iモード企業が味わった、絶頂とスマホの苦悩
iモードブーム後、ビジネスモデルの構築に尽力してきたアクロディアの堤純也社長(写真:尾形文繁)
かつてのiモード企業は絶頂期の輝きを取り戻せるのか――。
コンテンツ配信・アプリ開発会社のアクロディアがグアムのビンゴ関連事業に進出する。米国領グアム自治区のビンゴ会社「Guam Entertainment System」(GES社)を親会社とする日本法人「エンターテイメントシステムズ」(ES社)を株式交換で完全子会社化。ゲーミング(ギャンブル)向けスマートフォンアプリの開発・提供を開始する。ES社は株式交換による三角合併をするために設立された会社だ。
グアムのビンゴをスマホアプリ化
堤純也社長によれば「グアムでは、ビンゴが観光客向けではなく住民のギャンブルとして定着している」という。日常的に行われているほど盛んで、忘年会などで行われる日本のビンゴゲームに比べると、並び順による得点のルールが複雑なのだそうだ。
グアムではビンゴを運営できるのは社会貢献をしているNPOに限られ、「1日4時間以内」「日中か夜のどちらかしかできない」などの規制があるという。堤社長は、グアムでビンゴ会場やゴルフ場を運営している日本人と今年3月に日本で知り合い、今回のビンゴ進出を決めた。
グアムのビンゴ会場の様子(写真:アクロディア)
グアムでビンゴをしたい住民は会場に行き、専用タブレットの貸し出しを受けてプレーするのだという。アクロディアは、専用タブレットをスマホアプリで代替することで、会場に行かなくてもビンゴができるようにする。
GES社の年商は70万ドルだが、スマホアプリ化による利便性向上で「倍の140万ドルくらいには持っていけるだろう」と堤社長は意気込む。海外への横展開も視野に入っている。「米ラスベガスにも横展開が可能だし、日本でもIR(統合型リゾート)実施法案次第で開始できるかもしれない。中国や韓国でも営業を開始しようと思っている」(堤社長)。
アクロディアは営業赤字が続き、継続企業の前提に疑義注記がついている経営不振企業。2017年8月期も3億円強の営業赤字の見込みである。「2018年8月期もまだ営業赤字が若干残りそうだ」と堤社長はいう。
ただ、のれん償却を除いたEBITDA(償却前営業利益)ベースでは2017年第3四半期(3〜5月期)に黒字化、第4四半期(6〜8月期)も黒字だったもようだ。堤社長は「過去のリストラや事業再構築の結果、2018年8月期はEBITDAが通期で黒字化する」と言う。
2004年創業のアクロディアはかつて、従来型携帯電話(ガラパゴス・ケータイ、略称ガラケー)内部の動作をつかさどる組み込みソフトでほぼ100%のシェアを有していた。NTTドコモのネット接続サービス「iモード」が全盛だった頃のことである。携帯電話の普及を追い風に2006年には設立2年強で東証マザーズにスピード上場を果たした。
スマホ時代に変わり、第二の創業
だが、スマホ時代に変わり、米アップルのiPhoneや米グーグルのアンドロイド端末が普及すると、アクロディアのソフトが不要となった。
サッカー日本代表のゲームは同社のゲームの中でも長く遊ばれている(写真:アクロディア)
そこで「第2の創業」と位置づけ、スマホ向けサービスの開発に転換。サッカー日本代表のスマホゲームや携帯ショップ向けデモ端末の管理システムなど安定的な収益源を作ることに注力してきた。
ただし、ゲームや管理システムにはミドルウエアが開けた大きな穴を埋めるほどのインパクトはなく、営業赤字を垂れ流し続けた。
2015年からはIoT(モノのインターネット)向けシステムを開発。インターホンにスマホで返答できるシステムや、野球の球にセンサーを仕込んで球筋を精査するシステムなどを開発したものの、IoTの普及スピードは思ったほど速くはなかった。黒字浮上の決め手とはならなかったのだ。
2016年にはM&A戦略による事態打開を図った。だが、オーガニックサプリ販売・オーガニックサロン経営のエミシア社を買収したものの、譲渡元からエミシアへの事業承継が予定どおりに進まず、結果として売上高は計画を大きく下回った。
ここからが「第3の創業」だ
2017年になると不動産サブリース会社・渋谷肉横丁社を、新たな筆頭株主となった弁護士の田邊勝己氏から買収。このM&A効果とリストラ効果でEBITDAが黒字化したのだという。
第三の創業は実を結ぶか(撮影:尾形文繁)
堤社長は「リストラ、事業再構築、安定株主作りが完了。ここからが第3の創業だ」と意気込む。2015年に開始したIoT事業も徐々にだが拡大してきている。
インターホンアプリは大手不動産会社での一棟ごとの採用が進み、野球の球はプロ野球球団での本格採用が動き出している。
今回のビンゴ会社買収後のビンゴ事業拡大がうまくいけば、再来期以降に営業黒字化し疑義注記が外れる可能性が出てくるかもしれない。はたして堤社長の思惑どおりになるだろうか。