楽天「第4の携帯キャリア」参入の勝算は? 設備用調達額はドコモの7分の1:週刊モバイル通信 石野純也 
楽天が、1.7GHz帯および3.4GHz帯の電波を取得し、携帯電話事業に参入する方針を明かしまた。実現すれば、ドコモ、KDDI、ソフトバンクに続く、「第4のキャリア」が誕生する運びになります。

●楽天が第4のキャリアに名乗りを上げた

1.7GHz帯、3.4GHz帯は、防衛省や放送事業者が使う無線を移行したうえで、携帯電話向けに割り当てる周波数。既存事業者では、ドコモが、割り当ての申請を検討していると発表していました。1.7GHz帯のLTEは「Band 3」、3.4GHz帯は「Band 42」として標準化されており、前者はドコモとソフトバンクが、後者は3社がすでに活用している周波数です。

ここに空きを作り、ひっ迫するトラフィックに備えられるようにするというのが、総務省や各キャリアの狙いになります。端末の仕様にもよりますが、追加で40MHz幅(Band 3はFDD方式のため、下り20MHz、上り20MHz)を取得できれば、キャリアアグリゲーションを使って、速度を倍増以上に向上させることも不可能ではありません。

▲1.7GHz帯、3.4GHz帯の再編案。現在、パブリックコメントを受付中。画像は総務省の「第4世代移動通信システムの普及のための周波数の割当てに関する意見募集」の別添2から引用

この1.7GHz/3.4GHz帯を獲得し、新規に携帯電話事業を始めるというのが、楽天の考えです。一見すると、既存事業者のための施策に思える今回の周波数割当ですが、総務省の発表している指針案を見ると、新規事業者を排除していないことが分かります。むしろ、開設計画などで同点だった場合は、新規事業者を優先する旨が掲げられているほどです。ここに目を付けたのが、楽天だったというわけです。可能性は未知数ですが、新規事業者ということで、周波数を獲得できる確率も高くなります。


▲新規事業者は加点されることが明記されている(第4世代移動通信システムの普及のための周波数の割当てに関する意見募集 別添2)

一方で、楽天はMVNOとして、楽天モバイルを運営しています。楽天は、11月にPOM社ことプラスワン・マーケティングのMVNO事業を買収。ユーザー数は140万を突破したばかりで、1月にはブランドの統合も控えています。POM社以外にも、経営が厳しくなりそうな他のMVNOを買収する意向を示していた矢先でもあったため、自らが設備を持つMNO(Mobile Network Operator)になろうとするのは意外な展開です。


▲楽天モバイルは、POM社のMVNO事業を買収して、140万契約を突破したところ

●「6000億円」の設備投資額から見えること

では、楽天にはどのような勝算があるのでしょうか。参入の意思表示をしたばかりで、具体的な説明がないため、この部分は推測するしかありませんが、まず注目したいのは、同社が掲げている6000億円という借入額です。楽天は、2025年までに、最大6000億円の借り入れを行い、キャリアとして必要な基地局やコアネットワークなどを展開していく予定であることを明かしています。


▲楽天によると、設備投資のための資金調達額は最大で6000億円となる

6000億円と聞くと、膨大な金額に思えますし、筆者ももらえたら一生遊んで暮らすことは確実ですが、キャリアの設備投資額にすると非常に小さな金額になります。たとえば、ドコモは前年度に5971億円を設備投資に使っていますし、それよりも少ないKDDIでも5194億円、ソフトバンクも3205億円が年間でかかっています。楽天の6000億円は、ちょうどドコモの1年分ですが、2025年までということは、参入予定の2019年から7年間分。1年あたり、1000億円にも満たない金額で、年ベースで比較するとドコモの1/7程度になります。


▲ドコモの設備投資額は前年度で5971億円。今年度も5700億円を見込む

しかも、大手3社は、すでに用地を確保したり、鉄塔を建てたりしたうえで、追加の費用としてこの金額を見込んでいます。ゼロベースから基地局やコアネットワークを作らなければなず、しかも800MHz帯などのプラチナバンドもない楽天の場合、金額はもっと大きくなってしまうでしょう。ただし、これはあくまで、全国規模で、津々浦々まで電波が届くことを想定した場合の話。逆に言えば、楽天は、一部の大都市に特化して、高速なネットワークを作るということなのかもしれません。

このシナリオであれば、MVNOの楽天モバイルを併存させ、ネットワークを統合的に使うようにしていくはずです。全国区ではドコモのMVNOとしてサービスを提供しつつ、都市部などでは自前のネットワークにつながるようにするという目論見があるのかもしれません。もちろん、それをするには、加入者管理機能と呼ばれるHSS/HLRをドコモに開放してもらい、楽天が自らそれを運用しなければなりません。技術的には可能でも、現状、ドコモのHSS/HLRはIIJにしか開放されていません。上記のような筋書きであれば、今後、ドコモとの交渉を進めていかなければならないはずです。


▲IIJのように加入者管理機能を持てば、MVNOと自前のネットワークを統合できる可能性もある。写真はIIJがフルMVNOを解説したときのもの

もう1つ考えられるのが、当面の間、エリアは他社のローミングに頼るという手です。実際、イー・モバイルが、参入した当初は、エリア補完のために、3年間という期間限定で、ドコモにローミングすることができました。その後、ネットワークがある程度整備されたことから、ローミングサービスは予定通り2010年に打ち切られましたが、交渉によってはもっと期間を延ばせるかもしれません。既存事業者にとっては収益にもなるため、条件次第ではこの可能性も考えられます。


▲イー・モバイルも、当初3年は、ドコモにローミングしていた。写真はサービスイン当時のもの

もっとも、これはあくまで筆者の予想に過ぎず、楽天としては自前のネットワークで全国規模のサービスを展開したいのかもしれません。ただ、過去にはイー・モバイルやウィルコムがソフトバンクに買収されたり、参入以前にIPモバイルが破たんしたりと、なかなか「第4のキャリア」は長く続かなかった経緯もあります。諸外国を見ても、たとえばアメリカではソフトバンク傘下のスプリントが、第3位のT-Mobileとの合併を目論んでいたように、4位のキャリアは苦労も多いのが現状。人口の規模を考えても、4社目が入り込む余地は大きくありません。

もちろん、IoT用の回線を提供して、人口以上の回線数を取れるのならいいのですが、そちらはそちらで1回線あたりの収益が低いという現実があり、大手との競争はより熾烈になります。あえてこのタイミングで参入を表明するというのは、楽天ならではの戦略があってのことでしょう。参入の発表をしたばかりで、全貌が明らかになるのはこれからのことですが、どのような秘策があるのかは注目しておきたいポイントと言えます。