山梨県北杜市の太陽光発電設備(記者撮影)

経済産業省による再生可能エネルギー電力の固定価格買い取り制度(FIT)の見直し案が、太陽光発電業界に波紋を投げかけている。

経産省は10月15日の審議会で2012〜14年度にFIT認定を得ていながら、いまだに稼働できていない太陽光発電事業を対象に、買い取り価格の引き下げや買い取り期間の短縮に踏み切るとの方針を発表。「未稼働案件に適切に対処することは、国民負担の抑制と新規開発の促進に資する」(山崎琢矢・新エネルギー課長)と理解を求めた。

FIT制度では発電事業用の太陽光発電設備(出力10キロワット以上)について、当初決めた価格で20年にわたって電力会社が買い取る仕組みが設けられてきた。今回、経産省はFIT法に関する省令を改正し、「未稼働案件」の一部について、より実勢に近いコストに基づく価格への引き下げを実施する。

いったん決めた買い取り価格を引き下げ

具体的には、2019年3月末までに系統連系工事(送電線につなぐ工事)の着工申し込みが受領されていない案件について、従来の買い取り価格を大幅に引き下げる。2012年度および2013年度、2014年度に認定された案件の買い取り価格は現在、それぞれ1キロワット時当たり40円、36円、32円だ。2019年3月末までに系統連系工事の着工申込受領がなされず、2019年度および2020年度にずれ込んだ場合、これらを2017年度時点の価格である21円や2018年度時点の18円にそれぞれ見直す。


経産省は11月21日までパブリックコメント(意見公募)を実施しており、寄せられた意見を踏まえて、早ければ12月5日にも最終案を公表する。

経産省によれば、今回の制度改正の背景には再エネをめぐるいくつもの大きな問題がある。第1に、電気料金に上乗せして徴収されている再エネ賦課金の増大だ。2018年度の1年間だけで消費税の1%分に相当する2.4兆円に達する。再エネの発電量がこのままのペースで増え続けた場合、2030年度時点に年間3.1兆円と想定された賦課金額を前倒しで到達してしまう。賦課金の急速な増大には、日本経済団体連合会など経済界の反発も強い。

また、高い買い取り価格の権利を持ったまま、一向に稼働しない案件が大量に存在している。送電線に空きが生まれず、新たな太陽光発電投資が行われにくくなるといった弊害も指摘されている。経産省によれば、2012〜2014年度の事業用太陽光発電の認定案件のうち、未稼働のものは約2300万キロワットにものぼっている(同期間の認定案件のうちですでに稼働したものは約3000万キロワット)。そのうち、今回の制度見直し対象となるのは、2017年の改正FIT法施行時に運転開始期限が設定されなかったもので、1100万キロワット弱〜1700万キロワット弱にのぼると見られている。

経産省案に事業者が反発

だが、劇薬とも言える今回の経産省の方針に対して、事業者の反発は大きい。

太陽電池メーカーや太陽光発電事業者など140社・団体でつくる太陽光発電協会は11月22日、「未稼働案件問題」に関する記者会見を開催した。増川武昭事務局長は「いったん約束された買い取り価格と買い取り期間が遡及的に変更されることになり、事業者や投資家、金融機関から、FIT制度の安定性や信頼性、事業予見性が損なわれることを危惧する声が多く挙がっている」と指摘。系統連系工事着工申し込み期限の先延ばしなど、軌道修正が必要だとの考えを示した。

同協会が11月に実施したアンケート調査には29社が回答。合計設備規模約310万キロワットのうち、「稼働できなくなる可能性」が「確実」「極めて高い」「高い」としたのは計228万キロワット。すでに投資した金額は約1680億円、未稼働となった場合の施工会社や金融機関などへの違約金等が約1210億円にのぼるという。

太陽光発電事業の法務に詳しいベーカー&マッケンジー法律事務所の江口直明弁護士は「これほど大きな制度変更であれば、周知期間として1年は必要。経産省の問題意識は理解できるが、訴訟が頻発する可能性がある」と指摘する。

メガソーラー発電所を多く手掛けるスパークス・グリーンエナジー&テクノロジーの谷脇栄秀社長は「当社でも、すでに融資契約を結んでいて着工している案件の中で、投資収益に影響を受けるものがある」と明かす。というのも、今回の改正案によれば、運転開始期限が設定されるためだ。現時点の案では系統連系工事の着工申し込み受領時から1年以内に稼働できない場合、遅れた分だけ買い取り期間が短くなる。

法改正ではなく、省令改正で買い取り価格を引き下げることについて、前出の江口弁護士は「FIT法で経産相に与えられている委任権限を逸脱する」と指摘する。

一方、FIT法では、電力の供給が効率的に実施される場合に通常要すると認められる費用に適正な利潤を勘案して買い取り価格を決めるとしている。「認定取得から年月が経過する中でパネルの価格も大幅に下落している。その結果として、当初予定していなかった超過利潤が生まれることが問題だと認識している」(経産省・山崎課長)。

経産省を支持する意見も

ただ、こうした未稼働案件が積み上がる事態は、FIT法が施行された2012年時点で想定されておらず、経産省も当時、導入促進を急ぐ中で、買い取り価格見直しや運転開始期限のルールを設けていなかった。

今回の経産省の方針を強く支持する意見もある。岡山県で国内最大のメガソーラーを稼働させた、くにうみアセットマネジメントの山粼養世社長は「未稼働案件のFIT価格引き下げには賛成だ」と語る。「実現できるかどうか、はっきりしない案件のために貴重な系統容量が占拠されてしまっていることが再エネの導入を阻害している。こうした状況を是正することは正しい」。

その山粼氏も制度変更によるマイナス影響を危惧する。「運転開始期限が1年後に設定された場合、案件が大型であるほど運転開始期限までに完成できないケースが多くなると考えられる。FIT期間が短くなって投資収益率が低下した場合に、事業中断も起こりうるし、投融資の回収が困難になるケースも考えられる」という。

また、山粼氏は許認可の取得が終わらないために未稼働状態が長引いている案件について、「買い取り価格が下がることはやむをえない」としつつも、「その場合、安い価格のパネルへの変更を認めて欲しい」(山粼氏)と主張する。

未稼働案件をめぐる問題は、FIT法制定当初、事業者に有利すぎるルールを認めてしまった後での軌道修正の難しさを物語っている。