企業だけで韓国のGDP150兆円のうち70兆円を占めるという試算もあるほどです。

これらの大企業に入るためには、「SKY」と呼ばれる3つの一流大学――ソウル大学、高麗大学、延世大学――のいずれかを卒業し、かつ英語に堪能でなければなりません。そのため若者たちは、小さな頃から勉強漬けを強いられ、受験戦争は熾烈を極めます。大学受験に失敗すれば大企業には入れず、挽回のチャンスはありません。中小企業の安い給料で一生を過ごす羽目になり、文字通り人生が「お先真っ暗」になってしまうのです。

「大学の先輩には財閥系の大企業を狙っている人が多いですね。それ以外では公務員試験の準備をしている人も目立ちます」(Dさん)

人生の中で最も高い買い物は「住宅」ですが、若者たちは「家が買えない」としきりに訴えます。

「物価がどんどん上がっていますが、賃金上昇がそれに追いついていない。だから家を持つのが大変です」(A君)

「とにかく家が高いので、貯金が必要」(B君)

「家が高くて買えません。一方、文在寅の政策によって最低賃金が上がり始めているので、今後は正社員になれなかった多くの若者たちがフリーターのような感じで(家を持たず)生活していくのでは」(C君)

「私たちの世代は家を買うのは無理じゃないかと、友達とよく話しています」(Fさん)

声を上げる女性たち――“脱コルセット”運動

女子大生のDさんは、就職や住宅といった経済的な困難に次ぐ社会問題として「女性の権利」を挙げました。「昔よりだいぶよくなったけど」と前置きはしましたが、韓国の男尊女卑傾向は、若い世代にも色濃く残っているそうです。

「女性が職場で休暇を取りにくい状況に対して、男性は『女だから当然』という目で見ます。“女性は綺麗にしていなければならない”という男目線の圧力も強いですね。それに対して、“脱コルセット”というスローガンを掲げて運動する女性たちもいます」(Dさん)

“脱コルセット”は、抑圧されている女性の解放志向を表した言葉です。韓国では2016年、社会において抑圧される等身大の韓国人女性を克明に描いた『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)がベストセラーになりました。日本でも2018年12月に発売され、話題になったのは記憶に新しいと思います。

「セクハラやレイプ事件が起こると、男性から『短いスカートをはいているからだ』『遅くに出歩いているからだ』と言われます」(Dさん)

彼女の発言の背景にあるのが、2016年5月に韓国国内で大きな社会問題になった「カンナムムッチマサリン(江南無差別殺人)」です。犯人の35歳男性は、江南駅近くにあるトイレで22歳の女性を十数回も凶器で刺して殺害しました。

警察は精神疾患による無差別殺人と発表しましたが、犯行の動機が「女性全体に対する嫌悪によるもの」と報道されると、ネット上で被害者追悼の機運が高まり、男性優位社会からくる女性嫌悪に対して激しい批判が叫ばれるようになったのです。

折しもこの3月には、韓国の人気グループBIGBANGのV.Iが売春あっせん疑惑によって引退を表明しました。このように女性を商品化する「性接待」は、韓国芸能界においては氷山の一角であるという声も少なくありません。

文在寅政権に対する評価は二分

若者が直面する社会問題は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対する評価にもつながってきます。

「同世代の間で文在寅に対する評価は割れています。最低賃金を上げたことは評価できますが、女性の権利向上に関してはあまり進んでいませんね」
(A君)

「文在寅は、当選したときには2、30代に人気がありましたが、今は人気に陰りが見えています。北朝鮮や中国といった国外に関心が向きすぎて、国内に目が向いていません。よくなったことなんて、ひとつもないです」(B君)

とはいえ、韓国の若者の皆が皆、政治に対して強い問題意識を持っているわけではありません。

「徴兵は嫌だけど、義務だから行きます。北朝鮮に関しては、はっきり言って興味ありません。統一すれば徴兵がなくなるからいいな、くらい」(E君)

「北朝鮮のことはあまり深く考えていません。正直、統一とか言われても、よくわからないですね……」(Dさん)

韓国の若者は日本の若者よりも政治参加意識が高い、というイメージで捉えられがちですが、人にもよるようです。実際、「日本の若者は政治に興味ない人が多く、投票率も低い」という話をしたところ、E君はこう話しました。

「韓国だって同じですよ。20代の投票率は低いですし。僕は今18歳ですが、自分たちより下の世代はもっと政治に無関心だと思います。韓国は学歴重視の国なので若者は勉強に時間を取られていますし、少しでも余暇時間があったら遊びたい(笑)。ニュースもあまり見ませんし、政治がどうなっているかは、僕自身よくわからないです」(E君)

「日本は早く謝ってほしい」

ただ、政治意識の有無にかかわらず、日韓関係となると話は別のようです。

「従軍慰安婦の件では早く日本に謝ってほしい」(B君)

従軍慰安婦問題については、日本政府は1993年の河野談話、また2015年の慰安婦合意で公式に謝罪し、日本側は元慰安婦を支援する財団に10億円を拠出し、支払いが行われてきました。しかし、それに対して彼はこう話しました。

【2019年8月9日9時55分追記】日本が拠出した10億円にかかわる事実関係について初出時より詳細に補足しました

「実際の被害者たちは何ももらっていないし、(安倍首相から)直接謝罪を受けていない。ただ上の人たち同士でやっているだけ。韓国の若者たちも、ただ金を出せばいいのかという気持ちで、納得していませんよ」(B君)

18歳のE君は「政治がどうなっているか、わからない」にもかかわらず、「安倍政権には譲る姿勢を見せてほしい」とはっきり言いました。ただ気になったのは、彼が「安倍首相は従軍慰安婦問題なんてなかったと言っている。それがいけない」と口にしていたことです。

少なくとも私は、日本でそのような報道を聞いたことがありません。政治に詳しくないと自称する彼がイメージだけでそう言っているのか、そのように報道する韓国メディアや口コミが存在するのか、定かではありませんが……。

いずれにしろ、韓国人の日本に対するネガティブな感情は、若者世代であっても、そして政治に興味関心があろうがなかろうが、根強く残っている部分があると感じました。上の世代やマスメディアによる報道や教育によって、韓国の若者たちは日本に対するネガティブな感情を否応なく刷り込まれる面があるのです。「世代が変われば解決する」といった楽観論は、大変残念ながら、令和の時代になってもまだ難しいかもしれません。

一方、そうした両国の対立に困惑している韓国の若者もいます。以前ソウルでインタビューした女子大生に、緊迫する日韓関係について最近聞いてみると、複雑な心境について話してくれました。

彼女は大の日本好きで、バイトで稼いだお金の多くを日本旅行や日本製品を買うのに使い、頻繁に船で九州に友達と来て旅行を楽しんでいました。ところが、最近はその日常が変わっているといいます。

「今、多くの友達は日本製品を使わないようになってきています。(日本が好きだった)私でさえ、です。日本行きの飛行機の値段がかなり安くなってきているので、本音では日本に行きたいんですが、周りの目を考えるとどうしても気兼ねしてしまいます」

そう悲しそうに語っていました。

政治情勢は今後も刻々と変わりそうですが、変わらないものもあります。それが日本のカルチャーへの興味です。次回の記事では、彼らが抱く日本への興味や、韓国国内のトレンドについてリポートします。

(次回に続く)

(構成:稲田豊史)