レイプの被害にあった17歳のオランダ人少女Noa Pothovenさんが合法的な安楽死により亡くなった、というニュースが2019年6月4日、The Washington PostやDaily Mail Onlineといった大手ニュースサイトによって報じられました。このニュースは世界中にまたたく間に広まりましたが、その後「安楽死ではなかった」ということが明らかになります。なぜ誤報が爆発的に広まったのか、真実は何だったのか?がニュースサイトPOLITICOによってつづられています。

The euthanasia that wasn’t - POLITICO

https://www.politico.eu/article/noa-pothoven-euthanasia-that-wasnt-suicide-mental-illness-anorexia/



Noa Pothoven 'Euthanasia' Story Misreported by U.S. Media

https://jezebel.com/dozens-of-english-language-news-sites-are-misreporting-1835267919

Pothovenさんの死が安楽死ではないことを指摘したのは、ニュースメディアのPOLITICOのジャーナリストであるNaomi O’Learyさんです。O’Learyさんがオランダ語で書かれたオリジナルのニュース記事のライターに連絡をとったところ、「安楽死した」という報道が否定されたとのこと。「10分で確認できることを他のニュースサイトは怠った」としてO’Learyさんは非難しました。





2018年12月にオランダ語のニュース記事を書いたPaul Bolwerkさんによると、Pothovenさんは11歳と12歳の時に痴漢の被害にあい、14歳でレイプされてからは心的外傷に苦しめられていたとのこと。「Winnen of leren」(勝つか学ぶか)という、2018年に出版されたPothovenさんの自伝には、このトラウマによりPothovenさんは何度も入退院を繰り返していたことがつづられていました。Pothovenさんは心的外傷、ストレス障害、うつ病、食欲不振により学校に通えなくなり、過度の低体重ゆえに入院し、強制的に栄養補給を行うため昏睡(こんすい)状態にさせられることもあったそうです。

16歳の時にPothovenさんは両親に秘密でオランダ・ハーグにあるLevenseind ​​clinicに向かい、合法的な安楽死が可能かどうかを尋ねましたが、受け入れてはもらえませんでした。オランダでは自殺幇助法により安楽死や自殺幇助が合法化されており、12歳以上であれば自殺幇助を求めることができますが、その決定には両親が関わる必要があるとされています。これまでのところ、終末医療にある人をのぞき、未成年者が自殺幇助を求めるケースは非常にまれだそうです。

Pothovenさんの家族もPothovenさんを助けるために必死で方法を探したそうですが、未成年者のうつを治療する施設や、入院して拒食症を治療できるような施設が少なく、長い待機リストがあるために適切な治療を受けることができませんでした。電気ショック療法も考慮したそうですが、年齢を理由に断られたそうです。そして、電気ショック療法が受けられないことがわかると、Pothovenさんはそれ以上の全ての治療を拒否するようになりました。



その後、2018年6月頭ごろからPothovenさんはあらゆる飲み物・食べ物を拒絶しだし、医師や両親も無理に食べ物を与えることはしませんでした。そしてPothovenさんは自宅で餓死という形で息を引き取ったそうです。

死の数日前、Pothovenさんは自身のInstagramアカウントに「悲しい、最後の投稿」という内容を投稿しました。Pothovenさんは最後の投稿で以下のようにつづっています。

「要点を言うと、最大でも10日の間に私は死にます。何年にもわたる戦いを経て、私は食べることも飲むこともやめました。たくさん会話し、何度も考え直し、この結論に至ったのです。私の苦しみは耐えがたいものでした。でももう終わりです。長い間、私は生きていませんでした。私は生き抜きましたが、本当の意味で生きていなかったのです。息はしていましたが、生きてはいませんでした」

このニュースはまずオーストラリアで英翻訳され英語記事となりました。オランダのニュースではPothovenさんが安楽死したという伝えられ方はしていませんが、16歳の時に安楽死を求めていたという事実とInstagramの投稿により、誤った内容が記事で述べられることになります。その後、またたく間にニュースが世界中へと拡散されていきました。特に、このニュースは中絶反対を訴える人にとって、「安楽死の非人道さ」を主張するための格好の素材と見なされました。



Pothovenさんの死について、「家族が自殺を止めなかった」という点で安楽死ではないのか?という指摘が考えられますが、定義からしてこれは安楽死とはいえないとのこと。安楽死は「人生を終わらせるために故意に薬を与えること」であり、オランダでは「死をもたらす積極的な介入」と明確に定義づけられています。