アリーナ・ザギトワ【写真:Getty Images】

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15歳が掴んだ金メダル…「最強プログラム」を演じ切ったザギトワの強さとは

 平昌五輪フィギュアスケート女子の金メダル争いは、稀に見るハイレベルな戦いだった。同門のロシア選手2人が、ともに完璧な演技を披露。そして、若き五輪女王が誕生した。21日に行われたショートプログラム(SP)で82.92点の歴代世界最高得点を塗り替えて首位に立ったアリーナ・ザギトワ(OAR)は、今季シニアデビューを果たした15歳。グランプリシリーズ(GP)2戦、GPファイナル、欧州選手権と出場した大会を総なめにし、無敗で五輪を迎えた彗星は一気に金メダル候補筆頭に躍り出ていた。

 五輪シーズン前の2シーズンは、ザギトワと同じコーチに指導を受けている世界選手権連覇中のエフゲニア・メドベージェワ(OAR)が主要国際大会で勝ち続けており、平昌五輪女王にはメドベージェワがなるはずだと目されていた。しかし、今季途中に右足中足骨を疲労骨折した18歳の世界女王が戦列を一時離れている間の大きな2つの国際大会をザギトワが制して、トップの序列を明け渡す格好になっていた。メドベージェワが怪我明けの復帰戦で出場した欧州選手権で今季初の対決となったが、その結果は若さと勢いがあるザギトワの圧勝だった。

 そして、迎えた平昌五輪。明らかに金メダル争いで優位に立っていたのはザギトワだったと言えただろう。メドベージェワよりも3歳若いザギトワには、若さと勢い、そしてタフな体があった。シーズンの後半戦では、ジャンプもスピンもステップも安定感が増してきて、まったくと言っていいほどぶれない演技を常に見せていた。五輪用に作った勝負プログラムは、SPもフリーでさえも、基礎点が1.1倍となる演技後半にジャンプを全て組み込んで得点を稼ぐ驚異的な演技構成を演じきった。

 フリーでプログラム後半に7本のジャンプを組み込み、すべて跳んだ選手はザギトワだけだ。4分を滑りきるだけでも相当の体力が必要で、メダル争いを繰り広げた上位勢のほとんどは後半に5本を跳ぶのが精一杯だった。プログラムのジャンプ構成だけをみても、ザギトワは大きな武器を手に入れていたことは間違いない。シーズン前半戦はこの難しいプログラムをまだ滑りこなせずにジャンプで失敗を見せていたが、試合を重ねるごとに完成度を上げてきたことは言うまでもない。

世界最高得点をたたき出したSP、しっかりと実践した“勝負のセオリー”

 戦前の予想通りにSPで首位発進したザギトワは、最終グループの22番目に滑ったフリーでもほぼパーフェクトな演技を見せ、フリー156.65点、自己ベストを1.33点更新する世界歴代2位の合計239.57点を出し、首位をキープ。そして、24番目の大トリで滑ったメドベージェワの演技結果を待った。最終滑走者である姉貴分の合計得点が238.26点と出て、逃げ切っての五輪初の金メダル獲得が決まった瞬間、普段からあまり感情を表に出さないザギトワは大喜びすることもなく、静かに勝利を噛みしめながら下を向き、うれし涙を拭った姿が印象的だった。

 なぜ、ザギトワは世界女王をわずか1.31点差で抑えて勝つことができたのか。まずは、他を圧倒する演技構成のプログラムだったSPとフリーでノーミス演技をしたことで、ジャッジから高い出来栄え(GOE)加点をもらえた。特に、SPで歴代世界最高得点をたたき出して首位発進したことは大きい。この勝負のセオリーをしっかりと実践できたことが最たる勝因として挙げてもいいだろう。フリーの得点がメドベージェワと同じとなり、SPでの1.31点差を生かして逃げ切れたからだ。また前述したように、若さを前面に押し出した「最強プログラム」を完璧に演じ切り、ジャンプ構成の中で、最も難しい3回転ルッツ―3回転ループを組み込んだり、ほとんどジャンプで両手を挙げてGOE加点を引き出したりするなど、技術面では他の追随を許さない内容だった。

「ミスは絶対にしてはならないと感じていました。これが、やる気と心配を同時に呼び起こしました。手が震えましたが、練習で何度も繰り返したことを体が覚えてくれていたので、自然に体が動いて演技ができました。自分がチャンピオンになったなんて信じられない」と素直に喜び、試合後の表彰式で表彰台にうれしさの余り、ジャンプして飛び乗った場面は、15歳らしい幼さが垣間見られて微笑ましかった。

 シニアデビューシーズンで出場した試合全てで優勝を成し遂げ、無敗街道まっしぐらでロシア女子として初めて五輪女王の座まで上り詰めた。1998年長野大会を15歳8か月10日で五輪を制したタラ・リピンスキー(米国)に次ぐ、史上2番目の15歳9か月4日の五輪女王のこれからの成長がどうなるのか、少し心配でもあるが、大きな楽しみでもあるだけに、今後の活躍を期待していきたい。(辛仁夏 / Synn Yinha)