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 昨年12月、『脳卒中・循環器病対策基本法』が国会で成立した。脳卒中や心臓病などの循環器病に対する予防を推進、適切な診療体制の整備も進める方針だ。

血管が詰まって5分で脳死

「脳卒中は寝たきりになる原因の1位。不整脈や急性心筋梗塞、心不全といった循環器病も要介護の原因になります。これらの病気を予防することで寝たきりや要介護状態の人を減らし、医療・介護費用の負担軽減を図りたいというのが狙いでしょう。健康寿命を延ばしたいということも、目的のひとつなのでは?」

 と、医学ジャーナリストで東京通信大学准教授の植田美津恵先生。さらに神経内科医の米山公啓先生は、法制化の背景に、脳卒中をめぐる救急医療体制の問題があると指摘する。

「急性期に脳卒中の専門治療ができる施設は少ないうえ、治療は一刻を争います。心筋梗塞が発症から6時間以内は治療のゴールデンタイム(心臓のダメージを少なくすることができる時間)と言われるのに対し、極端な話、脳梗塞なら脳の血管が詰まって5分で脳死です。

 4・5時間以内に詰まった血管を溶かす血栓溶解療法をしなければならない。救急体制が遅れているとして法制化したのでしょう」

 脳卒中になると、血管が破れたり詰まったりすることで血流が途絶え、脳の神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、さまざまな症状を引き起こす。その種類は大きく分けて3つ。脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、脳内の細い血管が破れる「脳出血」。それから、脳動脈の一部が膨らんでできた動脈瘤が破裂して起こる「くも膜下出血」だ。

「比率としては脳梗塞が圧倒的に増えました。その原因は動脈硬化。血管の内側にコレステロールなどが付着して、血管が狭く硬くなり、血液の流れが悪くなって起こります」

 高齢化が進むと動脈硬化が増え、動脈硬化が進むと、近年、患者数が増えつつあるという「アテローム血栓性脳梗塞」を引き起こす。

「アテローム性の脳梗塞は、脳内の比較的太い血管が動脈硬化になり、血栓ができるなどして血管が詰まって起こります。脳の深部にある血管が詰まるため、左右どちらかの手足に、麻痺やしびれの症状が出ます」

 脳梗塞は突然起こるイメージだが、アテローム性のなかには徐々に進行するタイプもあるという。

「朝は手がしびれる程度だったのが、昼には動かなくなるとか。様子をみているうちに症状が完成してくることもあるので要注意」

 症状は目立たず、本人が気づかないタイプの脳卒中も。「隠れ脳梗塞」「ミニ脳卒中」と呼ばれるものだ。

脳梗塞に気づかない場合は多々ある

「まれに症状が出にくい部分、例えば脳の右側にある前頭葉の血管が詰まるなどして、あまり症状が目立たない脳梗塞もあります。また一過性脳虚血発作のように、24時間で症状が消えて、なんとなく手足が重かったけれど治ってしまい、脳梗塞に本人が気づかない場合も。

 自覚症状がないことはいくらでもありますし、脳梗塞で前兆があるものは2割程度にすぎないのです」

 目立たない症状だと、医師すら見過ごしてしまうケースも少なくないという。

「まったく医者知らずで来た人ほど危ない。軽い症状が出て近所の病院へ初診で駆け込んでも、様子をみましょうとなることが多い。定期的に血圧を測っているような病院があれば、いつもと違うことに気づいてくれて、早く救急病院にたどり着いてダメージが軽くすむ可能性がある。ちょっとした変化に気づいてくれるかどうかは大きいですよ」

 自覚症状もなく、前兆もつかめず、かかりつけ医もいない場合はどうすれば?

「まず、血圧が高ければ下げる。最大の予防になります。コレステロール値も、特に悪玉のほうを下げる。それから禁煙しなければ始まらない。生活習慣病で喫煙は圧倒的なデメリットになります。

 飲酒も昨年、イギリスのランセットという有名な医学専門誌に、酒に適量はないとする研究報告が載りました。飲酒量が増えれば、脳卒中や認知症、食道がんのリスクも上がっていくとされています」

 血管の病気が症状として現れるのは20年〜30年後。その期間を血圧が高いまま過ごせば、血管はもたない。未来の自分や家族のため、今日から取り組んでいこう。