シリコンバレー101 第765回 プラスチックストローに続いて肉メニューを廃止、WeWorkの決断
起業家やフリーランス向けのコワーキングスペースを提供するWeWorkが、宗教上や治療・食事療法といった理由を除いて、赤身肉/ 鶏肉/ 豚肉を使った食べ物をイベントで提供するのを止める。社員の個人経費の払い戻しの対象からも外すという。肉の摂取を禁じているわけではないが、社員や会員に対して強いメッセージになった。
WeWorkはただ働く場所を提供するのではなく、創造的なコワーキングスペースを通じて、人々の働き方を変え、社会をより良く変えようとしている。高い理想を掲げた会社である。新ポリシーは、そうした同社の姿勢を表している。
共同創設者であり、現CEOのMiguel McKelvey氏は動物の肉を食べないが、自分をベジタリアンではなく、「reducetarian (減量主義者)」としている。今日、私たちの周りには食肉が溢れていて、大量の肉を摂取できる。もし肉に偏った食生活している人が、それを改めたら健康改善になるし、そして食用の肉の生産から起こる温暖化ガス排出を削減できる。CNNによると、WeWorkの夏のイベントであるSummer Campの3日間だけで、1万頭以上の動物からの食肉が消費される。イベントでの食肉提供廃止を継続することで、2023年までに1500万頭の食肉生産に必要な167億ガロンの水、4億4510万ポンドのCO2排出を削減できると予測する。その温室効果ガス削減効果はハイブリッドカー以上だという。
でも、いくら環境のためになるとはいえ、会社のポリシーとしてはどうだろう。会社は様々な価値観を持った人達の集まりである。誰もが食生活から肉を完全に消し去ることができるわけではない。がっつり肉を食べないと力を発揮できないという人もいるわけで、そうした人にとって新ポリシーはストレスであり、一般的には受け入れられないだろう。
ウチの近所に本社があるIT大手が、複数あるカフェテリアの一部で、試験的に一週間に一度だけ「肉のない日」を設けたことがある。シリコンバレーにはベジタリアン/ビーガンの多いインド人が増えているのに、菜食主義の人達が外での食事に苦労している。そうした異なる文化の理解を広めるのも目的とした試みだった。肉を食べたければ、数百メートル先に別のカフェテリアがある。しかし、社員から猛烈な反対の声が上がり、そして反対バーベキューが大々的に開催されて「肉のない日」は失敗した。ちなみに、その企業は社内の無料ドリンク/菓子類を全てヘルシーなものにする試みも行ったことがあるが、その時も社員の大反対で元に戻した。今では逆に、多くのカフェテリアにベジタリアンやビーガン向けのメニュー、少量オーダーへの対応といったオプションを充実させている。
2015年にIBMが、安全上の懸念からUberやLyftなどライドシェアリングの利用を社員に禁じたことがある。それも社員の猛反対によって、わずか1日で取り消された。CO2排出削減につながるサービスを禁じたことへの反発もあったが、通勤方法の選択の自由を奪うようなポリシーが嫌われた。
過去に成功例がないわけではない。2000年代の中頃、社員の健康維持と、保険料などのコストダウンのために社内を全面禁煙にする企業ポリシーが受け入れられた。ガーデニング製品のScotts Miracle-Groなど、喫煙者を雇用しない方針を打ち出して論争になったが、職場の全面禁煙の動きは揺るがなかった。でも、それは国がタバコの害を認め、人々に健康被害を知らしめるキャンペーンをタバコ会社に展開させ、タバコに重い税金をかけるようになってからだ。国というより大きな規模で変化が起こっている中での企業規模の変化である。
対して今、食肉が環境に有害と考えている人は少ない。個人レベルでもまだ限られた変化なのに、それを会社規模の変化にしたら押し付けになる。
それはWeWorkも分かっている。だけど、個人レベルの主張が大きな声になるには時間がかかる。会社規模なら社会を変える蟻の一穴になれるかもしれない。だから、WeWorkは会社として食肉の問題に取り組んだ。
WeWorkの脱ミートがうまく行くと予想する人は少ない。でも、私は五分五分、少なくとも有益な議論が広がると期待できると思っている。
この夏にStarbucksやMacdonald's、American Airlinesなどが次々にプラスチック製のストローやマドラーなどを廃止する方針を打ち出した。海洋汚染を招くとの批判の高まりを受けたものだが、WeWorkはいち早く使い捨てのプラスチック製品の使用を止め、リサイクル可能または植物由来素材に代えるポリシーを打ち出していた。WeWorkは蟻の一穴になれる会社なのだ。
WeWorkは競争が激化するコワーキングスペース市場において、強いコミュニティを形成して成長を遂げてきた。コワーキングスペースというと、ベンチャー企業やフリーランサーが黙々と作業する場を想像すると思うが、WeWorkはコミュニティプラットフォームとしてデザインして、起業家やフリーランサー、そして大企業の社員が出会い・交流し、共創を生み出す場にした。会員同士をつなぐイベントを活発に行っている。それ故に、万人向けとは言いがたい。WeWorkを存分に活用できるのは、同社の考え方に賛同するアクティブな人に限られる。それはより多くの会員を集めるにはデメリットだが、そんな熱意を持った人たちが集まる濃いコミュニティだから、ビジネススタイルやワークスタイルの変化を生み出せた。
私は特に肉好きではないけど、肉を食べるし、これから菜食主義になることもないと思う。でも、WeWorkの共創に関心を持っていたから、全く関係のない食肉問題に対する同社の主張にも耳を傾け、自分のこれからの食生活について深く考えることになった。その時に、毎年新年の目標を公表しているFacebookのMark Zuckerberg氏が、2011年に自分で屠殺処理した肉を除いて菜食という目標を含めていたのを思い出した。菜食主義になる、ならないではない。問題とソリューションについて考えることが大事であり、だから今回もWeWorkが蟻の一穴になれる可能性があるように思うのだ。
WeWorkはただ働く場所を提供するのではなく、創造的なコワーキングスペースを通じて、人々の働き方を変え、社会をより良く変えようとしている。高い理想を掲げた会社である。新ポリシーは、そうした同社の姿勢を表している。
でも、いくら環境のためになるとはいえ、会社のポリシーとしてはどうだろう。会社は様々な価値観を持った人達の集まりである。誰もが食生活から肉を完全に消し去ることができるわけではない。がっつり肉を食べないと力を発揮できないという人もいるわけで、そうした人にとって新ポリシーはストレスであり、一般的には受け入れられないだろう。
ウチの近所に本社があるIT大手が、複数あるカフェテリアの一部で、試験的に一週間に一度だけ「肉のない日」を設けたことがある。シリコンバレーにはベジタリアン/ビーガンの多いインド人が増えているのに、菜食主義の人達が外での食事に苦労している。そうした異なる文化の理解を広めるのも目的とした試みだった。肉を食べたければ、数百メートル先に別のカフェテリアがある。しかし、社員から猛烈な反対の声が上がり、そして反対バーベキューが大々的に開催されて「肉のない日」は失敗した。ちなみに、その企業は社内の無料ドリンク/菓子類を全てヘルシーなものにする試みも行ったことがあるが、その時も社員の大反対で元に戻した。今では逆に、多くのカフェテリアにベジタリアンやビーガン向けのメニュー、少量オーダーへの対応といったオプションを充実させている。
2015年にIBMが、安全上の懸念からUberやLyftなどライドシェアリングの利用を社員に禁じたことがある。それも社員の猛反対によって、わずか1日で取り消された。CO2排出削減につながるサービスを禁じたことへの反発もあったが、通勤方法の選択の自由を奪うようなポリシーが嫌われた。
過去に成功例がないわけではない。2000年代の中頃、社員の健康維持と、保険料などのコストダウンのために社内を全面禁煙にする企業ポリシーが受け入れられた。ガーデニング製品のScotts Miracle-Groなど、喫煙者を雇用しない方針を打ち出して論争になったが、職場の全面禁煙の動きは揺るがなかった。でも、それは国がタバコの害を認め、人々に健康被害を知らしめるキャンペーンをタバコ会社に展開させ、タバコに重い税金をかけるようになってからだ。国というより大きな規模で変化が起こっている中での企業規模の変化である。
対して今、食肉が環境に有害と考えている人は少ない。個人レベルでもまだ限られた変化なのに、それを会社規模の変化にしたら押し付けになる。
それはWeWorkも分かっている。だけど、個人レベルの主張が大きな声になるには時間がかかる。会社規模なら社会を変える蟻の一穴になれるかもしれない。だから、WeWorkは会社として食肉の問題に取り組んだ。
WeWorkの脱ミートがうまく行くと予想する人は少ない。でも、私は五分五分、少なくとも有益な議論が広がると期待できると思っている。
この夏にStarbucksやMacdonald's、American Airlinesなどが次々にプラスチック製のストローやマドラーなどを廃止する方針を打ち出した。海洋汚染を招くとの批判の高まりを受けたものだが、WeWorkはいち早く使い捨てのプラスチック製品の使用を止め、リサイクル可能または植物由来素材に代えるポリシーを打ち出していた。WeWorkは蟻の一穴になれる会社なのだ。
WeWorkは競争が激化するコワーキングスペース市場において、強いコミュニティを形成して成長を遂げてきた。コワーキングスペースというと、ベンチャー企業やフリーランサーが黙々と作業する場を想像すると思うが、WeWorkはコミュニティプラットフォームとしてデザインして、起業家やフリーランサー、そして大企業の社員が出会い・交流し、共創を生み出す場にした。会員同士をつなぐイベントを活発に行っている。それ故に、万人向けとは言いがたい。WeWorkを存分に活用できるのは、同社の考え方に賛同するアクティブな人に限られる。それはより多くの会員を集めるにはデメリットだが、そんな熱意を持った人たちが集まる濃いコミュニティだから、ビジネススタイルやワークスタイルの変化を生み出せた。
私は特に肉好きではないけど、肉を食べるし、これから菜食主義になることもないと思う。でも、WeWorkの共創に関心を持っていたから、全く関係のない食肉問題に対する同社の主張にも耳を傾け、自分のこれからの食生活について深く考えることになった。その時に、毎年新年の目標を公表しているFacebookのMark Zuckerberg氏が、2011年に自分で屠殺処理した肉を除いて菜食という目標を含めていたのを思い出した。菜食主義になる、ならないではない。問題とソリューションについて考えることが大事であり、だから今回もWeWorkが蟻の一穴になれる可能性があるように思うのだ。