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大学生になれば、ゼミやサークルの飲み会に参加することもあるだろう。楽しい時間を過ごす学生がいる一方で、思いがけないトラブルに巻き込まれてしまう学生もいる。

都内の有名私立大学に通うショウヘイさん(大学3年)もその1人。参加したゼミの飲み会で、あるゼミ生が飲み過ぎで倒れ、緊急搬送されたという。

「飲み会には教授も参加していたのですが、事件が起きる前に帰っていました。自分が深夜まで付き添いました」とショウヘイさんは話す。搬送されたゼミ生は一命を取りとめたという。

大学側は、ガイダンスなどで飲酒に関する注意喚起をおこなっている。それでも、飲酒にまつわる大学生のトラブルや事故は少なくない。飲み会で学生に何かあった場合、大学に責任はあるのだろうか。高島惇弁護士に聞いた。

●大学の安全配慮義務違反は「否定される可能性が高い」

ーー法的に考えて、大学は学生の「安全配慮義務」に違反しているといえるのか

「大学の安全配慮義務違反については、残念ながら否定される可能性が高いです。

飲酒死亡事故において、大学の責任を追及した事案は過去に複数あります。しかし、大学生については、児童や生徒とは異なり、その能力や自主性を尊重すべきであるとともに、大学としても学生の共同生活や飲酒態度にまで介入する必要はないとして、下級審判例では大学の安全配慮義務違反をいずれも否定しています。

もっとも、一連の判例は、いずれも1980年代に出されたものです。そのため、飲酒における危険性、とりわけ急性アルコール中毒で死亡しているケースが定期的に報道されている現在においては、大学が負う安全配慮義務の範囲についても、より広範に設定する余地はあるかもしれません」

●状況によっては、教授が責任を問われることも

ーーゼミの指導教授については、責任が問われることはあるのだろうか

「当時の飲酒態様や教授が把握していた状況次第では、飲酒を抑止せず又は救護を怠ったとして安全配慮義務違反を肯定する余地はあります。

実際、福岡高裁平成18年11月14日判決は、漕艇部の部長(教授)の法的責任について、当時アルコールの早飲み競争などがおこなわれていた状況を前提として、『そのような乱暴な 態様の飲酒を伴う場を提供した者としては、それによってもたらされる新入生らに生じるこ とのあるべき危険性に十二分に思いを巡らせ、およそ飲酒による事件事故が発生することの ないよう万全の注意をもって臨まなければならないものというべきである』として、保護義務違反を認定しました(救護義務違反については否定)。

このような考えからすれば、ショウヘイさんのケースにおいても、仮に飲み会で過度なコー ルや早飲み競争がおこなわれているのを認識しながら、教授が注意せずに漫然と帰宅した場合には、学生を監督すべき立場だった点を捉えて安全配慮義務違反などを肯定すべきものと思料いたします」

●大学・店舗・上級生などが注意喚起を

ーー飲酒をめぐる事故を防ぐには、どのようにすればよいのか

「飲酒死亡事故については、被害者が自らの意思で飲酒している可能性もあるため、関係者の法的責任をどこまで認めるべきか非常に難しい議論を含んでいます。

その一方で、文部科学省は、各大学に対し、『学生の飲酒と事故の防止に係る啓発及び指導 の徹底について』という通知を定期的におこなっています。厚生労働省も『アルコール健康障害対策』という形で注意喚起をしています。

このような行政の動きや社会的関心からすれば、大学としてはもちろん、店舗や上級生など、より現場に近い人間が注意喚起することが、事故防止に向けた何よりの解決策であると思います」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
高島 惇(たかしま・あつし)弁護士
退学処分、学校事故、いじめ、体罰など、学校内におけるトラブルを精力的に取り扱っており、「週刊ダイヤモンド」にて特集された「プロ推奨の辣腕弁護士たち」欄にて学校紛争問題が得意な弁護士として紹介されている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp