[鈴木佑介のLook AHEAD -未来に備える映像制作- ]Vol.09 BMPCC 4Kはフルフレームミラーレス動画時代への処方箋

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txt:鈴木佑介 構成:編集部

NAB2018での発表からおよそ半年。本当に9月に発売するの?と半信半疑だったBlackmagic Pocket Cinema Camera 4K(以下:BMPCC 4K)の出荷が9月末日、ついに始まった。ただ、初回入荷数はかなり少なく、入手が困難な中、筆者は1台を運良く手にすることができた。定期的には入荷するようなので、予約をされている方は、もう少し待っていて頂きたい。

早速BMPCC 4Kの到着から数日、仕事での運用の前に行ったテスト結果をみなさんにシェアしていきたいと思う。まずは代表的な機能と実際の使用感からはじめたい。

(1)パッケージ内容

BMPCC 4Kのパッケージングは、いたってシンプルだ。

  • 本体
  • バッテリー
  • ACケーブル
  • DaVinci Resolve Studio(アクティベーションキー)
  • マニュアル(SDカード)

まるでApple製品の様に美しくパッケージングされている。

バッテリーはLP-E6。互換製品でも大丈夫だが、%表示がされないものもあるので注意。Canon純正品はきちんと%表示がされる。実際の持ち時間としては1本で40分程度。バッテリーが少なくなっても特にアラートなどは出ないの長回しには注意が必要だ。

(2)ボディについて

5インチの背面スクリーン

BMPCC 4Kの発表時、その形状から大きい、重そう、という印象を受けたかもしれないが実際手にしてみると想像以上に軽く感じ、持ちやすい。

URSA Miniと同様の優れたタッチスクリーン式のUI

BMPCC 4KのUIだが、ボタン、スイッチ類も良い配置になっている。マニュアルを読まずとも、直感的に操作することができた。グリップにはダイヤルがあり、基本アイリスの操作が割り当てられているが、WBやシャッタースピードなどを選択した際はアクティブになっているものの操作がダイヤルで可能になる(後述するが、液晶のタッチパネルでもこれらの操作は可能)。録画ボタンの横にカメラマークがあり、押すと約800万画素の写真も撮る事ができる。また、録画ボタンはボディ前面にもある。

カメラ上面には録画ボタン、シャッターボタン(写真も撮ることができる)、ISO、シャッター、ホワイトバランスの3つのボタン、ファンクションボタンが3つあり、デフォルトでは

F1:フォルス・カラー
F2:ディスプレイ LUT
F3:フレームガイド

となっていて、筆者はF3にフォーカス・ピーキングに変更している。

BMPCC 4K最大のウリは背面の5インチの大型液晶画面であろう。一言、とにかく綺麗で見やすい。よほどの晴天下で無ければ外でも視認できる。外で画面が見えなくて露出が取りづらい時はフォルス・カラーを使うと撮影しやすい。

フォルス・カラーの表示色

フォルス・カラーは入力画像を輝度別に異なる色で表示することで、カメラの露出合わせをアシストしてくれる機能だ。白飛び、黒潰れ、適正露出を色で表示してくれるので露出状態を視覚的に確認することができる。BMPCC 4Kの場合ピンクからグリーンになるように適正を取るようにすれば良いのだ(表参照)。

白飛びの部分は赤で表示される露出調整が的確にできる

とにもかくにも、すべては画面が大きい、という事が最大の強みだ。画面が大きければ大きいほどフォーカスの確認、バレモノ、様々なものに「気が付くことができる」のだ。バリアングルでは無い固定式だが、もう小さなモニターには戻れないだろう。また、この液晶はタッチスクリーンになっていて、ボタン以外の操作はタッチスクリーンで行う。設定できる項目が多いので、ここでは省略する。これは実際に触ってもらうと感動モノなのだが、反応速度がすばらしく、とにかくわかりやすいUIになっている(URSA miniと同様のことだが、筆者は初体験)。

タッチでもAFが効く(レンズ側をAF設定必要)

ボディの背面、液晶の右横上部にはズーム表示ボタンとAFボタンがある。AFについてだが、あくまで「オートで合焦」させるためのAFだ。既存の一眼ムービーのようなAFのような追従性はないが「手っ取り早くフォーカスを合わせる」AFとしては想像以上に使える。レンズ側をAFに設定しておくことが条件になるが、状況によっては使えるだろう。また、さりげなくタッチフォーカスでもAF操作が可能だ。

背面スクリーンを上にスワイプすると画面表示が消え、下にスワイプすると再表示される。フォーカス拡大時には指先でズーム位置を変更できる

そして液晶の表示は上にフリックすることで消え、下にフリックすることで再表示される数多くのカメラを触ってきたが、こんなにUIに不満が無いカメラは初めてだ。とにかく直感的に触ることができるのだ。全ての国内メーカーにこのUIを真似して欲しいと心から思う。余計な機能を削除し、必要な機能がわかりやすく並んでいる。思いやりと思い切りを感じるのだ。「デザインとはかくあるべき」このBMPCC 4Kで筆者が一番気に入っているポイントがこのUIだったりする。

(3)レンズ

OLYMPUS 12-100mm F4 ISを装着したBMPCC 4K。手ぶれ補正の効きがとても良く、描写も良い

BMPCC 4KはM4/3マウントを採用しているということで、ネイティブ/アダプターを使用してのEF/G/オールドレンズなどご存知の通り、多様なレンズの選択肢がある。筆者が「標準レンズ」として選択したのがOLYMPUS 12-100mm F4 OSだ。35mm換算で24-200mm F4で手ブレ補正がついているというフルフレームでは実現が難しい、超便利ズームだ。以前筆者がGH4(M4/3マウント)を使用していた頃には発売されておらず、使ってみたいと思っていたという理由でチョイスをしたのだがこれが完全に大当たり。

まず手ブレ補正の効きが素晴らしく良い。少しコツは必要だが換算200mmでも全然ブレない。またF4通しということもあり画質には正直期待をしていなかったが、なかなかどうして。プライムレンズと比較してしまうともちろんアレだが十二分の画を見せてくれる。奇しくも初回ロットを手にした数人の友人ビデオグラファー全員がこのレンズをチョイスしており、一様に同じ感想を持っていたのもお伝えしておきたい。レンズが手に入るタイミングで買っておくことをオススメする。OLYMPUS 12-100mm F4 ISはポケシネ4Kの標準レンズと言っても過言では無い。

(4)撮影テスト

今回はBMPCC4Kと12-100mm F4 OSを手持ちで使用してのテスト撮影を行い、撮影したものはLUTを使わずにグレーディングを施した。設定はUHD 4K24pでのRAW(Cinema DNG 3:1)撮影。メディアはCFast 2.0 Sandiskの512GBのものを使用し、内部収録を行った。

いくつかの条件下で使用してみたが、まず撮影してみての全体的な印象は、発色が素直で色が出てくるのがとにかく早い。「コントラストが綺麗にハマると発色する」ことを地でいく感じだ。RAWで撮影したものはDaVinci Resolve上で「デコード」(要するに現像処理)が必要になるのだが、ここでパラメーターをいじるだけでプライマリグレーディング(ノーマライズ)は終わり、すぐにセカンダリグレーディング(演色)作業へと入ることができる。もちろん普通にノードでのグレーディングも可能だ。コントラストをいじって、少し調整かけるくらいでプライマリがあっという間に終わる。

グレーディング前
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グレーディング後
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13stopのダイナミックレンジなだけあってシャドウからハイライトまで素晴らしい階調表現をしてくれる。これが15万のカメラでいいのだろうか

そして13ストップのダイナミックレンジ、12bitの情報量は伊達じゃ無い。写真を見ていただきたいのだが、従来のビデオではハイライトを飛ばすか、黒を潰すか選ぶしかないような表現が難しい状況下で「自分の見た目」に限りなく近い画を撮ることができる。少なからずビデオ撮影をしている方であれば「見た目で写す」ことがどれだけ難しいか分かるだろう。BMPCC 4Kはこんなにも見た目が残せるのだ。そしてOLYMPUSの12-100mm F4 ISの描写の良さも頷いてもらえるだろう。

OLYMPUS 12-100mm F4 ISでいろいろと手持ち撮影をおこなってみた(ノーライティングで撮影、DaVinci Resolveでグレーディグ)。

※画像をクリックすると拡大します※画像をクリックすると拡大します※画像をクリックすると拡大します

今まで8bitや10bitのLogをいじり倒してきた筆者がはじめて12bitのRAWデータを声を大にして言いたいのが、クオリファイアーを使っての色の分離などを行う際の抽出の正確さ、綺麗さだ。慣れもあるが、スポイド1発でこれだけ色が正確に分離できるところに12bitの恩恵を実感する。とにかくセカンダリ作業が楽なのだ。10bit 4:2:2がボトムライン、と言われるのも頷ける。

こんなことを言ってしまうのもアレだが、Logは撮影時にきちんと情報を納めておかないと、後処理でどうにもならいが撮影時に多少失敗しても、ISOの変更、色温度、露出の変更などRAWならばリカバリーができる、というのも魅力だ。

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空と海の色を変更させたい際に「青」をクオリファイアーで色を分離させる。スポイド1発でこんなにも正確に色が指定できた。10bitはまだしも、8bitでは考えられない

短い素材だが、いくつかデータを用意したので気になる方は是非ダウンロードして実際にDaVinci Resolveでグレーディングを試していただきたい(1ファイル500MB程度)。

素材ダウンロードは下記より

Bridge
Street
tunnel
yacht

※4K(UHD)24p RAW 3:1
※DaVinci Resolveでしか開けません

そしてBMPCC 4KはProRes422(HQ)でも撮影することができる。その場合、10bit 4:2:2になってしまうので注意が必要だ。ProResで撮影する場合、ダイナミックレンジをFilmモード、エンハンスVideoモード(インスタントHDR)、Videoモードと選ぶことができる。

 Filmモード
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 エンハンズVideoモード
 Videoモード

わかりやすい例として、ステージ上を写しながら ダイナミックレンジを変更してみた。同じ露出でも 選ぶダイナミックレンジによって顕著に階調表現が変わってくる

またProRes記録では「LUTを当てたまま記録」が可能だ(メニューで設定する)。つまり撮影のアウトプットイメージが決まっているのであれば既成のものや自作のLUTをあらかじめBMPCC 4Kにインポートしておいて設定をしておけば、LUTが当たった状態でのProResデータが収録される訳だ。

ProRes収録に設定した上で、この「RECORD LUT TO CLIP」をONにする

ただ、LUTは17ポイントのものしかインストールできないので、読み込めないLUTは一度DaVinci ResolveのカラーページからLUTを書き出した上でカメラにインポートする事で使えるようになる。いかんせんProResデータは容量食いなので、高速大容量な編集ストレージが必要になるが、Weddingやイベントの撮って出し、速報性が必要なものにはとても便利な機能かもしれない。

※画像をクリックすると拡大します筆者は普段ほとんど使わないが「ティール&オレンジ」の代表格、M31 Lutをインストールして撮影時に当てながら収録。簡単に「映画的なルック」のフッテージが手に入る。ProRes収録時にはLUTを当てたまま記録する事もできる。アウトプットのイメージが決まっていれば、こういう使い方もアリなのでは無いだろうか?BMPCC 4Kの使用人口の幅が広がる機能である
※画像をクリックすると拡大します

Cinema DNGに対応していないFCPXを使う人もこういう使い方なら使えるわけなので我々が思っているよりもBMPCC 4Kの潜在ユーザーは多いかもしれない。あくまで個人の意見だが、せっかく12bit RAW 4K60pが撮れるのだ。可能な限りはRAWで撮影してカラーグレーディングを楽しんで欲しい。調理の幅がある美味しい素材にマヨネーズをかける必要は無いのだ。

(5)暗部性能

筆者の今までの考えでは、初代BMPCCも含め、Blackmagic DesignのCinema Cameraはあくまで「デジタルフィルム」。基本は照明を当てて撮るべきカメラだと認識しているため、暗部性能に関してはまったく期待もしていなかった。しかしこのBMPCC 4KはデュアルネイティブISOを搭載。ISO100-1000の場合ベース感度は400、ISO1250-25600の場合ベース感度は3200。ISO1000と1250の間を使う時はレンズの絞りを絞って1250を使った方が良い結果が得られるとのこと(マニュアルより)。

表を見て気にしてほしいのは各ISOに応じたダイナミックレンジが記されている部分だ。400基準で撮影した場合、デコード時に100-1000の間で調整できるが、3200基準の場合は1250-6400の間でしか調整できず、8000-25600はダイナミックレンジの幅がそれぞれ違うため、撮影した時のISOでしか選べないので注意が必要だ。

なにはともあれ、そんなことを聞いたら、暗部性能はいかがなのか?気になる方も多いだろう。本来の使い方とは異なると思うが、とにかく地明かりだけで夜間どれくらい撮れるか軽く検証してみた。

■道路

使用したレンズは同じくOLYMPUSの12-200mm F4。感度はデュアルネイティブISOの高感度側の基準であるISO3200。

※画像をクリックすると拡大します※画像をクリックすると拡大します
■街灯の下

少し無理をしてISO10000で撮影してみた。さすがにノイズは出てくるが処理次第で問題なく使える。

※画像をクリックすると拡大します※画像をクリックすると拡大します

Blackmagic Designのカメラで、まさか夜に普通にこれくらいイケるとは…というのが素直な感想だ。勘違いされがちだが、RAWはカメラの中で作られた「生のデータ」であり、カメラの中でデノイズ処理などは行われない。なので自分でデノイズ作業を行う必要がある。だからDaVinci Resolve Studioのデノイズ機能が優秀なのである。

よく聞かれるが、α7S IIやGH5Sなど暗部性能に特化したモデル(カメラ内での処理含め)と比較する事はナンセンスである、という事は知っておくべきだろう。

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ISO6400くらいまでであれば 特に問題なく使用できる印象。

動画を「楽しんで 本気でやる」なら最高の一台

BMPCC 4Kは撮った後にどうするか?が楽しいカメラだ。「シネマカメラ」の名の通り、そのまま撮影して出すようなカメラではないのでカラーグレーディングで自分の描きたいもがある人にとっては最高のカメラである。繰り返すが、とにかく「楽しい」のだ。

というのも、DaVinci Resolveをきちんと学んで使ってきた人にとってはさほど難しいものではないが、ベースとしてDaVinci Resolveもといカラーグレーディングの知識がないとわかりづらい、扱いづらいところがあると思う。

有償版のDaVinci Resolve Studioがカメラに付属してくるので、カメラ購入と同時に勉強しようという方も多いようだが、到着までに無償版を使ってある程度は勉強しておいた方がいい。やはり「映像はゴール(アウトプット)から遡って考える」ものだ。どんなものが撮りたいのか、その上でDaVinci Resolveでどんなことができるか、それを知った上でカメラを触ることがこのBMPCC 4Kを楽しく扱うコツになるだろう。

筆者のように動画しかやらないユーザーにとって正直な話、現在のフルフレームミラーレス大戦は迷惑極まりない。そんな雑音から良い意味で「圏外」になれる。BMPCC4Kはそんなカメラだ。

以上が取り急ぎ、手元に到着してから2日ほどの使用感だ。引き続き色々使ってみて次のレポートをしたいと思う。