左上から時計回りに、阿川佐和子、夏木マリ、加藤茶、小林幸子、モト冬樹、奈美悦子、布施明、桃井かおり

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《今後はできることなら、互いの健康を気遣いつつ、足腰が丈夫なうちにできるだけたくさん好きなゴルフをし、おいしいものを『おいしいね』と言い合い、くだらないことに笑い合って、ときどき言い争いつつ、穏やかに老後を過ごしていければ幸いかと存じます》

 エッセイストの阿川佐和子が63歳でめでたく結婚し《ようやく結婚いたしました》とコメントを発表してひと月あまり。結婚をあきらめたかと思われていた彼女を世間は祝福したが、芸能界では熟年婚をする人も少なくない。

 歌手の布施明も65歳のときに、当時50歳の森川由加里と結婚。本誌の直撃取材に《彼女は、いまは欠かせない女性です》と語っている。

「'07年から事実婚状態にあった夏木マリさんも64歳のとき、東日本大震災をきっかけに家族や夫婦の絆を改めて考え、2歳年上のパーカッショニスト・斎藤ノヴさんと結婚。“彼が先に出かけるときに、これで会えなくなるかもと思うから、必ず玄関まで送りにいく”と語っていました」(芸能レポーター)

 桃井かおりも64歳のときに55年来の幼なじみと結婚。

「10年ほど前に再会してから交際し始めたそう。中学1年生のときにロンドン留学していた桃井さんは旦那さんと出会っていて、お互いの初恋の人だったそうです」(前出・芸能レポーター)

 ほかにも、奈美悦子は56歳、小林幸子は58歳、モト冬樹は59歳、加藤茶は68歳で結婚を果たしている。この“熟年結婚”ブーム、実は芸能界だけでなく世間でも広く起こっているのだ。

年金受給は大きなポイント

 東京・銀座の結婚相談所『ブライダルゼルム』のアドバイザー・立花えりこさんによれば、シニアの婚活意欲は年々、高まっているという。

「平成5年にサービスを始めたときは、50代〜60代向けの婚活パーティーは月に1回程度でした。人数もそれなりだったので、当時は50代と60代も合同で行っていましたね。しかし、ここ最近はあまりにも反響が大きく、現在では月に10回程度のパーティーを行っています。年齢での区分けも行い、多くの方にパーティーへご参加いただいております。中でも、60代の方が多い印象ですね」(立花さん、以下同)

 今月からは、『シングル』『ペット大好き』『結婚前提』『死別』などと、年齢以外にも細かいカテゴライズをし、目的別に出会えるようにしている。

「パーティーだけでなく、お見合いのお手伝いもしておりますが、結婚相談所では2人に1人がご交際に至っていますね。シニアの方の婚活は3パターンあり、(1)すぐにでも入籍したい方、(2)交際を経て入籍したい方、(3)事実婚の関係を望む方がいらっしゃいますが、パーティーではそこまで深いお話を聞きにくいので、お見合いなさる方のほうがうまくいくことが多いのだと思います」

 中高年の結婚は、若いときの結婚と比べて育児や出産を念頭に置く人が少ないぶん、結婚のための“条件”も若年層とは異なるようだ。

「現実的な問題ですが、年金をちゃんと受給できるかどうかというのは大きなポイントですね。また、子育てなどがないぶん、2人の関係性が濃厚になりますから“我慢したくない”という感情は強い気がします。いっしょにいて、ラクに過ごせる相手を探している方は多いです」

山本由美子さんが指摘する「若い時の結婚と違うこと」

 実際に故・山本文郎アナウンサーが73歳のとき、43歳で熟年婚をした山本由美子さんに話を伺うと、立花さんが指摘したような結婚生活が見えてきた。

「仕事も二人三脚でやっていましたから、24時間ベッタリに近かったですね。どこへ行くにもいっしょだったんです。彼が同級生と食事に行くときでさえ、ついていってましたから(笑)。ずっといっしょにいられたのも、お互いに年をとって、時間的にも精神的にも余裕があったからだと思います」(由美子さん、以下同)

 由美子さんは20代のころに1度結婚しているが、そのときは前夫もまだ若く、許せないことも多かったという。

「子どもも小さかったので、家事や育児で忙しかったこともあり、余裕がなかったんですね。お互いにイヤな部分だけつっつき合うような状態になることもあって。気がついてもらえないことがあると、“うちのダンナって言わなきゃわかんないんだから!”と怒っていた気がします」

 手伝ってくれないと腹が立つし、手伝ってくれても腹が立った。初めての結婚生活で余裕がなく、どんなことも妥協できなかったからだ。

「“どうしてこんなたたみ方をするのかしら”“子どもを今お風呂に入れてほしいのに”とか、求めることも多かったですし、そういうふうに考える自分のこともイヤでした。山本との生活では、お互いに何をやってもらってもうれしかった。こう考えることができるようになったのも経験のおかげ。お互い“この時間に私はご飯を作ろう”とか“きっとこういう手伝いをしてほしいだろうな”などの空気を読む余裕があったんです」

 “しとなった”ふたりにはまったりとした時間が流れるが、若年層の夫婦よりも“最期”が近くに見えている。由美子さんも、「熟年婚=いかに最期を考えるか」だと当時を振り返る。

日常会話で“死”の話

「婚姻関係でなくては有事のときに病院での面会に立ち会えないのが日本です。結婚するときは、最期までいっしょにいるという覚悟がいりますね。私たちはしっかりした話し合いをしたのではなく、ふだんの会話の中でそういう話がありました。

 例えば、スケジュールの都合以外で仕事を断らない人でしたが、お葬式の司会だけは、“自分は葬式顔ではないから”と断っていたんです。“あなたは笑顔のない場所が嫌いだから、もしもの日が来たら、お葬式ではなくて引退式をしてあげる。そのかわり生涯現役で仕事をしたご褒美だから、身体を大切にね!”と話しかけたりとか」

 どうやって死んでいくか。そんな議題が日常会話の中でサラリと語られるのだ。

「どちらかが寝たきりになるかもしれませんし、身体に何かあるかもしれない、介護が必要になるかもしれない、死に水を取ることになるかもしれない……。そういったリスクは若い人よりも高いので、結婚するためにはそれなりの“覚悟”が必要になりますよね。

 若い人同士だったら“一生いっしょにいようね”というところが、“最期までいっしょにいてね”“看取ってね”という話にもなります」

 籍を入れてからは刻一刻と別離へのカウントダウンが始まるということだが、そんななかでも「つまらない日なんて、1日もなかった」と由美子さんは胸を張る。

「いっしょに過ごせる時間が少ないからこそ、その日々を楽しく過ごしたいですよね。健康を保ってもらえるように食事に気を遣ったり、お互いに“この世でスーツがいちばん似合うよね”“由美子の作った料理が世界一だよ”って口に出したり。そんな幸せな日々を最期までいっしょに過ごせた私は、とっても幸せ者だと思います」

 “おしとね婚”とは、覚悟のうえに成り立つ最高の幸せなのかもしれない──。