人間とクリーチャー(異形の者・獣・人間以外の生物)による種族を超えた愛を描いた映画10作品を、製作年代順にご紹介。愛があれば、種族の違いなんてなんのその。ぜひ、真実の愛をその目に焼き付けて欲しい。

人間×野獣:『美女と野獣』(1946)

「種族を超えた愛」と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かぶであろう物語が「美女と野獣」だ。

1740年にフランスの女性作家ガブリエル=シュザンヌ・ド・ヴィルヌーヴが書いた小説を、1756年に同じくフランスの女性作家ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモンが短縮リメイクしたのがこの物語。

今までに幾度となく映画化され、TVドラマ、バレエ、ミュージカル、演劇など多くのメディアで何度も生まれ変わっている不朽の名作だ。

迷い込んだ屋敷で娘ベルの土産にとバラを折って取ったことで野獣の逆鱗に触れた父親。その父の身代りを買った娘ベルが野獣のもとで暮らすうちに、野獣の中にある本質に触れ、愛情を育む様子が描かれる。

1946年公開の本作は、一番最初の映画化作品であり、原作に一番近いとされる。監督を務めたのは詩人や作家、画家としても著名なジャン・コクトー。他の映画化作品とは一線を画すゴシック・ホラーの雰囲気が漂う一作だ。

時代を重ねるにつれてヒロイン・ベルは強い女性として描かれていくが、本作では原作に沿って控えめで受け身な女性として描かれている。

「心優しく慎ましい美少女が、真の愛を見極め幸せになる」という物語は「おとぎ話」の定番。時代が進むにつれ“慎ましさ”が“強さ”へ変わっていく移り変わりを、アニメーション映画の1991年版、実写版の2014年版、2017年版と見比べてみると面白いかもしれない。

人間×人魚:『スプラッシュ』(1984)

ある日、溺れかかったカナヅチの少年アランは海中で人魚の少女と出会う。つかの間の出会いから20年後、アランはニューヨークで兄と共に青果会社を切り盛りをしながら冴えない日々を送っていた。ある時、ひょんなことからあの人魚に再会し、恋が始まる──。

世界的に有名なアンデルセンの名作「人魚姫」をモチーフに、青年と人魚の恋を描いた本作は1984年のアメリカ映画。

監督を務めたロン・ハワードと、主人公の青年アランを演じた若きトム・ハンクスの出世作となった一作。人魚マディソンを演じたのはダリル・ハンナ。彼女の泳ぐ姿や絹糸のような長いブロンドは、まるで絵本から出て来た人魚のよう。世代を問わず楽しめるロマンティックなラブストーリーとなっている。

人間×妖女:『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』(1987)

その日暮らしの青年・寧(ニン)は、ある日美しい女と出会う。小倩(スーシン)と名乗るその女は、妖術で虜にした男の精気を吸い取っては殺す妖女だった。

小倩に一目ぼれした寧に制止する道士の言葉は届くはずもなく、2人は恋に落ちてゆく。しかし実は、小倩は吸血鬼に利用され魔王の花嫁にされようとしていたのだった──。

若きレスリー・チャンとジョイ・ウォンが主演を務め、その後の香港映画に多大な影響を与えた本作。香港映画のお楽しみであるワイヤーアクションも駆使し、ジョイ・ウォン演じる清楚な女幽霊・小倩が衣をひらひらさせながら空を舞う。

その姿は、欧米作品にはない竹取物語や天女物語を想起させる。コミカルな中にも物悲しさの残る、アジアらしい佇まいのラブ・ファンタジーだ。

人間×人造人間:『シザーハンズ』(1990)

主演のジョニー・デップとウィノナ・ライダーの出世作となった本作は、ティム・バートン監督によるダーク・ファンタジー。

町はずれの山の上にある屋敷で暮らす、手がハサミの人造人間・エドワード(ジョニー・デップ)と彼の生みの親である老発明家。博士はエドワードに人間のような手をつけてあげる直前に急逝してしまい、エドワードはただ独りその屋敷で暮らしてきた。

ある日、人のいい化粧品セールスの女性ペグが偶然屋敷を訪れたのを機に、彼女は町の自宅に彼を連れ帰る。一躍町の人気者になるエドワードはやがて、ペグの娘・キム(ウィノナ・ライダー)に恋をする。

パステルカラーの町並みや、愛らしくカットされた庭木。そこに雪が降り注ぐ様子はまるでスノードームの中にいるよう。繊細で心優しき人造人間と、彼が憧れた“本物の”人間たち。真に美しいもの、そして醜いものとは一体何なのかを問いかける極上のおとぎ話だ。

人間×異星人:『アバター』(2009)

ジェームズ・キャメロンが監督を務め、構想14年、製作に4年以上の歳月を費やして完成させたデジタル3D映像革命とも言うべき本作。

公開からわずか39日目で同監督による前作『タイタニック』が持っていた世界興行収入記録を更新し、27億8800万ドルを記録した。

熱帯雨林を思わせる密林に覆われ、神秘的な美しさを湛える衛星パンドラ。この星の地下に眠る莫大な希少鉱物を採掘するため、人類はパンドラに進出を試みるも、先住民族ナヴィの許可を得られない。

そこで、地球人のDNAをナヴィに掛け合わせてつくった人造生命体を作り、捜査員の意識を接続した“アバター”としてナヴィとの接触を試みる。

捜査員の死で急遽白羽の矢が立った海兵隊員ジェイクは、やがてナヴィの若い娘・ネイティリと心を通わせるようになる。

戦争で脊髄を負傷し、下半身不随だった主人公ジェイクがアバターを通して走り回るシーンは、溢れんばかりの喜びが伝わってくる。彼はアバターを通して長い時間を過ごすことでナヴィ族と地球人の間に跨る境界が取り除かれ、真の愛に気づく。

マイノリティへの迫害と共に、地球の環境問題にも踏み込んだ、映画好きなら一度は観ておきたい大ヒット作だ。

人間×ヴァンパイア:『ブラッディ・パーティ』(2010)

数あるヴァンパイア映画の中から紹介するのは、埋もれてしまうには勿体ない、やや知名度の低いこの作品。

スリでその日暮らしをしている保護観察中の少女レナ。その風貌は化粧っ気のない痩せた少年のよう。ある日クラブで知り合ったルイーゼという女に首を咬まれたレナは、翌朝から日光に弱くなり、生肉にしゃぶりつくヴァンパイアへと仲間入りしていた。

3人の個性的な女ヴァンパイアたちと贅沢な暮らしをする中、レナにほのかな想いを寄せていた捜査官トムの存在が、彼女たちの生活を脅かし始める。

このドイツ発のヴァンパイア・ホラーの原題は『Wir Sind Die Nacht(英:We are the Night)』。彼女たちそのものが”夜”であり、闇の覇者である様子がよく表われた原題と比べ、邦題はちょっとエロスを期待したくもなる“パリピ”なチャラさ。邦題で損をしているのでは?と言わざるを得ない佳作。

特筆すべきは変身シーンで、咬まれてすぐにヴァンパイアになるのではなく、ある一定の儀式を経ないとならないところだ。バスシーンであの”気も素っ気もない少年のような主人公レナが、“ヒロイン”と呼ぶにふさわしい妖艶な美女に変貌する様子は必見。

捜査官とのプラトニックな恋にも好感が持てる、ヴァンパイアたちの葛藤や悲哀が丁寧に描かれたドイツらしいクールな一作。

人間×変異体:『モンスター 変身する美女』(2014)

2015年の「カリコレ/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション」で上映された本作は、監督と脚本をジャスティン・ベンソンが務め、主人公エバン役をルー・テイラー・プッチが務めた隠れた秀作。

両親を立て続けに亡くし天涯孤独となった青年エバンは職も失い、失意のままに南イタリアに渡る。たどり着いたある海沿いの町で、エバンは謎めいた美女ルイーズと出会い恋に落ちる。しかし実はルイーズは2000年以上もの間、さまざまな変身を繰り返しながら生き続ける人ならざるモノだった──。

彼女は2000年以上もの間、20年周期で新たな自分を産み落としては別の人生を歩んできたと言う。その一周期を迎える過程で、獣のような姿や触手を持つ生物など、さまざまなモンスターへと変貌を遂げる言わば変異体。

本作のキャッチフレーズは「リチャード・リンクレイター + ラヴクラフト」。リチャード・リンクレイターといえば『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』や『6才のボクが、大人になるまで。』などを手掛けた”時間”を扱うのが得意な監督で、本作は特に前述の『ビフォア・サンライズ〜』を彷彿とさせるプロットとなっている。

また、ラブクラフトと言えばオカルトファンには耳慣れた「クトゥルフ神話(架空の神話)」の創造主。そこには人智を超えた得体の知れない神が触手を持った姿で登場することが多い。キャッチフレーズも納得の、クトゥルフ・ロマンスホラーだ。

人間×ドラゴン:『DRAGON ドラゴン』(2015)

ロシア発の本作は、孤独なドラゴンと公爵家のお嬢様との恋を描いた冒険ファンタジー。

はるか昔のロシアの辺境国。古来よりその地にはドラゴンが生息しており、娘を生贄として捧げることで国を守っていた。しかしドラゴンを倒したひとりの英雄の登場で生贄は不要になり、国には平穏が戻った。

時は過ぎ、英雄の末裔との政略結婚を控えた公爵家の次女ミラは、式の最中に突如ドラゴンが現れ、連れ去られてしまう。そして、それがドラゴンと彼女の運命の出会いだった。

ドラゴンの正体は、ドラゴンへの変身に抗いながら孤独に暮らすアルマンという名の青年。人間になりたい彼は、恋をした相手に触れると自分を抑えることができずにドラゴンに変身してしまう。

触れたいのに触れられない......そんなアルマンのジレンマに萌える人も多いハズ! 美男美女はもちろん、壮大かつ繊細な映像美は目の保養になること間違いナシの正統派ファンタジー。

人間×半魚人:『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)

『パシフィック・リム』ですっかり一躍ハリウッド・メジャー監督として認知されるようになったギレルモ・デル・トロ監督によるラブ・ファンタジー。2018年の第90回アカデミー賞では作品賞など4部門を受賞し、第75回ゴールデングローブ賞でも2部門を受賞した。

舞台は1962年、冷戦下のアメリカ。映画館の上階で独り暮らしをする発話障害のイライザは、機密機関「航空宇宙研究センター」で夜間清掃員として働いている。ある日、宇宙センターに生物が運び込まれた謎の生物が“半魚人”と知ったイライザはその存在に惹かれ、2人は親密な関係となってゆく──。

登場するのは発話障害を持つイライザと半魚人をはじめ、アパートの隣人であるゲイの画家、アフリカ系女性である仕事場の同僚など、心優しきマイノリティーたち。水底のような青みを帯びたスクリーンに、彼らの孤独と海のような慈愛が漂う。

人間×謎のクリーチャー:『ホスティル』(2017)

そして上映が始まったばかりの本作。監督は、クリント・イーストウッドやクエンティン・タランティーノなど名だたる監督のもとで助監督の経験を積んだマチュー・テュリ。本作が監督デビュー作となる。これまでに各国の映画祭で65部門のノミネート、17部門を受賞している。

謎の伝染病により、わずかな人類だけを残して荒廃した地球。生存者たちは食糧などの物資を求めて彷徨うが、夜になれば未知のクリーチャーたちがそこら中に出没する。他の生存者たちに漏れず、物資の調達のために廃墟を訪れたヒロインのジュリエットはベースキャンプに戻る途中で車が横転し、足を骨折して荒野のど真ん中にとり残されてしまう。

荒野で横転した車に1人取り残されたジュリエットと彼女を襲撃するクリーチャーの攻防を描いたサバイバルホラーでありながら、その異形の者との哀しいラブ・ストーリーにもなっており、ヒロインの劣等感と悔恨、そして愛への気づきが詰まっている。

最後に

人間と他の生物との種族の壁を超えた恋愛は、古くからさまざまな形で描かれてきた。

それら作品に込められているものはマイノリティとマジョリティのボーダーレスへのメッセージだったり、多種多様なアイデンティティの肯定、美の本質や真実の愛の在り方だったりする。

このジャンルの映画で描かれる“愛”を前に、私たちは無力で、もれなく等しい存在となる。

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