MIT流、「スマートホーム」時代のスマホのバッテリーを長持ちさせるアプローチ

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普及しつつあるホームアシスタントに必須となる「音声認識」は、クラウド上で大きな電力を消費して行われるのが一般的だ。MITは、ローカルかつ低消費電力なヴォイスコントロールを実現するチップを開発。果たしてそのチップは、これからのIoTデヴァイスにどんな影響をもたらすのか?

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バッテリーの寿命を最大化することは、すべてのスマートフォンメーカーにとって大きな課題となっている。人々はこのごろ、スマートフォンを何にでも使う。そしてもちろん、皆、永遠に充電が切れないようなバッテリーをほしがっている。エンジニアたちは、かさばり、危険性も高いリチウムイオン電池を内蔵する以外にも、この問題に取り組むための方法をもっている。最も効果的なやり方は、チップやドライヴァー、その他の部品のエネルギー効率をできるだけよくすることである。

手をつけるべき対象としては、大きなスクリーン、4Gモデム、Bluetoothなどが含まれる。しかし研究者たちは、声を発するだけで指示ができる「ヴォイスアシスタント」にも注目している。ヴォイスアシスタントは通常多くの電力を消費するものだが、マサチューセッツ工科大学(MIT)のマイクロシステム技術研究所の研究者たちは、その電力消費をもっと効率化する方法を見つけたのである。

100分の1の電力消費

AlexaやSiri、Google Assistantは、音声による命令を処理するためにクラウドを用いている。だが、巧みな工夫が施されたMITのチップは、それ自体が音声処理を行い、ほかの部品への負担を軽くする。さらに、電力消費を減らすこともできるのだ。

「こうしたハードウェアによるアクセラレーターは、装置をよりシンプルにしたり、コストを下げたりするのにも便利なのです」と、新しいチップを設計したマイケル・プライスは言う。「もしメインプロセッサーが複雑な処理から解放されれば、そのプロセッサーはそこまで速い処理能力をもつ必要がなくなるでしょう」

このことは、製造業者がより安くプロセッサーを使えるようになることを意味する。安いことはいいことだが、効率が上がるのはもっといいことだ。プライスは、ヴォイスアシスタントを動かすのに必要な電力量を根本的に減らすことに着手した。

プライスいわく、スマートフォンは一般的に、1回の音声認識クエリを動かすのに1ワットの電力を必要とするという。だが彼のチームが開発したシステムは、少なくともその約100分の1の電力で動く。いくつかの基本的な音声処理は、たった0.2ミリワットで行うことができる。1ワットを基準とすると、5,000倍も効率的だといえる。

スモール・グッド・シング

電力消費を減らす試みは、チップの音声認識能力を向上させることから始まる。ウェブに接続して音声データをサーヴァーに流すのではなく、プロセッサーはネットワークに接続せず、音声の内容をテキストに変換する。それらのクエリをテキストファイルとして処理すれば、はるかに消費電力は少なくなる。

また、このシステムは音声を検知する際にも効果的だ。通常はチップ内の低電力な回路に周囲の環境音を監視させておき、そこに音声が割り込んできたことを検知して初めて、命令が発せられたと認識して主要システムを“発動”させる。

たくさんの電力がいらないということは、小さなバッテリーを内蔵した小さなIoTデヴァイスが普及するなかで、それらの機器にもヴォイスコントロール機能を装備できるようになることを意味する。MITが開発したチップはバッテリーで電力を供給するデヴァイス用だが、似たような部品がAmazon EchoやGoogle Homeのような、コンセント式の装置にも影響を与えるかもしれない。

「家庭で使うデヴァイスが、ネットワークに接続しないまま音声認識を行うようになったとき、処理速度がボトルネックになる可能性もあります。そんなとき、わたしたちのテクノロジーが役に立つかもしれません」とプライスは言う。

ローカルであることが解決したもうひとつの課題

Amazon EchoやGoogle Homeで記録された音声は、処理されたあとも、それぞれの会社のサーヴァーに残されている。(MITのチップによって)デヴァイス上での処理が多くなるということは、クラウドに貯め込まれる個人データが少なくなることを意味する。音声をサーヴァーに送る前にデヴァイス上でテキストに変換することで、発声者の年齢やアクセント、性別、背景のノイズなどの情報を取り除くことになるとプライスは言う。

「もちろん、プライヴァシーをどこまで考慮するかは、システムの設計者次第です」と、プライスは言う。「たとえ音声認識がネットワークを介さずに行われるとしても、それによってデヴァイス上の音声が保存・転送されなくなるわけではありません」。その通りである。しかし音声によるコマンドをもっと効率的に、もっと信頼できるものにするテクノロジーは、何であれありがたいものなのだ。

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