フォードの世界本社、ミシガン州のディアボーン(写真:iStock/wellesenterprises)

かつて、世界最大の工業国であったアメリカ。

自動車王ヘンリー・フォードが導入した自動組み立てラインに象徴される大量生産技術は、アメリカ製造業の生産性向上と大幅なコスト削減による製品価格の低下と賃金上昇を実現させた。欧州や日本のような世界大戦による損害を免れたアメリカは、世界中に工業製品を提供すると同時に、国内においても自動車や家電製品が一般家庭に普及、彼らのライフスタイルは豊かさの象徴として羨望の的となった。

現在のアメリカはどうか?

舵を取るトランプ大統領は、その支持基盤の中心が製造業を担ってきた白人中間層ということもあってか、かつての栄光を取り戻そうとばかりにアメリカ第一主義を掲げている。

日本や中国、メキシコなどをやり玉に挙げながら、製造業の国内回帰と雇用回復を叫んでいる。古き良き時代を支えてきたアメリカの製造業はいまどうなっているのか。

『米国会社四季報』をベースにアメリカの主要企業を紹介する連載として、第2弾の本稿では重工業を主体とする製造業を取り上げる。

破綻、復活をへて自動車業界は新市場へ

自動車の街として知られているデトロイト。財政破綻し、いまや貧困率の高さや治安の悪さのほうが有名になってしまったが、現在でもゼネラル・モーターズ(GM)が市内に、フォード・モーター(F)も隣接するディアボーンに本社を構えており、自動車の街という位置づけは変わっていない。


アメリカの自動車産業は2008年のリーマン・ショックにより大きな打撃を受けた。当時のビッグスリー筆頭のGMは2007年まで77年間にわたり販売台数で世界ナンバーワンの座を誇ってきたが、2008年にトヨタ自動車にその座を明け渡すと、翌2009年に破綻し国有化された。

その後、資産の整理などを実施し、新生GMとして2010年に再上場を果たしている。

2017年の世界販売台数は960万台で世界第4位、現在はアメリカ国内のほか中国での展開を強化している。

韓国やオーストラリアの工場を閉鎖するとともに、赤字続きで不振にあえいでいた傘下の独オペルをフランスのPSAグループに売却し、欧州から撤退した。

GMのブランドはシボレー、ビュイック、高級車のキャデラックなどがある。

いずれも、われわれ日本人が“アメ車”と称する大型タイプのクルマが大半だ。この夏には、ホンダと次世代EV向けの電池とモジュールの共同開発を発表するなど、電気自動車(EV)への取り組みも強化している。

一方のフォード。破綻こそ免れたものの、傘下にあったマツダの株式売却、ボルボの中国企業への売却などを行うと同時に、商品開発・生産体制を一本化。それによって誕生した同じモデルの車種を世界中に販売する「ワン・フォード」戦略を採用し、体質の強化を図ってきた。

フォードは、スポーツタイプのマスタングやSUVのエクスプローラーなどのいわゆるフォードブランドと、ワンランク上の位置づけとなるリンカーンブランドでの展開を行っている。売上高では、やはりアメリカ国内が6割強と大半を占めるが、欧州が2割、アジア太平洋地域も1割あり、グローバルでの幅広い展開が行われている。ちなみに日本市場からは、2016年に完全撤退している。

テスラの今後はどうなるのか

この業界で、いま最も重要なテーマの1つがEVだ。環境問題の高まりを背景に、急速にEVシフトが進んでおり、日中米欧の各自動車メーカーが開発にしのぎを削っている。そのなかで異色なのは、2003年に誕生したベンチャー企業のテスラ(TSLA、当時の社名はテスラモーターズ)だ。

テスラのラインナップは、これまで高級セダンのモデルSとSUVのモデルXが2本柱だったが、価格を抑えた普及タイプのモデル3の量産体制がようやく整い、3本目の柱に育ちつつある。コストや開発費負担が先行し赤字が続いていたが、2018年7〜9月期決算で黒字に転換した(2018年12月期通期ではまだ赤字の見通し)。

テスラはEVだけにとどまらず、キーデバイスであるバッテリーも強化している。また2016年に太陽光パネルのソーラーシティを買収すると、翌2017年2月に社名をテスラモーターズからテスラに変更した。EVだけにとどまらない総合エネルギー企業としての姿を打ち出している。


アメリカの製造業は多くの業種で競争力を失っていった面は否めないが、航空・軍需産業はいまだに圧倒的な優位性を保っている業種の1つだろう。

代表格がボーイング(BO)だ。1997年にマクドネル・ダグラスを買収し世界最大の航空機メーカーとなり、現在、民間航空機分野では仏エアバス社と市場を二分している。かつてはB747ジャンボ機が主力だったが、現在ではLCCの増加などで小型機の需要が増えていることから、B747の生産から撤退することが決まっている。

軍用機ではF15やF/A18スーパーホーネット戦闘機、軍用ヘリAH64アパッチ(いずれも旧マクドネル・ダグラス社開発)などがある。このほかロケットエンジンや防衛システム、人工衛星なども手掛けており、直近は衛星ソリューションなど宇宙事業の拡大に注力している。

軍需産業ではどうか

軍用機ではロッキード・マーチン(LMT)が最大手企業だ。日本ではその名前は田中角栄首相が逮捕されたロッキード事件で知られている。旧ロッキード社は1981年に民間機事業から撤退し、その後は1993年にゼネラル・ダイナミクス(GD)の戦闘機部門を買収、1995年にマーチン・マリエッタと合併し、現社名となった。2015年にはユナイテッド・テクノロジーズ(UTX)傘下のヘリコプター製造部門シコルスキーを買収するなど、軍需部門のさらなる強化を図っている。

前段で登場したゼネラル・ダイナミクスは、ビジネスジェットのガルフストリームを傘下に持ち、祖業の潜水艦、戦車や装甲車などの軍用車両、政府機関向けや軍事用のITサービスを手掛ける。2018年2月に同業のCSRA社を買収し、ITサービス部門の一段の強化・拡充を狙っている。

ユナイテッド・テクノロジーズは、航空機やロケットエンジンのプラット・アンド・ホイットニー、空調・セキュリティのUTCクライメイト、民間航空機向けシステムのUTCエアロスペース、エレベーターのオーチスの4事業で構成されている。2017年9月に航空機の電子機器や通信・管制システムなどを政府機関や民間企業に提供しているロックウェル・コリンズ(COL)の買収を発表、まもなく完了する見込みだ。

トランプ大統領が掲げるアメリカ第一主義は、自国産業保護のための通商政策にさっそく反映されている。その1つが今年3月から実施されている鉄鋼・アルミへの関税賦課だ。鉄鋼やアルミ製品の輸入が米国産業を弱体化し、安全保障の脅威にもなるとして、鉄鋼・同製品に25%、アルミ・同製品に10%の追加関税を賦課される。国内の鉄鋼メーカーとアルミメーカーはその恩恵を享受することになるはずだ。

米国最大の鉄鋼メーカーであるニューコア(NUE)は、鋼板、棒鋼から鉄鋼製品まで製造・販売を行っており、2017年の粗鋼生産量は世界11位に位置している。小規模な電炉による効率生産が同社の最大の特徴で、メキシコにJFEスチールとの合弁で会社を設立し、自動車向け鋼板の生産を行っている。1901年創業の老舗USスチール(X)は、米国内では主力のゲーリー製鉄所など五大湖周辺を中心に、米国外では中欧スロバキアに高炉を持つ。

2017年の粗鋼生産量は世界26位。同社も神戸製鋼所との合弁拠点で自動車向け鋼板の生産を拡大している。

アメリカ最大のアルミニウム製造企業だった旧アルコアが2016年に分社化し、ボーキサイトやアルミナ、アルミニウム鍛造などの上流部門を担うアルコア(AA)と、航空機向けジェットエンジンやガスタービン、自動車や建築資材向け製品など下流部門を担うアルコニック(ARNC)が誕生した。分社化後は両社ともにさまざまな改善を進めてきており、2018年12月期は業績回復が見込まれている。

トランプの保護主義がどこまで影響するか

鉄鋼・アルミ関税はアメリカ企業にプラスばかりではないようだ。トランプ大統領が「大好きだ」と公言していた建設機械で世界トップのキャタピラー(CAT)、世界的な需要拡大を受け、2018年7〜9月期の純利益は63%増と大幅な増益となった。にもかかわらず、今4〜6月期決算時に公表していた18年通期の利益見通しを据え置いたことで、市場では鉄鋼関税による材料コスト上昇が収益の重荷となると判断され、株価が大きく下落している。

この鉄鋼・アルミ関税の導入に対し、EUは二輪車などのアメリカ製品に25%の追加関税を付加する報復措置を発動した。これに反応したのが、日本でも根強い人気の大型バイクを製造・販売しているハーレーダビッドソン(HOG)で、生産の一部をアメリカ外に移転することを発表した。

同社の公表資料によると、2018年1〜9月までの9カ月間の登録台数は、アメリカ国内が前年同期比8.7%減の22.2万台に対し、欧州は同0.6%増の34.8万台となればうなずける話だ。もちろんトランプ大統領がこれに即座に反応し、痛烈な批判を加えたことは言うまでもない。

日本ではあまりなじみがないが、「ジョン・ディア」ブランドのトラクターなどで知られるディア(DE)。世界最大の農業機械メーカーで、農業機械のほか小型のブルドーザーやフォークリフトなど建設土木、林業向けの機械、ガーデン用の芝刈り機なども展開している。あわせて部品販売やメンテナンス、ファイナンスも行っており、これらの部門がしっかり収益を下支えしている。

最後にゼネラル・エレクトリック(GE)にふれておきたい。発明王エジソンの電気照明会社に起源を持つ同社は、1980年代に伝説の経営者と呼ばれたジャック・ウェルチのもと、M&Aを駆使し急拡大した。発電、エネルギー、航空、輸送機器、ヘルスケア、金融など幅広くグローバルに事業展開してきた。だがリーマン・ショックで大きな打撃を受け、以降は創業以来の主軸だった家電部門、金融部門、石油・天然ガス部門などを相次いで売却した。

依然としてアメリカには世界有数の企業がある

ニューヨーク株式市場の指標として1896年から算出されているダウ工業株平均株価は日本のニュースでもおなじみだ。周知のとおり、各業種の代表企業30社で構成されており、時代に合わせて銘柄を入れ替えてきた。そんな120年を超える歴史の中で、GEは唯一、算出当時からずっと構成銘柄に名を連ねてきたが、2018年6月に、ついに外れた。


アメリカは、言わずと知れた世界最大の経済大国で、そのGDP規模は2017年で19.5兆ドル(名目、2017年末の為替レート1ドル=113円で換算すると約2200兆円)と、日本の4倍に達する(日本の名目GDPは546兆円)。このうち製造業の比率は1950年代から一貫して下がり続け、2017年ではわずか11%にすぎない(日本は21%)。

それでも、それぞれの業種において世界有数の企業が存在する。企業同士が合併し、事業の一部を切り離したり買収したり、絶えず変化を繰り返している。新しい企業も誕生し、力をつけてきている。

そこはやはりアメリカ。衰退しているといわれて久しいが、必ずしもそう断言できない姿が見えてくる。