「ひよっこ」13話。視聴率は気にするな、とにかく前に進めー

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連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第3週「明日に向かって走れ!」第13回 4月17日(月)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:黒崎博 視聴率:18.3%(ビデオリサーチ社調べ 関東地区)前日比↓ 


13話はこんな話


美代子(木村佳乃)はみね子(有村架純)に本当のこと(父の失踪)を話す。

私がもっと大人だったら一緒にいってあげられたのに


お父さん(沢村一樹)が心配でどよーんとしてしまう週はじまりで、視聴率が心配だが、話を聞いてくれる人がまわりにいるので、救われる。これは、ぱぱっとネタを消費するのではなく、じっくり観るドラマだと思う。

美代子「嘘ついてひどいお母ちゃんだね」
みね子「そんなことないよ」

理由はあれど、嘘をついたことをちゃんと謝罪する美代子。

みね子「お母ちゃん、ひとりで行ったの、東京?
こわかった?
ひとりでこわかったんでしょ。
心細かったんでねえの。
私がもっと大人だったら一緒にいってあげられたのに」

お母さんの気持ちを理解し、思いやる美代子。

嘘は基本的によくないことを前提にしていて、なんでも話し、思いやり合える家族っていいなあ。

明る過ぎだ 不自然だわ


「気持ちのいい朝だね」と妙にハイテンションで登校するみね子の異変に、友人の時子(佐久間由衣)と三男(泉澤祐希)はすぐ気づき、話を聞いてくれる。
「明るくてしてないとさ、してないとさ、おかしくなりそうだから」というみね子に、
「ずっと黙ってることなんかできないんだから」とツッコむ。
 基本、嘘のつけない人たちなんですね、谷田部家。

聖火リレーやってる場合じゃないんじゃないかと思いつつ、「泣くのはいやだ笑っちゃおう 進めー」の
井上ひさし(ひょっこりひょうたん島の脚本家)イズムで、聖火リレーを前向きに利用していこうと考える3人。新聞やテレビに宣伝して、紹介してもらえたら、お父さんがどこかで観るかもしれないし、女優志望の時子を誰かが気にしてくれるかもしれないと夢は膨らむ。

泣くのはいやだ わらっちゃおう精神


岡田惠和は、決めセリフは書かないと言っていたが、代わりに井上ひさしの傑作歌詞「泣くのはいやだ 笑っちゃおう 進めー」が繰り返し出てくる。この歌詞はこのドラマの通奏低音になりそうだ。
そして、この歌詞に込められた精神は、井上ひさしの逆説的な人生観の最たるもので、笑いとは何かを端的に示した重要なものだ。
井上ひさしの有名なモットーは「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに」で、誰もが見て楽しめる、庶民のためのお芝居をたくさん書いてきた。例えば、宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘を止めさせることで反戦の祈りを書いた「ムサシ」は藤原竜也と小栗旬のW 主演で2009年に初演され、以後キャストを一部替えて何度も再演されている。
戦争と平和に関するお話をたくさん書いた井上が亡くなったのは2010年(遺作は、小林多喜二のことを書いた『組曲虐殺』)。きっと、もっといっぱい書きたかったと思いながら亡くなっただろうし、彼が東日本大震災を体験していたら、どんな作品を書いただろうとも思う。でも彼の社会への視点や表現方法はまだまだ有効だし、むしろ今こそ必要だと感じるので、昭和のドラマを描くにあたり、井上ひさしの代表作「ひょっこりひょうたん島」をクロースアップしてきたのは、すばらしいセンスだと思う。井上ひさしを継ぐのは、演劇とテレビを両方やっていて、喜劇作家として極めて大衆的であることなどから三谷幸喜か宮藤官九郎かと思っていたが、そもそも井上ひさしってどういう作家だ? と思う人もいるなかで、岡田惠和がきちんと引用したことで、歴史が繋がった。
過去の記憶をつなぎながら、未来へ進めー。
(木俣冬)