19年11月末の完成を目指して工事が進む東京五輪メイン会場・新国立競技場

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 小池百合子氏が反・自民都連を打ち出し、鳴り物入りで都知事に就任したのは1年前のこと。五輪、築地問題で「決められない政治」と批判されれば「おっさん政治」と切り返し、離党、写真集発売と常に話題をふりまいてきた「小池劇場」だが課題は依然、山積み。迫る都議選を前に、国政にも影響大な「都民ファースト」の中身と行方を徹底検証する。第1弾は膨れ上がる東京五輪の運営費について──。

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 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは大会運営費のわかりにくさがつきまとう。’12年の招致段階では7340億円だったが、一時は3兆円にまで膨れ上がった。経費はどこまでかかるのか。

 都と組織委員会、国、都外で開催する競技施設がある関係自治体は、費用分担について5月31日、基本的な合意を結んだ。昨年12月の1兆8000億円(最大で予備費3000億円を含む)から1兆6850億円(同)とし、1150億円を削減した。

 五輪経費は、原則として組織委が支払い、不足分が都と国の負担となる仕組み。そのため組織委の収入が増えれば、都や国の税金を投入する額が減る。

 今後の課題は、さらなる経費圧縮と組織委の増収、国の負担をどこまでにするかだ。

 昨年12月時点で、組織委は5000億円の収入を見込んでいたが、5月の四者合意での見込み額は6000億円。試算どおりならば、都や国の税負担が1000億円分、少なくなる。

 都オリンピック・パラリンピック準備局では、「あくまでも現段階の試算。情勢の変化によって増減もあるが、今後も経費削減の方向になる」としている。

 もともと招致段階では「コンパクト五輪」を打ち出していた。狭いエリアで実施することで、選手たちが移動する距離を短くできるとの触れ込みだった。

 しかし、スポーツジャーナリストの小川勝さんによれば、

「コンパクト五輪にすると、狭いエリアにない施設をすべて都が建設することになり、公共投資がかかりすぎる。五輪が終わった後に、何に使うのか? ということになる。分散したことで公共投資は減りました」

 コンパクトといっても、費用がかからないという意味ではなかったのだ。

 小池百合子都知事は6月5日の都議会文教委員会で「経費を抑制するために透明化することを盛り込んだ」と答弁している。

 コンパクト五輪を放棄したために、五輪の大会経費も変わる。試算は年に1回ほど見直すが、年末にある次回の見直しに向けて、コスト管理を図るために四者の共同事業で「監理委員会」を設置。そのうえで、組織委は収入を明確化し、資金の流れを把握、整備を一元的に実施する。

 現段階で予算は当初の2倍以上だ。ただ、単純には比較できない。

「招致段階の予算は、国際オリンピック委員会(IOC)が示した項目に数値を入れていくもの。例えば、建築工事は本体工事だけを計上しており設計費は含まれていません」(準備局)

 また、工事原価も集合住宅(鉄筋コンクリート造)や事務所(鉄骨造)、体育館(鉄骨造)ともに上昇傾向で、建築費が増えた。

 人件費も上がった。公共工事での労務単価は、招致段階では1日8時間あたり約1万3000円だったが、昨年12月現在では約1万7000円に。

「運営費が増えたかどうか正当な比較ができるだけの、項目ごとの詳しい金額は公表されていないと思います」

 と小川さん。また、さらなる要素として、ドル・円相場の影響も大きい。

「招致段階と現段階では円相場が違う。’12年には1ドル80円台でしたが、現在は111円前後。建築資材は輸入に頼るため負担増はやむをえない。これについては招致委や組織委の責任ではありません」

どこからどこまで?曖昧な「五輪予算」

 そもそも東京五輪の運営費をどのように試算するのかは難しい。小川さんは、「東京五輪が開かれなければ、使うことがなかった予算」と定義する。

 バドミントンや近代5種の会場となる『武蔵野の森総合スポーツ施設』(調布市)は都が独自に整備する施設。五輪招致の決定前から多摩地域のスポーツ拠点施設として決まっていた。そのため厳密にいえば五輪関係予算ではないが、この建設費も関連予算に含まれている。

 昨年11月、IOCと都、国、組織委の四者でコスト削減が話し合われた。ボート・カヌー競技が行われる『海の森水上競技場』(江東区)、水泳が行われる『オリンピック・アクアティクスセンター』(江東区)、バレーボール会場として整備される『有明アリーナ』(江東区と大田区が帰属調停中)は新設することになったが、400億円の削減という試算が出された。

 一方、新国立競技場は、

’19年のラグビーW杯で使用するために改修の予定で、招致段階では予算に含まれていない。しかし、設計段階で議論が巻き起こったために、W杯開催には間に合わず“五輪のため”の施設となった。

 新国立競技場の建設費は1550億円程度。設計・監理費と解体費用を含めて1581億円。このうち半分は国の税金、残り半分は東京都と日本スポーツ振興センターで同額を負担する。つまり、国は約800億円、都は約400億円を税金から捻出することになる。舛添要一・前都知事のときに合意したもので、これを小池都知事も引き継いだ。

 四者合意では「恒久施設」は3450億円で、都と国の負担だ。うち、都の負担は2250億円。新設する3会場のほか新国立競技場の建設費用も含まれている。また「仮設、エネルギー、テクノロジー、賃借料」に4900億円の負担を試算しているが、仮設施設は設計段階のため、詳細は決まっていない。

「例えばセキュリティーのために監視カメラをつけるとします。これが恒久的なものとして使われるのか、仮設の整備になるのかは今後、調整します」(事務局)

 仮設は五輪が終われば撤去される前提だが、

「使ったものを捨てるのではなく他事業に使えないのか。そもそも、どういう仮設にするのか議論されていません」(小川さん)

 東京五輪は小池都知事の就任前から決まっていた。就任後に改善できる幅は狭い。また、復興五輪との名目もあるが、被災者のひとりは「被災地にはまったく還元されていない」と怒りを隠せない。

 経費削減では成果があがったとはいえ、都民・国民が納得する五輪のあり方とは何か、模索する必要がある。

取材・文/渋井哲也…ジャーナリスト。『長野日報』を経てフリー。自殺、いじめ、教育問題など若者の生きづらさを中心に取材。近著に『命を救えなかった─釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(三一書房)がある