バイト採用に苦戦する会社の大いなる勘違い
なぜ採用できないのでしょうか(写真:Masaru123 / iStock)
アルバイトやパートも採用できない
正社員だけでなくアルバイト・パート(非正規社員)も採用できない……。そんな悲鳴が採用の世界でこだましています。
時給を上げても応募がわずか。それどころか、応募がゼロというケースも。業界問わず、採用に苦労しているという声を頻繁に耳にします。2017年12月の全国平均時給は過去最高水準を更新。地域的には東海エリアが2年10カ月ぶりに「関西エリア」の平均時給を上回るなど、特性により違いがあるものの、上昇傾向は変わりません。
外食、サービス業界などの経営者から、採用ができなければ店を閉めなければならない……と死活問題になっているという話も聞くようになってきました。
ところが時給を上げても他社が追随するので焼け石に水。それに、時給を上げ続けていたら経営も成り立ちません。この状態が当面続きそうなので、会社は別の効果的な公募条件を模索しています。こうした中、効果的な応募条件になるのではと期待され増えているのが「正社員登用制度あり」の一言。
このところ、求人サイトで見かけることが増えています。このキーワードで検索すると求人がズラリと並びます。ただ、土日休み×残業少なめ、サポート体制バッチリで未経験でも安心。20〜40代女性多数活躍中……といったキャッチコピーの脇に【正社員登用あり】のアイコンでさりげなく紹介されているだけ。実際のところ、どれくらいの実績があるのか? どのような条件を満たすと正社員になれるのか? なかなか詳細はわかりません。でも、増えているということは効果ありと、採用担当は考えているのでしょう。非正規社員の採用に関して正社員登用が効果的なのか? 考えてみたいと思います。
そもそも「正社員登用あり」というのは、非正規社員にとって魅力的であると会社側は考える傾向があります。その理由は単純で、非正規社員は正社員なりたいはず……と思っているから。詳しくは後述しますが、その状況は変わりつつあるようです。必ずしも正社員になりたい人ばかりではなく、有効な条件とは必ずしも言えないのです。
ちなみに非正規社員から正社員登用の実績がある会社は全体のうち約半数。正社員登用が多い会社は、制度として仕組みが確立している傾向がありそうです。(労働経済動向調査・平成29年2月より)
どのような過程を経て正社員に登用されるのか
では非正規社員が、どのような過程を経て正社員に登用されることが決まるのか? 企業によって異なりますが、一定の勤続年数を経て、正社員と同等(あるいはそれ以上)の成果ややる気があると会社(ないしは直属の上司)が判断。「正社員にならないか?」と声がかかり、面接や試験を経て正社員への道が開かれることになります。
ただ、登用の基準はかなり曖昧。職場における正社員の充足状況で変わる傾向があります。社内で正社員が不足している状況では登用の基準が下がり、正社員になる非正規社員が続々と出てくる状況。ところが、正社員が充分に足りてくると登用の門戸は厳しくなります。つまり、正社員登用ありと書かれていても、時期によりなれる可能性はかなりばらつきがあり、不明ということ。「正社員登用あり」の一言をあてにして応募したら、痛い目をみることがあるかもしれないのです。
取材した広告代理店で営業職をしているSさんは、正社員登用があると採用条件に書かれた求人情報から応募。応募した時点では派遣社員としてコールセンターに勤務していました。面接の際、正社員登用の可能性を質問したところ、「当社では昨年だけで20人以上の正社員登用が行われました」と説明がなされました。Sさんは結婚を考えており、将来の安定を望んでいたので正社員登用があるのなら、最初は非正規社員でもいいと応募したのでした。そして、Sさんは契約社員として営業職に採用されましたが、3年が経過しても正社員登用される気配がありません。会社の業績は順調とはいえず、この2年で正社員登用された人は1人もいません。Sさんは不信感を抱きながら会社を辞めてしまいました。
こうした残念なケースでは、会社も個人も不幸な状態になります。正社員登用に関して、採用でアピールするのであれば、それなりに門戸を開いておいてほしいものです。では、門戸を開いて正社員登用を行えば、アルバイト・パートの募集に効果的か? そうともいえない状態になってきているようです。
確かに正社員になることはメリットがあります。収入面の安定や社会保険の充実に加えて、社会的信用の獲得になります。そこで非正規社員は正社員になりたいものだと多くの会社が考えていました。日本経済は長く不況にあえぐ時期が続き、正社員になりたくてもなれない人がたくさん出ました。そして、非正規社員になると正社員になることが困難な時代が何年も続いてきました。
ところが、状況が変わりつつあります。その前提となるのが時給の急上昇。以前の記事でも書きましたが、勤務時間の柔軟さに加えて、仕事に対する責任の度合いや上昇傾向の時給などを勘案して「非正規社員のままでも十分に幸せ」と考える人が増えつつあります。
さらに非正規雇用について、2018年に実施される労働契約法18条の「5年ルール」が正社員登用の道を広げつつあります。5年ルールとは有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者が期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されること。あえて正社員への道を明示しなくても同じ職場で長く働けば自動的に長期安定雇用が実現できるようになるのです。
「正社員登用あり」は魅力的ではなくなった
もはや「正社員登用あり」は採用の際の魅力あるキャッチとはなりえず、非正規社員のままで仕事をすることに、(正社員とは違った)魅力を打ち出す努力が必要になってきたのではないでしょうか?
たとえば、当たり前ですが、自由度が高いということ。勉強やかなえたい夢のために時間を使いたい、持病がありフルタイムで働くことが難しいといった人にとっては、比較的短時間の勤務ができる非正規社員は魅力的なシステムでしょう。また、雇用契約の時点で、職務の内容が決められていることがほとんど。そのため、業務内容が契約と違っていれば拒否できます。自分に合った職務内容であるかどうかを事前に確認できるというのも、非正規社員のメリットでしょう。
でも、これだけならどの職場でも同じです。独自の魅力を考えることに知恵を絞りたいものです。たとえば、アルバイト・パートだけに行う研修プログラムやインセンティブ制度。正社員より優遇されるくらいの仕組みを構築する発想をもたないと応募者は増えないのではないでしょうか?「正社員になれる」ではなく、アルバイト・パートで働くことが魅力的に感じるメッセージを会社は考えていく覚悟を求められる時代になったのです。