神保町の地下名店「ばーんせっと」 粋な昭和喫茶で絶品ココットを堪能
東京・神保町から少し外れたビルの地下。本当にこんなところで商売が成り立つのか疑ってしまうほどの静けさの中で、喫茶店「ばーんせっと」はひっそり営業を続けている。
「ばーんせっと」のグラタン
駅からも離れ、人通りもそれほど多くない。そこからさらに潜ってみると絶品グラタンやココット。昔ながらのスカッシュなど予想を超える楽園があった。
日本教育会館の地下で40年
今回訪れたのは神保町。靖国通りから一歩外れ、皇居の方へと歩を進める。数分歩くと神保町の代名詞とも言える「古本街」の様相はなくなり、ちょっと落ち着いたビジネス街になる。車通りも減り、都心部としてはかなり静かな部類に入るだろう。
靖国通りから徒歩で5分程度、今回の目的地である日本教育会館に着いた。
日本教育会館
ビル名では中々通じないが、この中に入る一ツ橋ホールはトークショーやイベントが良く行われており、名の知れたホールだ。
今回はホールのある上階ではなく地下に入る。正面玄関の左、「Restaurant」と書かれた白い枠のある入り口がある。
地下への入り口
明るい日中とはいえ、中が暗く見えにくい。隣には店の一覧表があるが、とても入りやすいとは言いにくい。
中に入り、古い地下鉄の入り口のような階段を下ると、レストラン街が現れる。
地下のレストラン街
下に降りると時間が一気に昭和に戻ったかのようだ。少し年季が入った壁やエレベーターが目立つ。この場所の一番奥に「ばーんせっと」は店を構えている。
「ばーんせっと」の外観
ライトがついていない最深部の手前、木製の看板とメニュー表が目印だ。
店内に入るとエリック・クラプトンがカバーしたボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの名曲「I Shot The Sheriff」が流れている。人の出入りが激しいメインストリートの飲食店と違い音楽が優しく流れている以外はとても静かだ。
「ばーんせっと」店内
少し狭い店内はクリーム色のライトで照らされ、ちょっとお洒落な友達の家に遊びに来た気分になる。顔出しはやめてほしいとのことで写真は載せられないが、赤いエプロンが似合う優しい店長と店員さんの2人が出迎えてくれる。
最初に筆者はコーヒーではなく、オレンジスカッシュを頼んだ。
「ばーんせっと」のオレンジスカッシュ
カットしたオレンジが丸ごと入っており、手作りのため過剰な色付けもされていない。大手飲料メーカーが出しているオレンジの炭酸飲料を想像してしまうと大分風合いは異なる。しかし、オレンジの酸味と炭酸水の刺激がわずかな甘みの心地よさを引き立ててくれる。
グラタンセット
次に注文したのはグラタンセットだ。「ばーんせっと」にいくつかある軽食セットの1つでほかにはチリビーンズなどがある。
セットについているサラダスパゲティからいだいた。クリーミーなスパゲティにさっぱりとした和風ドレッシング、レタスを絡めて食べる。少し余韻の残る食感にキレの良い塩味の相性は抜群だ。
次にセットのメインであるマカロニグラタンを食す。
スプーンですくったグラタン
すくった瞬間にチーズが伸びるわけではなく、少し熱でとろみをつけた軽やかなホワイトソースが目に付く。中にシーチキンが入っており、ほろ苦さと塩味、トウモロコシの甘みがあり、バラエティに富んでいながらバラツキがなく、絶妙なバランスの上で味が立っている。どの味が欠けても違和感がありそう。それぞれ役が与えられ意味を持つ演劇のようなグラタンだ。板橋のパン屋から取り寄せられた薄皮のクロワッサンと一緒に食べれば新たに食感も加わり、満足感が広がる。
卵のココット
次にいただくのは卵のココット。円形の小さな器が特徴だ。外周で油が沸き立っているが、この油の柔和な匂いが食欲をそそる。
到着してすぐ食べると熱すぎて食べられないのが玉に瑕。少し間をおいて油が落ち着いたら食べごろだ。醤油か塩でいただくが、筆者は塩をかけて食べた。
スプーンですくった卵のココット
スプーンを入れると少し抵抗感のあるいじらしい白身と程よく熱が入った黄身が姿を現す。弾力がありながらすぐ崩れる白身、ホロホロとした硬さの黄身の食感が心地よく、塩をかけたことで黄身の甘さが引き立ち、さながらスイーツのようだった。
アイスウインナ
食後にはアイスウインナと変わり種のコーヒーをいただいた。ホイップと薄くスライスされたチョコ。グラスのかさもあるので、通ぶらずに混ぜて飲む。
ホイップの軽い甘さ、その下をコーヒーの酸味と苦さが通り、味が一気に引き締まる。仕事をさぼってもう少しゆっくりしたい―― と邪悪な考えが生まれてしまうほど落ち着く味だ。
どの品も昭和から続くレトロな喫茶店でいただける貴重なメニューばかり。店長さんによると日本教育会館の地下で40年続けており、防災の関係で2006年に今の場所に移動した。店長さんにこの独特な場所での営業について聞くと、
「のんびりしてられる。ゆったりしていられる」
ことが最大魅力だという。
中への入りづらさがかえってゆったりとした空間を生み出していたのかもしれない。
(Jタウンネット編集部 大山雄也)