稲川淳二も認めた女怪談師が語る「我々はなぜ怪談に魅せられるのか」
真夏の夜のお供といえば、背筋も凍る怖〜い話。このたび週刊女性は、巷で人気を集めている新進気鋭の女怪談師2人に、インタビューを敢行した。
1人目は、牛抱せん夏さん。2010年「稲川淳二の怪談グランプリ2010」にて優勝、女優業と並行して怪談師としての活動を開始した実力派だ。牛抱さんに。なぜ、人々は怪談に魅せられるのかを伺ってみた。
プロから見た「人々が怖い話に夢中になるワケ」
「“人が亡くなっているのだから不謹慎だ”などの理由から、テレビで怪談を見る機会は減っています。一方で、ここ数年、怖い話や不思議な話を求める“怪談難民”が増加しています。テレビでオカルト番組が激減した反動もあって、“見たい”“聞きたい”という雰囲気が高まっているのだと思います。
現在、私は子どもたちに怪談の読み聞かせを行っているのですが、怪談を通じて道徳やモラルを伝える機会にもつながっています。怪談には教育的な側面もあるんですね。だからこそ、口承によって何百年も語り継がれ、文化として成立しているのだと思います。
時代の問題や温度感が表れたり、怪談は常にその時代に沿うように進化し続けていることも魅力です。時代を反映しているからこそ、人は怪談に魅せられ続けるのでしょう」
もうひとり、かわいすぎる怪談師として多方面で活躍中の山口綾子さんにも分析してもらった。
「私は、“世界は覗くためにある”という言葉が好きなのですが、怪談は誰もが気軽に非日常を覗くことができるツールだと思います。今回お話しさせていただいた話はラジカセにまつわる怪談ですが、時代が変わり、今では“スマホの写真アプリで顔を交換したら死んだはずの友人の顔になった―”なんて体験談もあります。
人間はいつの時代も、“見えないものを見たい”“わからないものを知りたい”という好奇心があって、その欲求があるからこそ、覗いてはいけないものを覗いてしまうのかもしれません。
それこそ不思議な体験をすると、誰かに話したくなりませんか?
普通だったら、そんな話は信じてもらえないかもしれないし、聞きたくないかもしれない。でも、怪談ってそういう不思議な体験を浄化してあげられるクッションでもある。だからこそ、老若男女を惹きつけるのだと思います」
では、ここからはお2人による“最恐の”怪談をお楽しみいただきたい。まずは、牛抱さんによる、ブラック企業が生んだ怖すぎる話──。
“ガリガリガリガリ”
このお話は某大手電機メーカーで、システムエンジニアとして働いていた津山さん(仮名)という女性が、実際に体験したお話です。
同僚のひとりに、坂田さん(仮名)という男性がいました。常に時間に追われ、ピリピリとした職場にあって、嫌な顔を見せずに「手伝いますよ」と言ってくれる坂田さんは、チームの中でも頼りになる存在だったそうです。
「これもお願いしてもいいかな」。優しく、人当たりのいい坂田さんに、津山さんたちは甘え始め、彼の仕事量がどんどん増えていきました。
それでも坂田さんは「大丈夫です」と笑い、誰よりも早く出社し、誰よりも残業して、身を粉にして働いていたといいます。
ある日、キーボードを打つ音に混じって、
“ガリガリガリガリ”
という妙な音がフロアに響いていることに、津山さんたちは気がつきました。
音のするほうに目を向けると、白いノートに赤いペンでひたすら三角形をガリガリと書き続けている異様な坂田さんの姿があったそうです。
ヤバい。そう思うと同時に、自分たちが甘えていたことを痛感した津山さんたちは、課長の許可を取り、坂田さんに休むように提案しました。ところが彼は笑いながら頑として拒み続けたそうです。
数日がたったある日、津山さんたちは異臭を感じ取ります。においの先は、坂田さん。誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰っていたと思われていた坂田さんは、なんと家に帰らず、フロアでずっと仕事をし続けていたのです。
「坂田を帰らせろ!」
事態を重く見た課長は、坂田さんの母親に事情を説明し、強制的に自宅静養を命じました。翌日から毎日、坂田さんは出社時間になると、
「本当に申し訳ございません。明日は必ず行きますので」
と律義に電話をかけてきたといいます。ときには会社近くまで来ていたらしく、コンビニで彼を見かけた同僚もいました。
「まじめすぎますよ。今はゆっくり休んでください」
自分たちが話していたのは?
電話や直接会うたびに同僚たちが伝えるようになってから1週間後、坂田さんの母親が突然、職場に来て荷物整理を始めたそうです。
「退職なさるのですか?」
津山さんがそう尋ねると、母親はキッとにらみつけ、
「息子は死にました」
そして、堰を切ったように、「あなたたちと仕事に殺されたようなもの!」と叫び始めました。母親が連れて帰ったその日の夕方、首にボールペンを何度も突き刺して自殺した─というのです。
「そんなバカな……」
警察で司法解剖に回され、母親が来社した日が彼の通夜だったそうです。職場を代表して課長が出席し、坂田さんが確かに亡くなっていたとの報告を受けた津山さんたち。じゃあ、私たちと話していたのは……と全員が顔を見合わせた、そのとき、
プルルルル──。
静寂を破る電話の音。
「明日は必ず行きますので」
間違いない、坂田さんの声でした。津山さんは愕然とし、思わず受話器を落としてしまいました。すると、フロアの前にあるエレベーターがスーッと開くと、そこには坂田さんの姿が。
「今日はすいませんでした。明日は必ず行きますので……ブツブツ」
フロアを徘徊し、自分の席についた彼。その光景を見た津山さんたちは……、なんと「疲れているんだ」と自分に言い聞かせ、仕事を再開したというのです。
斜め前の席で、ブツブツ言い続けている坂田さんと、ふとした瞬間に目が合った津山さん。そのとき─。
「明日も必ず行きますので」
と笑うと、彼はすぅーっと消えてしまったそうです。
続いては、山口さんによる、とあるラジオ番組から流れてきた謎の“メッセージ”の話──。
ガハハハハハ! ガハハハハハ!
私のライブによく来てくださる川田さん(仮名)という方の体験談です。今から数十年前、まだラジカセが主流だった時代、川田さんは『ザ・ベストテン』に出演する歌手のトークや歌を繰り返し聞くために、毎週のように番組を録音していたそうです。
「ああ、やっぱり音楽番組は楽しいな」
その日も川田さんは録音したばかりの放送に聞き入っていました。
ガハッハ ハ ハ。
「あれ? 何の音だろう」
注意深くスピーカーに耳を傾けると、また聞こえてくる。
ガハッハ ハ ハ。
楽しげな出演者のトークに混じって、明らかに異質な音が聞こえる。
ガハハハハハ! ガハハハハハ!
笑い声──。明らかに出演者のものではない大きな笑い声が、何度も聞こえてきたそうです。ガハハハハハ! ガハハハハハ! スピーカーが壊れているのかと思うほど、がさつな高笑いが時折、聞こえてくるのです。
しかし川田さんは、録音されているはずがない、その笑い声に不思議と恐怖を感じなかったと言います。なぜなら、その特徴的な笑い声は、先日亡くなった叔父の笑い声にそっくりだったのです。
「叔父はベストテンが大好きで毎週欠かさず見ていたから、死んだ後も見たいんだ」
思わず川田さんは吹き出し怪奇現象を体験しているにもかかわらず、うれしくなってしまったと振り返ります。
「懐かしいなぁ」。そう思った川田さんは、兄妹にあたる自分の母親にこの笑い声を聞かせてあげようと、母のもとへラジカセを持って行ったそうです。
「お母さん、聞いてみてよ」
何事かわからず、目を丸くしている母親をよそに、再生ボタンを押す。
ガハハハハハ─。ガハハハハハ─。
聞こえてくる叔父の笑い声。戸惑う母に、事情を説明する川田さん。普通であれば信じられる状況ではありません。しかし、お母さんはただただ頷き、
「懐かしいね。きっと大好きだった番組を通じて、私たちに会いに来てくれたんだよ」
と、この状況を受け入れたといいます。家族の絆というのは、奇々怪々な状況にも勝るということかもしれません。涙しながら、録音されたベストテンに聞き入る母親を見て、川田さんはこの不思議な体験に感謝していました。
笑い声が突然……
ガハハハハハ─。ガハハハハハ─。
「ああ、叔父の笑い声だ。天国でも楽しくね」
収録した録音部分がエンディングを迎え、最後に叔父は私たちに何か声をかけてくれるかもしれない。そんな期待を抱いていると、
ガハハハハハハハハハハハ! アヒャヒャヒャヒャヒャ!
高笑いというには、あまりに耳をつんざくように叔父が笑い始めました。
アヒャヒャヒャヒャヒャ!
もはや放送とは関係なく、狂ったようにけたたましく笑う叔父。不気味に感じた川田さんは、停止ボタンに手をかけたそのとき──。
「俺、死んじゃった……! アヒャヒャヒャヒャヒャ!」
!! 川田さんは、とっさに再生を止めました。叔父は番組が面白くて笑っていたのではない。自分の死を受け入れることができずに、ずっと壊れたように笑っていただけだったのです。大好きな歌手、そして家族の声すらも鎮魂歌にはならずに。
アヒャヒャヒャヒャヒャ!
うれしく感じていたはずの声が一瞬にして絶望に。川田さんは、2度とそのテープを聞くことはなかったそうです。
牛抱せん夏 ◎うしだき・せんか。2010年「稲川淳二の怪談グランプリ2010」にて優勝、女優業と並行して怪談師としての活動を開始。朗読や子ども向けの読み聞かせなども行っている。著書に『実話怪談 呪紋』(竹書房文庫)など。
《INFORMATION》怪談イベント『ひぐらし恐』正洞院(東京都台東区下谷2-6-2)にて、8月3日 17時30分〜 詳細はオフィシャルサイト https://ushidakisenkaofficialpage.jimdo.com
山口綾子 ◎やまぐち・あやこ。大学卒業後、某大手製薬会社の営業、タクシードライバーを経て、怪談師・城谷歩に師事。かわいすぎる怪談師として多方面で活躍中。怪談DVD『怪談師 山口綾子の眠れない怖い話』など発売中。
《INFORMATION》4度目の単独LIVEを8月21日、神保町楽器カフェ(東京都千代田区神保町1-15 2F)にて開催。詳細はツイッター、インスタグラムで