石油精製や造船、病院向け需要で先行者利益が見込めるマレーシア東部での産業ガス供給や、石油市況の回復に伴う溶接関連の伸びが寄与するとみている。

 特にマレーシアでの溶接材料や安全保護具の生産・仕入れ販売は、「ゼネコンや各種製造業からの引き合いが旺盛で、年10%以上の成長が見込める有望市場」(LNOXのケルビン・リー社長)と位置付ける。

 この機にあらゆる顧客を囲い込むことで石油・ガス開発向けで生じる需要のバラツキを吸収できるようにし、安定して収益を確保できる体制を築く戦略も掲げる。

 そのために打つ手は三つある。まず、今後3年をかけてマレーシアの販売代理店を現在の300社から500社に拡大する。併せてインターネット通販の使い勝手を向上し、ショールームを兼ねた直営店の新設も検討する。「とにかくお客さまとの接点を増やす」(タム会長)狙いだ。

 人気の安全保護具ブランドで持つ独占販売権や、自社を含む30社以上の品ぞろえも訴求する。

アジア・米国市場に集中
 「パートナーの企業文化や基本方針を尊重する」。地域統括会社タイヨウ・ニッポン・サンソ・ホールディングス・シンガポールの石川紀一社長(大陽日酸常務執行役員)が、東南アジアへの進出で最も重きを置いてきた点だ。

 現地同業との合弁を軸とし、事業拡大にも現地スタッフを育成して応える。日本人駐在員は増やさない。それを“海外メジャー”と異なる手法と評価する関係者は多い。

 日本では製造業各社の海外移転が進んだ結果、産業ガス市場が成熟。大陽日酸は新たな収益の柱を育てようとアジアや米国での合弁設立やM&A(合併・買収)を推し進め、確実に成長に結びつけてきた。

 主な対象は空気分離装置(ASU)のような生産設備を構える同業と、これらメーカーや化学工場から各種ガスを仕入れてボンベに充填・供給する地域の販売会社だ。

 その成果は大きい。2018年3月期の業績予想では、国内ガス事業の売上高3410億円に対し米国とアジア・オセアニアを足した海外ガス事業は2670億円とほぼ互角。特に今期は仏エア・リキードから米国の一部事業を買収した上乗せ効果も寄与する。大陽日酸の市原裕史郎社長は「北米ではメジャーと遜色ない生産能力と市場シェアを手に入れた」と胸を張る。

 それでも、世界規模ではメジャーの背中は遠い。メジャー同士で相次ぐ経営統合も一因だ。16年に首位のエア・リキードが当時6位の米エアガスを買収。18年内には2位の独リンデと3位の米プラクスエアも統合手続きを終える見通しで、世界シェアはこの2大グループだけで60%を超えてくる。現時点で約6%の大陽日酸は、さらに厳しい戦いを強いられるようにも見える。

 だが、メジャーの巨大化は大陽日酸にとって事業拡大の好機でもある。例えばリンデとプラクスエアの場合、シェアが高まる国や地域では事業売却を求められる公算が大きい。

 市原社長としては「知識も経験もある領域で経営する自信もある」だけに、最優先でメジャーから売却される事業の取得を目指す姿勢を明確にしている。
(文=堀田創平)