コンビ解消が決まっているからか、鈴鹿でのマクラーレンとホンダの合同会見はまるでお葬式のような雰囲気…

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新生「マクラーレン・ホンダ」にとって3度目の、そして「最後」のF1日本GP(三重県鈴鹿サーキット、10月8日決勝)が終わった…。

その3週間前の9月15日、マクラーレンとホンダは今季限りでの契約解消を発表。マクラーレンは来季からルノーのパワーユニット(以下、PU)を搭載。一方のホンダはイタリアの中堅チーム「トロロッソ」と3年契約を結び、新たな挑戦を始める。

大失敗に終わったマクラーレン・ホンダの3年間とはなんだったのか? そして、トロロッソとの新コンビに「希望」はあるのか? 日本GPが開催されたスズカのパドックで、チーム関係者や外国人ジャーナリストを直撃した!

■ペナルティの合計は700グリッド以上!

「セナ・プロスト時代のあの栄光をもう一度」と、2015年から始まったホンダの「第4期F1」活動だったが、ホンダの挑戦は1年目から大きくつまずいた。以来3シーズンにわたって「マクラーレン・ホンダ」は下位に低迷…。

ホンダのPUはメルセデス、フェラーリ、ルノーというライバル勢に性能で劣るだけでなく、信頼性の面でも深刻な問題を抱え、マクラーレンの足を引っ張り続けた。

ちなみに、今のF1では「年間4基まで」の制限を超えてエンジンやPU関連のパーツなどを交換した場合、「スタートグリッド降格ペナルティ」が与えられることになっているのだが、過去3シーズンでマクラーレン・ホンダが受けたペナルティの合計は実に「700グリッド以上(!)」というのだから、そんなホンダにマクラーレンが「愛想を尽かした」のも無理はない。

今シーズン、開幕前に行なわれたテストでホンダのPUがまたもトラブルを連発すると、マクラーレンはホンダとの「離婚」に向けて動きだした。ドライバーのフェルナンド・アロンソと共に、ホンダへの不満や「エンジンサプライヤー変更」について、半ば公然とアピールし続けてきたのだ。

そうしたマクラーレンのやり方は、ホンダの発奮を促す「愛のムチ」と呼ぶにはあまりにエゲツナかったし、共に戦う「パートナー」として理想的な態度とも言い難い。

だが、キツイ言い方だが、それも含めてすべては「ホンダの責任」。何よりもまず、過去3シーズン、ホンダが信頼性と戦闘力を備えたPUをつくれなかったという事実が、この惨めな状況を招いたことは明らかだ。

また、大きな期待が逆にプレッシャーになることを知りながらF1復帰1年目から名門チームのマクラーレンと組み、アロンソとジェンソン・バトンというふたりの元世界チャンピオンをドライバーに起用したのも、ホンダが「すぐに勝てる」と自らの実力を過信していたからだろう。それは言い換えれば「F1をナメていたから」にほかならない。

いずれにしてもマクラーレン側がホンダに愛想を尽かした以上、「3年目の離婚」はもう避けようがなかったし、そのことをグダグダ悔やんでも仕方ない。問題は「これからどうするか?」である。

■酔っぱらいのカップル誕生?

マクラーレンに代わって、来季からホンダと組むのはイタリアに本拠地を置く中堅チームの「トロロッソ」。チーム名はイタリア語で「赤い牛」。強豪レッドブルの2軍的な「ジュニアチーム」として知られ、往年のF1ファンには「かつてのミナルディを母体としている」と言えばわかりやすいだろう。

レッドブルのサポートを受けているため、以前のミナルディほどの貧乏チームではないが、現在のF1の中ではチーム規模も比較的小さく、マクラーレンと比べたらザックリ言って3分の1程度。当然、チームの予算も設備もスタッフの数も限られている。

そんなトロロッソとホンダの新たなコンビに何を期待すべきなのか?

「普通に考えれば、元ミナルディのトロロッソと、3年間失敗続きのホンダの組み合わせは、泥酔した男と女が間違ってベッドを共にしてしまったようなものだ…」

と厳しい見方を示すのは、南アフリカ人でベテランF1ジャーナリストのディーター・レンケン氏だ。

「マクラーレン・ホンダの失敗は決してホンダだけのせいではなく、マクラーレン側の問題もあったと思う。だが、そのマクラーレンに見限られ、一度は決まったザウバーへのエンジン供給の契約も破棄されてしまったホンダにとって、残された道は『撤退』か『トロロッソ』だけだった。

そして、このタイミングで大手自動車メーカーをF1から失いたくなかったFIA(国際自動車連盟)やF1を運営する『リバティメディア』が必死にサポートする形で、なんとかトロロッソとの契約に漕ぎつけたというのが実情だ」(レンケン氏)

では、一方のトロロッソはどうなのか?

「親会社兼スポンサーのレッドブルがトロロッソへのスポンサー負担を減らしたいと考えていて、無償のホンダエンジンに加え、将来、ホンダからの資金供給も期待できると期待して契約を受け入れたのだろうね。

だが一歩引いて見れば、現時点でのトロロッソ・ホンダは『最低のPUサプライヤーと弱小チームの組み合わせ』という現実は変わらない。

来季、ホンダのPUが奇跡的な進歩を見せて、トロロッソが歴史的な傑作マシンを生み出さない限り、トロロッソ・ホンダに『期待できること』には、やはりそれなりの限界があると考えるべきだろう」(レンケン氏)

■マクラーレンのように高圧的だったり傲慢な感じではない

一方、トロロッソ・ホンダにポジティブな期待を寄せるのは、F1の技術面に詳しいイギリス人ジャーナリスト、サム・コリンズ氏だ。

「ホンダとトロロッソの組み合わせは個人的には悪くないと思っている。トロロッソは小さなチームだけど、技術部門を率いるテクニカルディレクターのジェームズ・キーは、F1界でも新世代を代表するエンジニアとして注目されているひとり。

5年前に彼がチームに加わって以来、トロロッソのマシンは大きく進化していて、一部のアイデアはマクラーレンなど、ほかのトップチームにもコピーされているほどなんだ。ちなみに、以前はジョーダン・ホンダでもデザイナー・エンジニアとして働いていたから、当時、ホンダの日本人と働いた経験もあるんじゃないかな?」

それにマクラーレンより、職場の空気も良さそうだ。

「もちろん、トロロッソ・ホンダが次のシーズンでポジティブな結果を残すためには、まずホンダが自分たちのPUを大きく進化させることが大前提だけど、トロロッソはマクラーレンのようにチームの雰囲気が『高圧的』だったり、『傲慢』な感じではないから、チームとのコミュニケーションはこれまでに比べてはるかにやりやすいと思う。それに変な言い方だけど、トロロッソが相手ならいきなり『優勝』や『表彰台』を期待されることもないだろ?

そもそも、まだ十分な実力もないのに『マクラーレン』や『アロンソ』と組んで、いきなり周囲の期待値を上げちゃったことが、第4期ホンダF1の大きな失敗だったんだから、この際、中堅チームのトロロッソと『地道にイチからやり直す』のは今のホンダにとって『ちょうどいい組み合わせ』だと思うね。

あと、トロロッソはF1でも飯が一番うまいと評判なんだ。日本人はイタリアンとか好きだし、食べ物が合うっていうのは意外と大きいことだろ? チームがいい形で回っていけば、僕たちの期待以上の結果を見せてくれる可能性は十分にあるんじゃないかな」(コリンズ氏)

◆この続きは、明日配信予定!

(取材・文/川喜田 研 撮影/池之平昌信)