フランス人の間で日本酒の注目が高まっている。写真は「Kura Master」主催の有料試飲会(写真:Kura Master)

フランス人による、フランス人が選ぶ、フランス料理のための”日本酒コンクール「Kura Master」が今年も実施され、6月4日に受賞12銘柄が発表された。

今年で2回目となったこのコンクールの特徴は、フランス人のトップソムリエが自ら日本酒のコンクール開催を望み、審査員を集め、審査をしていることだ。参加する審査員たちは、自ら積極的に“自分たちの店”で料理に合わせる酒を探し始めているのだ。

しかも日本酒には、開栓後も劣化させずに保存することが容易で、グラスでの提供がしやすいという利点もある。

筆者自身が渡仏した際に驚いたことだが、ここ数年、パリのフレンチレストランではソムリエが料理に日本酒をペアリングして提供する機会が急増している。純米酒や吟醸酒、時に濁り酒を用い、皿に合わせてグラスで提供してくれる。

昨秋に食事をした際には、食中のアクセントになるような特徴的な料理に純米酒を合わせたり、時にデザートに対して優しい甘さを感じさせる濁り酒が提供され、コース料理を食べ終わる頃には3種類もの日本酒を飲んでいた。

あくまで“感じていた”だけだったのだが、それが単なる“印象”だけではないことは、統計結果からもわかる。

フランスへの日本酒輸出量は約2.5倍増

財務省貿易統計を見ると、この5年でフランスへの日本酒輸出は量で約2.5倍、金額では3倍以上になった。消費量が急増するとともに、消費される日本酒の単価が上がってきているところが注目点である。

このところグローバルで続いている日本食ブームを背景に日本酒の輸出額は伸びているが、国ごとに事情はさまざままだ。

たとえば、最も日本食が食べられているアメリカでの日本酒消費量は、約5300キロリットル。日本酒輸出全体の4分の1以上を占めている。しかし、これは日本食レストランの増加、日本食の普及を示しているからであり、このところ数年にわたって継続している日本食ブームが大いに貢献していると考えられる。

アメリカに比べると日本食レストランの数が少ない欧州市場に目を向けると、こちらも国ごとに事情が異なる。消費量の伸びはイタリアが顕著だが1リットルあたりの単価に大きな変化はない。ところが、イギリス、フランス、スペインでは単価上昇が見られる。

これは本醸造から純米酒、吟醸酒への切り替えが進んだことが理由だが、中でもフランスが量・単価ともに大きく伸びている理由は、高級フランス料理店が積極的に日本酒を扱うようになったためである。

美食の都、パリの一流レストランが日本酒を取り扱い、料理とのマリアージュを提案しはじめ、それが地方都市のレストランにまで拡大。一部の日本文化を好むフランス人や日本料理店にとどまらず、フランス料理店で飲まれるようになった結果、消費量と単価上昇が同時に起きたのである。

それだけではない。フランス国内で、フランス料理のための酒蔵まで生まれているという。酒蔵はフランスだけでなく、スペインにも2カ所誕生している。まさに現在、フランスを中心とした欧州美食界では、日本酒市場が定着、拡大していく“前夜”の様相を呈している。

急増しているとはいえ、フランスへの日本酒輸出はいまだ英国に次いで10位でしかない。断トツに輸出量が多い前述のアメリカを除くと、2〜5位は香港、中国、韓国、台湾で、欧州地域への日本酒輸出は少ない。

フランス料理店で日本酒が飲まれるようになれば、一気に西洋料理の文化に日本酒が入り込み、市場環境が一変する可能性があるが、それだけではない。高級レストランとお酒を囲む市場環境の変化は、世界中のレストランでワインリストとともに日本酒リストが置かれる時代を生み出すかもしれない。

では、なぜこのようなことが起きているのだろうか?

大きな変化がフランス料理界で起きている

それを理解するには、過去10年の間に急変したフランス料理界の環境変化を知らねばならない。元サントリーで利き酒師として働き、その後、フランス局長、欧州局長を務めた後、現在はパリでソムリエ、および日本酒の輸入販売事業を手掛ける宮川圭一郎氏は、ここ数年におけるフランス料理界の変化が、日本から見ているよりもはるかに大きなものだと指摘する。

おおよそ5年前からボルドーの一流ワインを中心に、ワイン価格の高騰が始まった。中国をはじめとする世界的な高級ワインニーズの高まりもあるが、フランスの高級レストランがセラーにそろえるワインのうち、実際に動くのは全体の2割にすぎない。残りの8割は在庫である。

長期熟成型のボルドーワインが高騰するということは、そうした在庫負担も急増することを示す。さらに現在は世界中でワインが醸造されるようになり、それぞれの国、地域ごとに特徴あるワインが造られるようになってきた。ボルドーの一流銘柄だからといって、1本が数千ユーロもするワインが毎日空くといったことはなくなってきているという。

その後、本場フランスのソムリエたちはブルゴーニュのワインを多用するようになるが、当然ながら今度はブルゴーニュワインが高騰しはじめる。2012年以降は不作もあってさらなる価格高騰が起きた。そこで、料理に合わせて世界中で醸造されているお酒を合わせていこうというムーブメントが起き、その中のひとつとして“日本のコメから造る醸造酒”日本酒が受け入れられる土壌が生まれた。

そしてほぼ同時期、フランス料理そのものにも変革が起きていた。

10年程前から、食の健康志向を背景に、フランス料理に多用される乳製品を減らし、またコース全体の構成も肉や魚の量を減らし、代わりに野菜などの素材を生かした料理へと変わってきた。バター、生クリーム、ヨーグルト、チーズなど、フランス料理には欠かせない素材の使用量は激減、肉のポーションは半分、魚は3分の2になった。

10年程前、ソースをエスプーマという器具にかけて“泡化”し、食事に軽さを出す手法が流行した。ソースの量が4〜5倍に増えるためコストダウンにもなり、素材のうま味をより引き立たせることが目的だったが、5年程前からは“小さな肉にスパイス、それに岩塩を1粒だけ載せて提供”といった方法へと変化している。

この方向性はさらに進み、素材の火の通し方も変わってきた。現在、パリの一流レストランでは、備長炭を使った炭火焼き料理が当たり前になってきているほか、味の一部として“酸味”を生かすようになってきた。炭火でゆっくりと焼き上げ、余分な脂を落としたうえで酸を用いることで、長期的に食しても健康を害さないヘルシーなフランス料理が創造されているのだ。

こうした中で、日本ではおなじみの日本食向けの素材が取り入れられたフランス料理が増えているのも、決して偶然ではない。提供する皿の材質やデザインが日本化し、日本風の出しまでも使われ始めた。

ワインが不得手とする「7つの要素」

料理が変化すれば、それに合わせるべきワインも変わらねばならない。フランス料理の技法に変化はないが、使用する素材が変化し、味付けの方向性も変わったためだ。しかし、ワインというお酒のフォーマットは変えることができない。

それゆえに変化するフランス料理に対して、勧められるワインを見つけられない一流の感覚を持つソムリエたちは悩んでいた。相性のよいワインをグラスでサーブしようにも、最新のフランス料理にはワインが不得手とする7つの要素が盛り込まれているためだ。

7つの要素とは、「うま味」「苦み」「卵」「くんせい」「酸味」「辛み」「ヨード香」である。

たとえば、うま味という要素は穀物から造る日本酒には本質的に含まれているが、ワインにはない。うま味は精米度が低いほど多いため、純米酒は濃い料理、吟醸酒はサッパリとした味わいの料理に合う。

苦みは以前のフランス料理なら嫌われていた要素だ。しかし近年、フランス料理で根菜のスープや抹茶、白菜、ニンジン、パネ(白ニンジン)などの野菜が使われ、これらはすべて苦みを含む。ずっと昔からフランス人も愛してきたアスパラガスは、まさにワインに合わない素材の代表格で、アスパラギン酸とワインがケンカをしておいしく味わうことができない。

硫黄臭いフランス流のゆで卵やマヨネーズ、魚卵やくんせい、辛みのある素材やヨード香を持つ海藻なども、ワインとともに食してもまったくおいしさを加速させないどころか、むしろ食材のクセを強調してしまう。

しかし、日本酒はもともと苦みを含む野菜との相性がよく、ハーブを多用した料理とはなじみやすい。もちろん、干物や魚卵などは典型的な好相性素材だ。近年、フランス料理に多く取り入れられている生姜、わさび、山椒、それにクミンなどのスパイスとの相性もよい。海苔などヨード香を持つ素材とケンカしないのは、日本人ならば誰もが知っている。

ワイン日本酒、いずれも酒としての特性は変化していないが、フランス料理のほうが日本食に近い料理の組み立てへと近付いたということだ。


グザビエ・チュイザ氏(写真:Kura Master)

さて、こうした背景の中でKura Masterというイベントが始まったきっかけは、コンクールの審査委員長で、パリで最も格式と歴史を持つオテル・ド・クリヨンのシェフソムリエを務めるグザビエ・チュイザ(Xavier Thuizat)氏が、ペニンシュラホテルのシェフソムリエだった頃のこと。ホテル内の広東料理店でオススメのワインを尋ねられ、さまざまな組み合わせを試してみたものの、伝統的フランス料理とはまったく異なる構造で味が構築されている中華料理とワインはなじまないと前述の宮川氏に相談したことがきっかけだった。

チュイザ氏の「シェリー酒ならば合うが、厳密に言えば蒸留酒を含んでいる。アルコールの穏やかな醸造酒で合わせたい」という考えに対して、宮川氏が日本酒を勧めたうえで、2016年に日本酒を知るための旅へと誘い、日本の蔵元などを紹介したのだ。その背景には、前述したようにフランス料理に使われる野菜の種類・量がともに増えていき、味を構成する要素が変化したことでワインと合わない皿が増えてきていることもある。

多様な日本酒、およびその造り手と交流を深めたチュイザ氏は、新たな活躍の場で日本酒を生かしたいと考えた。実は彼は2017年夏、4年もの長期休業を経て壮麗なる歴史とモダンさを兼ね備えた新しいホテルへと生まれ変わったオテル・ド・クリヨンのシェフソムリエとして迎えられることになっていた。

その彼が、伝統とモダンが融合する新たなコンセプトのホテルにある多様なレストランで、フランス人が楽しむための“フランス人が選ぶフランス人のための日本酒”を求め、宮川氏にコンクール開催を持ちかけて実現したのが「Kura Master」である。

フランス全土に日本酒が広がる可能性

審査するのは最高級五ツ星ホテルをはじめ、フランス美食界をリードする三ツ星や二ツ星レストランで活躍するソムリエ、シェフ、それに料理研究家たちだ。初回の2017年は35人、第2回となる今年は料理学校関係者やワイン専門店オーナーなども加わり、またパリ以外の地域からも多くの審査員が参加。58人が集まった。全員がフランス人であり、フランス料理のエキスパートだ。しかも、半数は地方都市からの参加。すなわち、パリだけではなくフランス全土に日本酒が広がる可能性を秘めている。

このように一気に拡大したのは、“クリヨンのチュイザ氏”が呼びかけたからということもあるが、昨年のコンクールが評判を呼び、業界内でKura Masterに参加すればフランス料理に合う日本酒が見つかるとの認識が広がったからにほかならない。審査への参加希望は多く、来年は少なくとも80人以上の規模になる見込みだという。

その影響は、たとえばフランスで唯一女性シェフとして三ツ星を持つアンヌ・ソフィ氏のラ・メゾン・ピックが、提供する料理との相性を見直したうえで新たに日本酒リストを作成したり、シャングリ・ラ ホテル・パリのラベイユで“すべての料理を日本酒だけで合わせる日本の夕べ”が開催されるなどの動きを生み出した。

日本人主体で始まったコンクールではないだけに、目的は明確。彼らは本気でフランス料理の中に、日本酒を取り込み、ワインリストの中に日本酒を組み込み、さらにはワインリストとは別に“日本酒リスト”を作ろうとしているのだ。


Kura Masterの審査風景(写真:Kura Master)

審査員全員が日本酒を飲み慣れていないフランス人。そして合わせるのはフランス料理。このため、Kura Masterは一般的な日本酒品評会とは異なるやり方でテイスティングを行う。輸出が前提となるため火入れを行わない生酒は扱わないこととし、アルコール添加は行わない純米酒のみ(精米度合いによるクラス分けはある)のコンクールとすることにした。

そして、(これが大きなポイントなのだが)ソムリエ同士が“共通の言葉”で会話できるよう、ワインにはない穀物や野菜に似た香りや味、相性などについて、ソムリエでもあり、日本酒の輸入業者でもある宮川氏が“教科書”を作ったのだ。

もし、この教科書がなかったら……ワインの常識のみでしか評価できない、何も言葉として共通認識を持たない状態でコンクールが開かれていたならば、日本酒フランス料理、あるいは日本食以外の世界中の料理とのマリアージュに関して、イマジネーションが湧くまで時間がかかったかもしれない。

この教科書では、冒頭でも紹介したワインが苦手とする要素……それはすなわち、ワインテイスティングでは評価基準がなかった7つの要素について、料理と酒の関係性を整理。表現するための言葉、共通認識の構築を目指した。

情報交換の基礎となるべき“共通の言語”を持ったことで、審査員たちはそれぞれ自分たちの言葉で日本酒を表現し、そこに新たな表現、感覚を加えながらコメントの幅を広げていった。Kura Masterに参加を望む関係者が急増している背景には、こうしたフランス人の専門家同士が情報交換できる“共通言語”を生み出せたからという側面も大きい。

試飲はお猪口ではなくワイングラス

テイスティングの手法に関しても、フランス人の目線に合わせた。試飲は蛇の目ではなくリースリンググラスを用い、提供温度は5度。グラスの中で日本酒を回し、香りを開かせてから味わう。なぜなら、ワインのテイスティングはそのようにして味わうからだ。1点だけ、ワインよりも日本酒のほうが香りが開きにくいため「13回」と指定して“たくさん回させて”飲むようアドバイスしているという。

このようにワイングラスを用い、味そのものだけではなく、そこから生まれる香りのふくよかさ、華やかさを感じながらのコンクールとなるため、必然的にフローラルな香り高い、そしてアルコール感を感じさせず舌触りの柔らかい酒が選ばれやすい。

しかし、必ずしも大吟醸ばかりが好まれるわけではない。精米度合いの高い大吟醸は雑味が少なく“澄んだ”味わいだが、純米酒は複雑でより濃厚な味わいとなる。合わせる料理によっては、後者のほうがベターということも多くあるからだ。

このように、日本の料理を楽しむための日本酒ではなく、フランス料理とのマリアージュという視点で選ばれているのが「Kura Master」というわけだ。実際に選ばれた12種類の純米酒、吟醸酒、濁り酒を味わってみると、前述したようにアルコール感が少なく、香りを楽しむことができ、また舌触りが滑らかでトロッとした感触の酒が多い。


「Kura Master」で選ばれた12種類の純米酒、吟醸酒、濁り酒(筆者撮影)

しかし、一方で味わいの深さや複雑さはバリエーションに富んでいる。フランス人がフランス料理のために日本酒の味わい方を研究し、選評しはじめたことで、今後は蔵元たちにも新しいインスピレーションを与えるようになるだろう。

宮川氏はフランス人が日本酒に対する見方を変えてきたように、日本の蔵元、あるいは日本酒流通にかかわる人たちの考えも変えねばならないと話す。それはたとえば、「日本酒は新鮮なものが最もおいしい」「熟成がきくワインとは違って仕入れ、在庫の管理が大変」といった誤った固定観念を、日本酒の故郷である日本人が持っていることだと宮川氏は指摘する。

日本酒は新鮮なほうがいいというが、それは温度管理がなされない場合の話で、一般的な冷蔵庫の温度(5度)で保管すれば日本酒は長期保存も可能だ。また、ワインは開栓後、2日以内でなければプリザーバーなどを用いても劣化してしまうが、質のよい日本酒は冷蔵庫に入れておくだけで2〜3週間は開栓後も品質を保持できる。

つまり、グラスで提供するお酒としてはワインよりも管理が楽なのだ。料理とのペアリングで合わせる酒として提供しやすいだけでなく、リスト中の“グラス提供可”とする酒にも置きやすい。

日本酒は熟成しない」という誤解

加えて“日本酒は熟成しないが、ワインは熟成する”という誤解も、あらためるべきだと宮川氏は指摘した。

日本酒を本格的に熟成させた例はあまりない。しかし、実際に品質劣化しない温度で長期間保存した日本酒を味わうと、“まろみ”を帯びてトロッとした粘性を感じる感触を舌が感じるようになる」と宮川氏は話す。

実際に、その場にたまたまあった、氷温で3年間貯蔵していたという日本酒を試飲してみると、舌を包み込む柔らかな感触を感じたが、一方で“枯れた”という印象もなかった。品質に大きな変化を来さないまま、エレガントさのみが上積みされていたというのが率直な感想だ。

ワインは欧州の気候の中で、地下の気温変化が少ない、比較的涼しい場所に貯蔵され、結果として“熟成するとおいしくなる”という経験が積まれていった。古いヴィンテージのワインが珍重されるゆえんである。

しかし日本の場合、冷蔵技術が発達する前に新鮮な状態で日本酒を貯蔵する技術がなかった。このため、フレッシュな日本酒こそが最高の味であるとされたが、冷蔵技術が発達した現在、日本酒の熟成に関しては研究の余地があるだろう。5度がいいのか、あるいは氷温がいいのか。また、栓は現在のようなプラスチックがいいのか、あるいはワインと同じように呼吸できるコルクがいいのか。通気特性を自在に設定できる合成コルクを開発するほうがいいという可能性もあるだろう。


宮川圭一郎氏(筆者撮影)

日本酒は“日本の風土”に寄り添う形で進化してきたが、ここに冷蔵保存が加わり、さらにはワインの世界で培われた熟成に関する知見を掛け合わせたとき、どのような結果が得られるのかは、まだ統計だったノウハウは得られていない。

宮川氏は「日本酒をどんな温度で、どのぐらいの期間熟成させると、どのような変化が起きるのか。これからトライアルを重ねれば、四号瓶が1本100万円なんていう日本酒フランス料理店のリストに並ぶかもしれない。フランス料理店には必ずシャンパンを保管する冷蔵庫がある。同じようにワインを販売する酒屋にも冷蔵庫がある。そこに日本酒が置かれるのが当たり前の時代が来ます」と話す。

パリが生み出したトレンドは世界中へ伝播する

さて、これらのことが示すのはどんな未来だろうか。

冒頭でも述べたように、フランスにおける日本酒消費量は決して多いわけではない。しかし、平均単価を上げながら消費量が急伸。その理由が高級フランス料理店における新たなトレンドに起因したものだとするなら、今後、フランス以外のフランス料理店で日本酒が置かれるようになることは想像に難くない。

これまでの例でも、パリの一流フランス料理店が生み出したトレンドは、数年を経て世界中へと伝播していくからだ。しかも現在、フランス・パリをはじめとして、世界中の“星を持つ”レストランには数多くの日本人シェフもいる。日本酒が文化的に受け入れられやすい環境にあると言えるだろう。

さらには、フランス発でフランス料理以外の欧州料理に日本酒を合わせるという動きも活発になるだろう。“薄味”で“出し(あるいは素材)のうま味を生かし”、苦みや酸味を含む多様な味わいの組み合わせで料理が構築されるようになってきた中で、フランス料理がそれを取り入れたとなれば、純米酒・吟醸酒への切り替えが進んでいない国の市場も変化し、西洋料理とのマリアージュのトライアルも進んでいくと考えられるからだ。

あるいは数十年後、丁寧な温度管理で保存されていた2018年ものの日本酒が、オークションで数千万円で落札されているかもしれない。そんなジョークが酒宴の場で出てくるほど、日本酒に対する視線は変化してきた。