コーヒーチェーン最大手・スターバックスは今年2月、8年ぶりに主力商品を値上げした。その結果、「顧客愛着度」を大きく下げたことがわかった。調査会社エモーションテックによる「コーヒーチェーンNPS(顧客ロイヤリティスコア)調査」の詳細をお伝えしよう――。
報道各社の取材に応じた米スターバックスのケビン・ジョンソン最高経営責任者(CEO、左)。右は日本法人の水口貴文CEO=2018年11月8日日、東京都中央区(写真=時事通信フォト)

■値上げ前の調査ではスタバは圧倒的1位だった

今回、私たちはプレジデントオンラインの依頼を受け、コーヒーチェーン大手3社のNPS(※)を調べました。調査対象は店舗数1415(18年12月末時点)で最大手のスターバックス、店舗数1113(19年2月末時点)で2位のドトール、店舗数812(18年8月末時点)で3位のコメダ珈琲店です。

※NPSは、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

NPSとは、「あなたはこの商品やサービスを誰かに勧めたいと思いますか」という設問に対する回答を分析することで、既存の顧客満足度よりも収益との相関が高いとされている指標です。欧米の主要企業が経営に取り入れており、NPSを判断材料として用いる投資家も増えています。

この3社は、昨年8月発売のプレジデント誌の記事(プレジデントオンラインにも転載済み)でも調べています。その時点では、スターバックスのNPSは、他の2社より圧倒的に高く、愛着度の高さがうかがえました。

その後、スターバックスは今年2月に入って、8年ぶりの大幅な価格改定を行いました。「ドリップ コーヒー」(ショートサイズ税別280円)や「キャラメルマキアート」(同380円)などは全サイズで10円値上げ。「カフェミスト」(ショートサイズ税別320円)、「抹茶クリームフラペチーノ」(トールサイズ税別470円)などもすべてのサイズで20円引き上げました。

一体、8年ぶりの値上げはNPSに、どう影響したのでしょうか。なお、ドトールも4月3日に乳製品を使用した商品の値上げを発表しましたが、調査はその前に実施されたものです。

設問設計:
 1.あなたは○○(ブランド名)を利用することを親しい友人や知人にどの程度おすすめできますか? ▶0‐10点の11段階で回答
 2.Q1で「おすすめ度:0〜10」の点数をつけるうえで、以下の体験はどのように影響しましたか。業界ごとに設定した「顧客体験」について、「非常にプラスに影響」〜「非常にマイナスに影響」の7段階で回答 ▶さらに「その理由」を自由記述で回答
 3.属性質問(性別、年代、年収、世帯年収)
調査対象:
 スターバックスコーヒー利用者373名、ドトールコーヒー利用者380名、コメダ珈琲店利用者385名
回答取得手法:
 インターネット調査
調査期間:
 2019/3/1〜2019/3/6

■なぜスタバだけが大きくNPSを下げたのか

調査の結果、前回に比べてスタバだけが大きくNPSを下げたことがわかりました。18年7月に調査した際はマイナス16%だったのが、今回マイナス31.7%まで落ちました。もちろん他の2社も多少の変動は見られましたが、8カ月でここまでNPSが落ちる例を、私は初めて見ました。その結果、8カ月前は3社でトップだったスタバは最下位に転落しました。

日本では多くの産業でマイナスに出る傾向にあります。外食店舗のNPSは平均でマイナス40前後です。スタバのNPSは産業平均よりは高いのですが、それでも意外な印象があります。

急落の要因はなんだったのか。私は「今年2月の値上げ」が影響しているとみています。

項目ごとの影響度合を示している「カスタマージャーニーマップ」を見ると、「コストパフォーマンス」の項目がNPSへの影響度が強いという結果が出ているのに、顧客から評価が極端に低くなっており、NPSの押し下げ要因になっていることがわかります。値上げが顧客の愛着度(ロイヤリティー)に悪影響を与えたことは明らかでしょう。

自由回答でも以下のように価格に対する不満の声が多くみられました。

「もともとコーヒーチェーンの中では高めの値段設定だったうえ、最近を値上げしたから、ややコストパフォーマンスについてはマイナスに感じた」
「食事するには高い。セットで買うとお得といった割引があればうれしい」
「特別なときじゃないと手をだしにくい金額だ」

■強みだったホスピタリティーが「当たり前」になったか

項目ごとの数値をみると、「店内の雰囲気・居心地」、「ドリンク・食事の味」についても改善余地はあります。ただ、いずれも「今も悪くはないけど、もっとよくしてほしい」という声ととらえていいでしょう。

また「店員の感じの良さ」も、NPSに対する影響度は少ないものの、押し下げ要因になっています。インパクトとしては小さいのですが、スタバは従業員の会社や仕事に対する愛着度(eNPS)の向上に取り組んでいるとも言われています。あえて細かいマニュアルを設けず、自分たちで考えて接客をするという方針をとっています。

なぜ押し下げ要因になったのか。もしかすると、スタバ特有のホスピタリティーが、初上陸から20年以上が経過し、日本人にとって普通のものになり、目新しさや感動を与えづらくなっているのかもしれません。

なお、今回の回答者は価格に対する感応度が高いことが疑われます。今回の調査では回答者をクラウドソーシングサイト「ランサーズ」で募集しており、回答者の中で一番多かった年収帯は「200万円以下」と低めだからです。なお前回の昨年7月調査でも「ランサーズ」で回答者を募っています。属性の傾向は変わっておらず、スタバのNPSが急落した事実は間違いないと考えています。

■ドトールには「席せまく、隣と近い」との声

次にドトールコーヒーショップです。マイナス29.2%で3社の中で2位でした。前回、18年7月に調査した際はマイナス31%だったので、ややあがっています。

詳細をみると、スタバとの大きな違いがあります。それは「コストパフォーマンス」です。スタバがこの項目について、大奥の顧客が不満を持っているのに対して、ドトールでは消費者が思う適正か価格となっているといえるでしょう。

とはいえ、改善の余地はあります。その一つが「店内の雰囲気・居心地」です。自由回答ではこんな声がありました。

「席せまく、隣と近い」
「席を店内詰め込みすぎている」
「ゆとりがないので、ゆっくりできない」

ここに、NPS向上のヒントがあるかもしれません。

■創業者がこだわった「コメダのソファー」に高い評価

最後にコメダ珈琲店です。コメダは前回の調査では2位でしたが、今回はマイナス19.7%とトップになりました。NPSもマイナス23%から改善しています。

詳細をみると、「店内の雰囲気・居心地」が、スタバ、ドトールに比べて強みとなっています。調査ではこんな声もありました。

「ある程度空間が仕切られている方が落ち着く」
「ソファーの座り心地がよく、ごちゃごちゃしていない」

コメダのソファーは、創業者のこだわりが詰まっています。間仕切りに関してもスタバやドトールではあそこまでしっかりしたものはあまりみられません。配管がむき出しの内装や、デザイン性の高い椅子はないかもしれませんが、ファミリー層やシニア層にはしっかり訴求しています。

「ドリンク・食事の味」「ドリンク・食事の量・ボリューム感」もよい結果がでています。コメダといえば、定番スイーツの「シロノワール」やボリューム満点の「みそかつパン」など人気のフードメニューが多く、それが顧客に評価されていることがわかります。ただの喫茶店に終わらない、コメダの経営戦略が奏功しているといえるでしょう。

■企業の想定以上に、価格に対してシビアになっている

今回のNPS調査では、最大手のスターバックスが3社の中で最下位になるという大波乱が起きました。NPSはすぐに収益に影響が出るとは限りません。しかしNPSの高い企業は、長期的には収益が高くなりやすいことがわかっています。

年々、顧客は思っている以上に、価格に対してシビアになっています。ただ、人件費や物流費が上がっているのも事実です。しかし、そこでNPSを考えずに値上げに踏み込むと後々大きな後悔を生むかもしれません。

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今西良光(いまにし・よしみつ)
Emotion Tech 社長
1982年、東京都生まれ。早稲田大学大学院修了。日立製作所、ファーストリテイリングを経て、2013年に現在のEmotion Tech(エモーションテック)を創業。

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(Emotion Tech 社長 今西 良光 写真=時事通信フォト)