eコマースと配送のイノベーションが加速するなか、食料品店のデジタル化を支援するインスタカート(Instacart)の役割も複雑化している。

最高業務責任者のニラム・ガネンスリアン氏によれば、インスタカートは「すべての食料品店をオンラインに進出させる」ため、ビジネスモデルに新たな機能を追加し、収入源を多様化している。たとえば、1時間以内配送とより多くの国をカバーするオーダーピックアップの対象エリア拡大、小売企業のECサイト、デジタルロイヤルティプログラム、オンラインカタログにインスタカートのソフトウェアと後方支援を利用できるインスタカート・エンタープライズ(Instacart Enterprise)の構築、検索や会計、クーポンといった買い物体験の分野に広告商品を増やし、広告事業を拡大していることなどだ。

ウォルマート(Walmart)やAmazonによる買収攻勢、配送サービスの強化は、業界の残りすべてを支援するというインスタカートの役割をさらに明確にした。インスタカートは2018年、3度に分けて12億ドル(約1300億円)を調達。現在の評価額は79億ドル(約8500億円)だ。インスタカートによれば、ほとんどの成熟市場で利益を出しており、一般管理費を控除した1注文当たりの粗利益もプラスだという。

ショッピファイ(Shopify)が直販ブランドの規模拡大を後押ししてきたように、インスタカートも食料品店のオンライン進出を後押ししたいと考えている。eマーケター(eMarketer)によれば、食品、飲料のオンライン売り上げは売り上げ全体のわずか2%だという。つまり、オンラインでの規模拡大の余地はいくらでもあるということだ。インスタカートは主な目標として、はじめてオンラインで食料品を購入した人をうんざりさせないこと、2度目の購入につなげることを掲げている。

「率直に言うと、現在の業界全体のレベルは及第点だ」と、ガネンスリアン氏は話す。「実店舗と同等か、それ以上まで改善する必要がある」。

食料品店をオンラインに進出させるためのロードマップ、Amazonとウォルマートによる配送サービス戦争の影響、自前の食料品店を持たない理由などについて、ガネンスリアン氏から話を聞いた。

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――インスタカートはビジネスの新たな道を切り開いているが、ブランドと小売店の関係における役割をどのように考えているのか?



我々の広告商品を使えば、我々の消費財(CPG)ブランドパートナーは急成長を遂げることができると考えている。オンラインに買い物客が来たら、ブランドは新たな方法で買い物客とつながらなければならない。インスタカートはブランドの代わりに、買い物客が食料品を購入する場所でブランドと買い物客を結びつけ、精度の高いマーケティング、投資利益率(ROI)の測定ができるよう手助けしたいと考えている。

(小売業界の広告は)状況が様変わりし、すべての動きが速くなっている。15年前、私がP&Gでブランド管理のキャリアをスタートしたときは、週1度作成する市場シェア報告書の数字は0.1%増または0.1%減だった。つまり、0.1%単位で市場シェアを争っていたということだ。デジタル環境では、買い物客はオンラインで食料品を購入するとき、誰の商品を買い物かごに入れるかを選択している。デジタル環境のチャンス、そして難題は、いったん買い物かごに入れられたブランドが定番になりやすいことで、実店舗よりはるかにこの傾向が強い。そのため、マーケターたちは買い物かごに最初に入るブランドの座を争っている。我々は実店舗を持つ食料品店に、Facebookやテレビ、Googleから漏れ出した金を勝ち取る手段を提供している。目的はオンラインで食料品店に命を吹き込むことだ。

――食料品業界で現在起きていること、特にAmazon、ウォルマートといった小売企業の活動は、インスタカートのビジネスにどのような影響を与えているか?



我々にとって何より助けになるのは、実店舗を持つ食料品店の業界全体が、顧客がeコマースを必要としていることに気付いてくれることだ。インスタカートはいくつかの転機を経験しているが、そのひとつがAmazonによるホールフーズ(Whole Foods)の買収だ。あれが転換点となり、eコマースのイノベーションがはじまった。

転機を迎えたインスタカートの役割は、300の食料品店のテクノロジーリーダー兼イノベーションパートナーになることだった。ウォルマートとAmazonの動きは我々と我々の小売パートナーに、顧客はピックアップのようなサービスを求めていると教えてくれた。特にウォルマートはそれを実証してくれた。我々がピックアップの対象エリア拡大を進めているのはそのためだ。ライバルたちのおかげで、我々は小売店と手を組み、市場にイノベーションをもたらすことができている。より本格的な企業向けソリューション、より良いサービス、買い物客と食料品店を結ぶ新しい方法などだ。競争圧力ほど我々のプラスになるものはない。追い風のような存在だ。競争圧力を感じることで、小売店は顧客が求めるサービスに気付くことができる。

――自前の店舗やブランドを持つ予定は?



この質問にははっきり答えたいと思う。以前からさまざまな臆測が飛び交っているためだ。自社の商品を持つ、自社のブランドを立ち上げるという意味で、インスタカートが食料品店事業に乗り出すことはない。我々は小売パートナーと仕事をしている。我々の存在意義は、食料品業界のソフトウェア、物流レイヤーであることだ。業界と後方統合することに興味はない。

何より、我々が参入したい業界ではない。食料品店になりたいとは思っていない。さらに言えば、我々にとっては、実務的にも経済的にも無意味なことだ。我々のアイデアは、距離の近さを利用することだった。現在、2万2000の小売店と提携しているが、これらの店舗は消費者のすぐそばにあり、地元の買い物客が求める商品、つまり、地域に合ったブランドを地域に合った価格帯で販売している。インスタカートが業界のパイオニアになることができたのは、距離の近さが重要だと見抜いていたためだ。物流を構築し、商品を安く提供するだけでは不十分で、食料品店のブランドがコミュニティに育まれる必要がある。同じことをしようと試みる企業が現れるかもしれないが、無駄足に終わると我々は考えている。

――今後のロードマップは? IPOの可能性は?



顧客は何を欲しがっているのか、いつその商品を欲ほしがるのか、その商品をどのように入手したいのかといったことについて、小売店がこれらを正確に知ることができるよう取り組んでいるところだ。単純に聞こえるかもしれないが、すべて技術、製品に関する異なる課題を解決する必要があり、すべて異なるレベルの理解を必要とする。

現在、我々は後期の非公開企業だ。ユニットエコノミクスで評価される立場にあり、IPOを考えることも可能だ。我々はこれまで、独立系企業でいるという姿勢を貫いてきた。それが唯一の道だ。独立系企業として株式を公開しないという選択肢もあるが、どこかの時点で、IPOが現実的になるかもしれない。

Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)