ラップを展示する。市原湖畔美術館「ラップ・ミュージアム」がアツい
日本初、ラップをテーマにした美術展「ラップ・ミュージアム」が、8月11日より、千葉県市原市の市原湖畔美術館で開催されています。
テレビ番組「フリースタイルダンジョン」のヒットもあり、最近巷で浸透しつつあるラップ。でも実際のところ、ラップってどんな音楽で、どのようにして楽しまれているんだろう……? そんなモヤモヤとした疑問を解き明かすように、文化としてのラップを体系的に解き明かしていく試みが行われています。
エントランスをくぐって目の前に飛び込んでくるのは、人気ラッパー「サ上」ことサイプレス上野さんの自宅を再現した展示。
生活感あふれる和室のなかには大量のレコードや本、そしてリリック(歌詞)をしたためるデスク。
息つく暇もなく、ラップの世界に引き込まれます。
机のうえには、上野さんが実際に使用したリリックノート(作詞ノート)が。
一文字一文字とんがった筆跡が、書いたときの心象風景をほうふつとさせます。
こちらはラップの音楽的な構造をインフォグラフィック風に解説する展示。
プレーヤーから流れるトラックにあわせ、リリックの文字が動いたりハイライトしたりします。
普段耳でなんとなく「気持ちいいなぁ」と聞いていたラップ。
でもそれを音楽として分析すると、とても精密に作られた「仕組み」であることに気づかされます。
文の頭とお尻の部分で韻を踏んでいくものもあれば、矢継ぎ早に飛び出した単語を、特徴的な音の言葉で「つないでいく」ものも。
世代やアーティストの作風によって、その「仕組み」もさまざま。
こんなに高度な技術が込められていたなんて…… 知的好奇心がムクムクします!
今回のなかでもとくに印象的なのが、リリックノートの展示コーナーです。
リリックを書くとき、ラッパーたちはどんなことを考えているんだろう……
ここではスチャダラパーのAniさん、BOSEさんをはじめ、SHING02さん、TWIGYさん、K DUB SHINEさんなど著名ラッパーたちの頭のなかをのぞき見る体験ができます。
大学ノートにまるで論文のように整然と書かれたノートもあれば、紙の切れ端に思いをそのまま書きなぐったものも。
頭に浮かんだイメージをとにかく急いで書きとめたのか、言葉と同じくらいにイラストの落書きで埋められたものもあったり、それらを目で追っていくだけで、新たなラップが生まれる瞬間の衝動が感じられます。
展示フロアの地下に通じる階段を降りた先は「第2章」のゾーン。
日本語ラップ黎明期の80年代を筆頭に、暮らしのなかにあったラップカルチャーの片鱗を一挙に眺めることができます。
まだインターネットが普及していなかった当時、ラッパーたちが最新の音楽や自分たちの作品を流通させるために大きな役割を果たした「ミックステープ」の現物展示は、ラップに詳しくなくても感慨深くなること間違いなし。
ほかにも、バブル真っ盛りの時期に開催されていたラップやDJのコンテストの映像を見ることができたり……
ラッパーたちの著書を手に取って読めるエリアも。
そんななか、不意打ちで感動させられてしまう一角があります。
リリックのなかでよく耳にする「レペゼン」という言葉をテーマにした展示です。
「〇〇代表」という意味合いで使われることの多いこの言葉ですが、そこに込められているのは深い深い地元愛。川崎の町を題材に取られた情感あふれる写真には、おもわず目頭が熱くなってしまうこと間違いなし。
文化としてのラップが日本でどのようにして産声を上げ、育っていったかを知ることができる展示の数々。背景を学んだあとに聞くラップは、以前よりも味わい深く聞こえるかもしれません。
「ラップとはいったいどういうものなのか、どんな文化を生んできたのか…… とにかくラップに関するあらゆることを展示=可視化したいと考え、荏開津広さん、ダースレイダーさん、磯部涼さんを中心に企画協力をしていただきました。ラップの様々な側面、そしてそれを生み、支えてきた人々の実践の一端を見ていただけたらと思います」
そう語るのは、この「ラップミュージアム」の企画者で、市原湖畔美術館学芸員の渡辺文菜さん。いつか美術館でラップを扱った展示をしたい、という念願を今回叶えることができたといいます。
今回の展示の大きな特徴は「展示内容が成長しつづけること」とも。
「初日の8月11日にはオープニング記念として、展示室内でMCバトルを開催しました。アートをお題にしたバトルをしたり、美術館ならではのバトルをしました。この模様は後日、映像で展示されます。このように会期中、展示内容が追加される可能性があります。そういった部分もあわせて楽しんでいただけたらと思います」
会場内には、来館者へのアンケート結果を展示するコーナーも。
「今までの人生のなかでもっともヒップホップだった瞬間は?」など、パンチの効いた設問に思わず引き込まれてしまいます。
9月17日・18日には、90年代後半に代々木公園を中心として展開されていた伝説のイベント「HIPHOP最高会議」が「湖畔のHIPHOP最高会議」と題してラップ・ミュージアムの会場に復活予定。
一度ならず、何度も足をはこぶことでその都度「成長した」展示を楽しむことができそうです。
(天谷窓大)
「ラップ・ミュージアム」
主催:市原湖畔美術館(千葉県市原市不入75-1)
会期:2017年8月11日(祝)〜9月24日(日)
開館時間:平日10:00〜17:00、土曜・休前日9:30〜19:00、日曜・祝日9:30〜18:00
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
市原湖畔美術館「ラップ・ミュージアム」公式ページ
テレビ番組「フリースタイルダンジョン」のヒットもあり、最近巷で浸透しつつあるラップ。でも実際のところ、ラップってどんな音楽で、どのようにして楽しまれているんだろう……? そんなモヤモヤとした疑問を解き明かすように、文化としてのラップを体系的に解き明かしていく試みが行われています。
現役ラッパーの部屋、持ってきちゃいました!
エントランスをくぐって目の前に飛び込んでくるのは、人気ラッパー「サ上」ことサイプレス上野さんの自宅を再現した展示。
生活感あふれる和室のなかには大量のレコードや本、そしてリリック(歌詞)をしたためるデスク。
息つく暇もなく、ラップの世界に引き込まれます。
机のうえには、上野さんが実際に使用したリリックノート(作詞ノート)が。
一文字一文字とんがった筆跡が、書いたときの心象風景をほうふつとさせます。
ラップの「構造」をCGで説明
こちらはラップの音楽的な構造をインフォグラフィック風に解説する展示。
プレーヤーから流れるトラックにあわせ、リリックの文字が動いたりハイライトしたりします。
普段耳でなんとなく「気持ちいいなぁ」と聞いていたラップ。
でもそれを音楽として分析すると、とても精密に作られた「仕組み」であることに気づかされます。
文の頭とお尻の部分で韻を踏んでいくものもあれば、矢継ぎ早に飛び出した単語を、特徴的な音の言葉で「つないでいく」ものも。
世代やアーティストの作風によって、その「仕組み」もさまざま。
こんなに高度な技術が込められていたなんて…… 知的好奇心がムクムクします!
殴り書き、論文調…… ラッパーたちの「ノート」
今回のなかでもとくに印象的なのが、リリックノートの展示コーナーです。
リリックを書くとき、ラッパーたちはどんなことを考えているんだろう……
ここではスチャダラパーのAniさん、BOSEさんをはじめ、SHING02さん、TWIGYさん、K DUB SHINEさんなど著名ラッパーたちの頭のなかをのぞき見る体験ができます。
大学ノートにまるで論文のように整然と書かれたノートもあれば、紙の切れ端に思いをそのまま書きなぐったものも。
頭に浮かんだイメージをとにかく急いで書きとめたのか、言葉と同じくらいにイラストの落書きで埋められたものもあったり、それらを目で追っていくだけで、新たなラップが生まれる瞬間の衝動が感じられます。
暮らしのなかの「ラップカルチャー」を見る
展示フロアの地下に通じる階段を降りた先は「第2章」のゾーン。
日本語ラップ黎明期の80年代を筆頭に、暮らしのなかにあったラップカルチャーの片鱗を一挙に眺めることができます。
まだインターネットが普及していなかった当時、ラッパーたちが最新の音楽や自分たちの作品を流通させるために大きな役割を果たした「ミックステープ」の現物展示は、ラップに詳しくなくても感慨深くなること間違いなし。
ほかにも、バブル真っ盛りの時期に開催されていたラップやDJのコンテストの映像を見ることができたり……
ラッパーたちの著書を手に取って読めるエリアも。
そんななか、不意打ちで感動させられてしまう一角があります。
リリックのなかでよく耳にする「レペゼン」という言葉をテーマにした展示です。
「〇〇代表」という意味合いで使われることの多いこの言葉ですが、そこに込められているのは深い深い地元愛。川崎の町を題材に取られた情感あふれる写真には、おもわず目頭が熱くなってしまうこと間違いなし。
文化としてのラップが日本でどのようにして産声を上げ、育っていったかを知ることができる展示の数々。背景を学んだあとに聞くラップは、以前よりも味わい深く聞こえるかもしれません。
リピート来館が楽しい!「成長し続ける展示」の内容とは
「ラップとはいったいどういうものなのか、どんな文化を生んできたのか…… とにかくラップに関するあらゆることを展示=可視化したいと考え、荏開津広さん、ダースレイダーさん、磯部涼さんを中心に企画協力をしていただきました。ラップの様々な側面、そしてそれを生み、支えてきた人々の実践の一端を見ていただけたらと思います」
そう語るのは、この「ラップミュージアム」の企画者で、市原湖畔美術館学芸員の渡辺文菜さん。いつか美術館でラップを扱った展示をしたい、という念願を今回叶えることができたといいます。
今回の展示の大きな特徴は「展示内容が成長しつづけること」とも。
「初日の8月11日にはオープニング記念として、展示室内でMCバトルを開催しました。アートをお題にしたバトルをしたり、美術館ならではのバトルをしました。この模様は後日、映像で展示されます。このように会期中、展示内容が追加される可能性があります。そういった部分もあわせて楽しんでいただけたらと思います」
会場内には、来館者へのアンケート結果を展示するコーナーも。
「今までの人生のなかでもっともヒップホップだった瞬間は?」など、パンチの効いた設問に思わず引き込まれてしまいます。
9月17日・18日には、90年代後半に代々木公園を中心として展開されていた伝説のイベント「HIPHOP最高会議」が「湖畔のHIPHOP最高会議」と題してラップ・ミュージアムの会場に復活予定。
一度ならず、何度も足をはこぶことでその都度「成長した」展示を楽しむことができそうです。
(天谷窓大)
「ラップ・ミュージアム」
主催:市原湖畔美術館(千葉県市原市不入75-1)
会期:2017年8月11日(祝)〜9月24日(日)
開館時間:平日10:00〜17:00、土曜・休前日9:30〜19:00、日曜・祝日9:30〜18:00
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
市原湖畔美術館「ラップ・ミュージアム」公式ページ