フードコードの「呼出ベル」が変わると店と社会の働き方まで変わる? ジオネクサスのスマホ化した「EXtimer emo」が目指す近未来ライフスタイル

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サービスエリアや大型店舗などで増えているフードコート。
様々な食を1つのフロアで手軽に楽しめることから人気のスポットでもある。
このフードコートで食事をスムーズに提供しているのが「呼出ベル」だ。

ジオネクサスは、いま、この「呼出ベル」でフードコートから社会をも変えようとしている。

ジオネクサスの「EXtimer(エクスタイマー)」は、
飲食店やフードコートなどの「呼出ベル」を大きく進化させたデバイスだ。
なんと新製品「EXtimer emo(エクスタイマー エモ)」では、富士通製の法人向けスマートフォン「ARROWS M357」を採用している。


■「呼出ベル」が情報端末へと進化する世界
フードコートなどで利用されている呼出ベルは、来店者が料理を注文した際に、料理のできあがりを知らせる小型端末だ。
・呼出ベルを受け取り、自分の席で料理のできあがり連絡を待つ
・商品ができあがると、客に呼出ベルで知らせる
・客は、料理を取りに行き、呼出ベルと料理を引き換える
これが従来の呼出ベルの使い方だ。

「EXtimer emo」は、呼び出すだけの「呼出ベル」を、ショッピングスタイルを激変させる可能性のある情報端末に進化させるという。



株式会社ジオネクサス 代表取締役 武川陽一氏

株式会社ジオネクサスの代表取締役は、武川陽一氏。
最初の就職先で汎用機とパソコンを両立させるシステムを開発するシステムエンジニアの道を歩む。
その後、大手企業のコールセンターやヘルプデスク、サーバ関連業務の立ち上げを経て、オンラインゲーム会社でのエンジニア、社内システム、ゲーム企画、運営にも携わっている。

そしてジオネクサス社の現会長と出会い、仕事を手伝い始めたのをきっかけに、ジオネクサス社の事業がおもしろくなり、一緒にビジネスを展開することを決意。ジオネクサス社の取締役を務めることになった。



株式会社ジオネクサス Call Bell Division General Manager 中川優氏

もう1人のキーパーソンは、株式会社ジオネクサス Call Bell Division General Managerの中川優氏だ。
大手百貨店の法人外商部門で13年ほど営業職を担当した後、
システムエンジニア、ホテルマンを経て、呼出ベルのメーカーに約13年間勤務する。
呼出ベルメーカーを退社後、いくつかの企業を経て、ジオネクサス社の呼出ベル事業で責任者を務めている。

中川優氏
「色んなお店に食事に行って、行列させられるじゃないですか。めんどうだとずっと思っていて。行列を作らず、例えば車の中で待つというような、そういう仕組みがあることを見つけてビジネス的に凄くおもしろいと思い、普通に応募したのがきっかけです。
それから十何年もの間、呼出ベルに関わることになりました。」

実は、これまで「呼出ベル」は、長い間、ハードウェアの端末も、ソフトウェアの用途もほぼ変わっていない。

令和元年のいま、
ジオネクサスのアイデアと技術によって、進化を遂げることになる。
それが次世代呼出ベル端末「EXtimer emo」なのだ。


■利用範囲が格段に広がった次世代機「EXtimer emo」
ジオネクサスの「EXtimer」は、「呼出ベル」に画面を搭載している。
「EXtimer」は、この表示機能を獲得したことで「呼び出すだけのベル」から「デジタルサイネージ」として活用できる端末に進化した。
「EXtimer」は、OSにAndroidを採用し、独自開発されたモデルだ。

「EXtimer emo」は、この「EXtimer」の次世代機となる。
新たにハードウェアとしてSIMフリースマートフォンを採用することで「SIM」を利用した通信サービスの利用までも可能になった。



左が現行機の「EXtimer」、右が新製品の「EXtimer emo」


「EXtimer emo」は、
・コール機能
・メディアコンテンツ配信
この2つの活用ができる。

コール機能とは、
料理などの商品ができあがったことを利用者に知らせる、従来の呼出ベル機能だ。

メディアコンテンツ配信は、
商品ができあがるのを待っている利用者に対して、コンテンツを配信する機能だ。

例えば、フードコートであれば、フードコートがあるショッピングモールでのイベントや施設内の情報などを映像や音声で紹介することができる。

「EXtimer emo」の導入先としては、
・フードコート
・ドラッグストア
・携帯電話ショップ
・美術館
・博物館
・観光地
これらの施設での利用が想定されている。


■なぜ、呼出ベルにスマートフォン? 採用した理由
新製品の「EXtimer emo」は、もはや「呼出ベル」とは言えないほどの情報端末だ。
スマートフォン採用も、オーバースペックとも思える。

あえてスマートフォンを採用した理由とは、なんだったのだろうか?

武川陽一氏
「もともと旧機種のEXtimerは、特定省電力無線を使ってお客さんを呼出しているのですが、その電波は100〜200メートルの範囲しか届きません。

今後、色々なサービスの提供を考えていく上で、電波の届く距離が短いと、色々なところにお客さんを回遊させることができない。そこで、
『SIMで呼び出せばいいじゃないか』
と考えました。

それから、お店からの要望もありました。
お店によっては免税レジが凄く離れているというケースもあって、店外に1度出て待ってもらうとかですね。
要は電波範囲外のところで待つニーズがあったものですから、それを解消したかったのです。」

従来の呼出ベルは、「狭い店内にいる」ことが前提だった。
しかし、様々な店の形や、店の規模が大きくなれば、店外や店内も広大になってくる。
当然のように、呼び出し可能な「距離」も広がっていく。
こうした時代の変化に対応するためには、離れた場所でも繋がるSIMを使った通信環境の実現だったわけだ。



「EXtimer emo」の専用端末は「ARROWS M357」を採用している


スマートフォンを採用した理由には、開発的な事情もあったという。
今までのEXtimerをSIM対応にするだけでは?

武川陽一氏
「EXtimerの次期バージョンを同じメーカーさんに依頼して作ってもらおうとしたのですが、費用も高いですし、時間もかかってしまうことが判明しました。」

新端末の開発でのコスト問題にぶつかっていたところに、
富士通の「ARROWS M357」との出会があった。

富士通に相談したところ「どうぞ、使ってください」と快諾された。
これで「EXtimer emo」の専用端末に採用することで、開発が進められたという。

また、武川陽一氏には、現行のEXtimer開発時から「カメラをどうしても付けたい」という強い思いもあった。

富士通「ARROWS M357」採用により、十分なメリットを得られたのだ。
・SIM対応:遠距離の通信を実現
・開発コスト、開発時間の軽減
・カメラ搭載

ちなみに、専用端末の「EXtimer emo」を利用するのではなく、客の個人スマートフォンに専用アプリや決済アプリをインストールして利用してもらうという選択肢もあったはずだ。

しかし、そうしたアプリでの提供ではなく、呼出ベルの専用ハードウェア「EXtimer emo」として提供することになったのにも理由がある。

中川優氏
「お客さんが自身のスマートフォンにアプリを入れるという作業が、もの凄くハードルが高いんです。私も実際に現場に行って、自分のスマホにアプリを入れて注文してみましたが、かなりめんどうだったのです。」

頻繁に利用する店舗ではなく、立ち寄った店舗で、客のスマートフォンに専用アプリをインストールさせるのは現実的には不可能に近い。
また、来店客すべてのスマートフォンに専用アプリを対応させることも不可能だ。

このため、あらかじめすべてが設定されたハードウェアとして「EXtimer emo」を提供することで、利用者側と店側、両者の負担を軽減し、手軽でスムーズな利用を実現させたのだ。


■盗難リスクはほとんどない?
スマートフォンベースの「EXtimer emo」は、決して安価ではない。
これを客に渡すわけだが、盗難や破損などの心配はないのだろうか?

中川優氏
「盗難リスクへの対応ですが、例えば、お店からある一定距離を離れると、使えないようなシステムにするのもひとつです。

商業施設さんでは、だいたいゲートがあると思うので、そのゲートをくぐると反応するタグを付ける方法もあります。具体的にどういう手法で盗難を防止していくかというのは現在、検討中です。」

ちなみに現行機「EXtimer」の盗難事例は、ほんのわずかだという。

中川優氏
「現行機で言いますと、電波が届かない場所へ行ってしまえば、画面表示が消えて、真っ赤な画面表示になるんです。
その状態ではまったく動かないので、盗難しても意味がないということになります。

もうひとつ盗難されない大きな理由は、
この端末を渡されるということは、お店で何かを注文してもらっていることになります。
1,000円なり2,000円なりのお金を払って、この端末を受け取るわけです。
注文した商品代を捨ててでも、端末を盗むメリットはないでしょう。

あとは、実際の飲食店さんの声なのですが、見るからにGPSを搭載していそうなので、追跡されそうだなという警戒心もあるようです。」

現行機の「EXtimer」は、この2年半で、全国約200店舗、4000台近くを展開している。
盗難されたのはわずかに3〜4台とのこと。


■ショッピングオペレーションを変える「EXtimer」! 働き方も改革へ
現行機の「EXtimer」でも既に、呼出ベル機能以外の様々な試みが実施されている。
さらに「EXtimer emo」では、遠距離の通信が可能になり、スマートフォンと同等の機能を持ったことで、どんな活用法、変化が訪れるのだろうか?



「EXtimer」は5台までクレードルに収納可能、「EXtimer emo」は10台までクレードルに収納可能


中川優氏
「まずオーダリングですけれども、お客さんの利便性の向上ができると思います。
オーダーを非常に簡潔にしようと考えています。

例えば、フードコートのお店に行ったら、この端末をもらい、
席についてゆっくりしながら注文します。
ケータイのQRコードなどで決済が済んだら、
そのオーダーがお店の端末、可能ならキッチンディスプレイに注文が出ます。

料理ができあがったら、この呼出端末でお客さんが呼ばれて、
そこで料理と端末を交換して、席に着いて食事をしていだだく。
お客さんは何度も店に足を運ばなくてもよくなります。

お店にもメリットがあります。いくら人手が足りないとはいえ、
『レジの作業は新人に任せられない』
という本音があります。

オーダーを受ける業務が100%なくなることはないと思いますが、それでもオーダーという業務の効率化を図れます。

お店はお客さんに目配りや気配りをしなくてはいけません。
言い方は悪いですけど、お客さんから目を離せる時間ができれば、店員さんは仕事の意識を、店舗内の業務やスタッフの教育・コミュニケーションなど『中(内側)』に向けられます。
そういった意味で、業務的にも効率化できるのではないかと考えています。」

「EXtimer emo」を活用できる場所はフードコートだけではないという。
レストランなどでも、オーダリングから決済までを「EXtimer emo」で完結することができれば、店舗の人手不足の解消や、高齢者の積極採用にもつなげることができるそうだ。

オーダーを取る、清算作業で人手をとられなければ、店舗側の働き方改革にもつながるわけだ。
一方で、利用者側にもメリットがある
・待たされてイライラすることがなくなる
・注文や清算時の間違いが起こりにくい
・外国語での案内が可能になる

「EXtimer emo」を活用することで、店舗オペレーションを変更、効率化でき、店舗と顧客の双方が快適になれる可能性がある。


■カメラ搭載にこだわったわけは? 情動計測による未来
現行の「EXtimer」と、新製品の「EXtimer emo」で大きく異なる点に、カメラの搭載がある。
なぜ、武川陽一氏は初期構想から一貫してカメラを搭載したかったのか?

武川陽一氏
「なぜ、カメラを付けたかったかというと、情動計測がしたいと考えていたのです。
旧機種(EXtimer)で、アンケートを広告として入れることが多くなってきましたが、やっぱり10%くらいしか、レスポンス(回答)が得られません。

弊社の市場の中の10%というのは、だいぶ大きいのですが、
どうにかして100%に近づけたいなと思いました。

そこで、動画などを見た人の気持ちというか、表示されているコンテンツに対して興味があるかないかを、自動的に取得することができたら、100%に近づけられるのではないかという考えがありました。

色々と調べていたら、千葉大学の教授の論文を見つけまして。
もう2年ぐらい共同研究しています。」

情動計測とは、その人の仕草などから本心を見抜く技術のこと。
例えば、ある質問に対して「はい」と答えていても、心の中では「いいえ」と思っているかもしれない。そうした心の声を読み取ることができる技術だという。



情動計測の必要性について語る武川陽一氏


いったい、人間のどういう情報を元に、情動計測ができるのだろうか?

武川陽一氏
「技術的な話は割愛しますが、顔の動画を撮るだけで、心拍数が測れます。
その心拍数から2〜3分間、少なくとも30〜40秒間、計測すれば、ある程度の情動の変化がわかります。
千葉大学さんが、もともと持っている技術なのです。
現在、千葉大学さんと弊社で、共同でビジネスモデルの特許を出しているところです。」

例えば、動画を「EXtimer emo」で見ていた場合、
「EXtimer emo」のカメラで、動画を見ている人の表情を捉え、分析することで、その人の動画に対する興味の有無が判断できるという。

ジオネクサスでは、個人の表情などから興味や評価を判断するため、個人情報の取り扱いなど、実際の活用にはまだ様々なハードルもあるため、千葉大学や関連企業などと実証実験をおこない、こうした技術で広告や、配信するコンテンツ制作に活かしていきたいという。

武川陽一氏
「弊社の技術であれば、人との距離は近いですし、精度が高い計測ができます。
我々はもともと、そういう市場を持っているので、実証実験でのデータが取りやすいところがあります。
まずは、これで実証実験をおこなってデータを取っていくことが、我々の新しいビジネスが成功する近道じゃないかと思っています。」

情動計測は、企業のコンプライアンスにも活用ができるという。
例えば、「ハラスメントを受けていますか?」と聞かれた場合、
「いいえ」と答えた回答に、忖度や虚偽がないかを判断できれば、正確な職場環境を調査できる。

ジオネクサスでは、本当のことを言えない環境やケースの問題を解消する手段として、ポジティブな方向で活用していきたという。そのために現在、さまざまな企業と実証実験をおこなっているそうだ。

ジオネクサスは、
「いつもの場所と時間をもっと楽しくする」
これをテーマにしている。

そして呼出ベルを
「退屈な待ち時間を、楽しい時間へと変えるデバイス」
こう位置づけている。

利用客には楽しい時間を、店舗には楽し働き場所を、さらに、情動計測の技術が将来の働く環境の改善や働き方の改革に、大きく貢献してくれることに期待したい。


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執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm、関口哲司