「物流=コスト」だけの考え方でいいのでしょうか?(撮影:今井 康一)

「企業の物流に対する考え方には2つある」という話を私はよくしています。

物流思考と戦略物流思考

昔ながらの「物流=コスト」という考えを「物流思考」とすれば、会社を強くする違う視点を「戦略物流思考」とします。

もう少し説明をすると、物流思考は、物流をコストセンターとしてとらえ、物流は作業=オペレーションと考えて、その作業コストを下げようとします。そのため、物流改善の手法を用いて、生産性を高めようとしたり、相見積もりを取ったりして、コストを下げていきます。

一方の戦略物流思考は、物流をプロフィットセンターとしてとらえ、物流コストをかけることで、商品単価を上げたり、販売量を増やしたりして、売り上げ向上につなげます。また、物流戦略と販売戦略の同期化により、圧倒的にコストが低い物流ネットワークづくりをすることもできます。逆に商品価値を上げる物流ネットワークをつくることもできます。

拙著『アマゾン、ニトリ、ZARA…… すごい物流戦略』でも詳しく解説していますが、戦略物流思考によって、会社としての競争力を高めることができるのです。

いい例が、世界最大の小売業のウォルマートです。ウォルマートの物流センターは新設時7店舗分のキャパシティを持っていますが、1店舗目ができる前にまず物流センターを造ります。日本企業であれば、複数店舗出店した後に、オペレーションが回らなくなってきたとか、コストダウンできるのではないかということで、物流センターの新設を検討し始める場合がほとんどです。しかし、ウォルマートはまったく考え方が違います。彼らは、ロジスティクス=供給体制を構築してから、出店を始めるのです。

日本では、セブン‐イレブンが同じ物流重視の考え方です。関西や中国地方などへの進出の際には、惣菜工場や物流センターを造るのが先でした。また、店舗を出店するかどうかは、物流部隊に決める権限があります。物流部隊が、その店舗に商品を効率的に供給できないのであれば、出店にゴーサインが出ないのです。

戦略物流思考が物流思考にプラスされ、物流が現場だけのものでなくなれば、その日々の戦いである「戦闘」だけでなく、戦術や戦略でも、物流が語られるようになります。

そのためには、どんな物流戦略で経営戦略を実現していくかを考える役割(戦略レベル)、その戦略を実現するための実行計画を立て実行する役割(戦術レベル)、計画に基づいた日々のオペレーションを着実に実行する役割(戦闘レベル)の3つの層に分けて考える必要があります。

1つの事例として、ファストファッションの最大手、ZARA(インディテックス社のファッションブランド)を見てみましょう。ZARAでは、鮮度の高い商品を提供することが経営戦略になっています。同社では、これを実現するために、物流センターをスペインに配置、スペインおよび近郊国で生産してスペインに納品し、そこから航空便を使って全世界の店舗に納品するという物流ネットワークを組み上げています。

ロジスティクスはビジネスモデルそのもの

これこそが物流戦略です。「インディテックスの経営戦略は物流戦略である」と言っても過言ではないくらい物流がかかわっています。

戦術レベルでは、ロジスティクスセンターを開発し、ストックポイントである店舗の開発や再配置を行い、生産拠点を開拓し、航空便の確保や、ロジスティクス関連ソフトウエアのリニューアルを行っています。

戦闘レベルでは、週2回の店舗納品のための出荷が間に合うように、商品検品や梱包などを作業スケジュールどおりに行っています。

一方、経営戦略の1つに挙げられているインターネット販売の拡大のためには、違う物流戦略が組まれています。スペインの物流センターから日本に送る際には、48時間もの時間がかかります。またスペインの物流センターは、B2Bのオペレーションですから、B2Cのオペレーションを入れると現場の生産性が格段に落ちます。

そこで、インターネット販売のB2Cは、違うオペレーションにしました。世界に20カ所のローカルな物流センターを持ち、そこからお届けするという物流ネットワークの設計です。このネットワークの設計は、現場部門では無理ですから、企画部門がやります。戦略レベルの人が、このネットワーク構造を設計するのです。

そして今、店舗在庫とネット通販用在庫を一元管理するよう、進化しています。


日本企業トップの多くが信奉者になっているピーター・ドラッカーは、1962年、「ロジスティクスは、最後の暗黒大陸だ」と語り、それを見聞きした経営者はハッとしました。当時、アメリカでも、ロジスティクスコスト算出の重要性が意識されず、そのコストの妥当性がわからなかったのです。

それから半世紀以上経ち、「物流を制する者が市場を制す」という言葉も語られるくらいに、アメリカでは、その重要性がよく理解されていますし、見える化もされています。

しかし、日本では残念ながら、この重要性が理解されていないどころか、「暗黒大陸のままで、手をつけられない」と嘆く経営者も多くいます。

この続きとして第2回でアマゾン、第3回でニトリの事例をご紹介します。