日本の「ホーム」がシンガポール? 世界一過酷なスーパーラグビーの真相とは
最近『スーパーラグビー』や『サンウルブズ』をテレビのスポーツニュースで目にしたことはないでしょうか?2016年に、多くのラグビーファンが「まさかこんな日が来るなんて!」と感激するできごとが実現していました。
南半球最高峰のリーグ
日出ずる国日本を象徴し、日本の新しいチームが燃え上がる太陽のように熱いパッションを持って新しい挑戦に立ち向かっていく力強さを表す「SUN」。仲間を守り、群れで統率をとり、組織力で獲物を捕らえるなど団結力に秀でているといわれる「WOLVES」。このふたつの単語を組み合わせて名付けられましたのが「SUNWOLVES」(サンウルブズ)です。
そのサンウルブズが参戦する「スーパーラグビー」は、ラグビーW杯で優勝経験のある南半球のラグビー王国、ニュージーランド(NZ)、オーストラリア、南アフリカから複数のプロクラブが参加して行われる南半球最高峰リーグです。2016年度より日本のサンウルブズとアルゼンチンのジャガーズが新規参入を果たし全18チーム、4大陸、5ヵ国からなる国際リーグへと拡大しました。スーパーラグビーのシーズンは2月〜8月。イングランドなどの欧州リーグとも同時期(9月〜5月)に行われるためシーズンが重なってしまいますが、8月〜1月で行われる日本国内最高峰のトップリーグ(TL)とはシーズンが重なりません。南アフリカやオーストラリアなど南半球のチームも同様です。そのため、TLの選手は日程的にTLの所属チームを退団することなく、スーパーラグビーでもプレーすることが可能となっています。
TLに所属する日本人選手の多くがプロではなく、仕事とラグビー活動を両立する社会人選手であるため、各所属企業のスーパーラグビー参加への理解も当然必要です。
サンウルブズのスーパーラグビー参戦をサッカーにたとえると、イングランドのプレミアリーグといった単独リーグではなく、各国のトップチームがしのぎを削る欧州チャンピオンズリーグに参戦するようなものです。初年度よりサンウルブズに参加している大野均選手も「スーパーラグビーは初めて見たときは、日本人がやるスポーツじゃない。自分たちがやっているラグビーは別のスポーツなんて思ったくらい。そこに日本人が参加して、まさか自分が参戦できるなんて思ってもいませんでした」と話してくれた通り、日本人には遠い存在のリーグでした。
ところが、2013年にTLではともにパナソニック・ワイルドナイツに所属する田中史朗選手(NZ・ハイランダーズ)、堀江翔太選手(豪・レベルズ)がスーパーラグビーに参戦するチームに入団すると、見事デビューを飾ります。日本人でもスーパーラグビーに通用することを証明してくれた彼らの功績は非常に大きいものです。2019年にはラグビーW杯がこの日本で開催されます。そこで日本代表が好成績を残すためにサンウルブズが結成され、2016年よりスーパーラグビーに参入することになりました。
世界ランクとは別に存在するもう1つの指標
日本代表の強化には強豪国とのテストマッチ(国際試合)が重要です。毎年6月と11月が南半球と北半球の国同士が交流を行う『ウィンドウマンス』と呼ばれ、唯一テストマッチを行うことができる期間ですが、ラグビー界には勝敗によって変動するいわゆる世界ランキングとは別に、英語で「階層」や「段」を意味する「tier(ティア)」が存在します。ティア1は強豪10ヵ国、日本が所属するティア2は中堅13ヵ国で構成されています。階級分けは歴史的な背景なども反映されているため、日本が世界ランキング10位以内に入っても、ティア1へは簡単に昇格することはできません。この階級分けが厄介なもので、世界のラグビーを統括する「ワールドラグビー」によって、異なる階級の国とのテストマッチを容易には認めてもらえず、日本代表がティア1の強豪国と強化試合をなかなか組むことができないことも課題でした。
そんな中、スーパーラグビーに参戦すれば毎週世界の強豪チームと戦うことができるのです。間違いなく選手たちのレベルはあがり、日本代表の強化にも繋がります。日本代表を強化する意味でも、サンウルブズ、スーパーラグビーが持つ役割は大きいことがお分かりいただけるでしょう。
2016年度は日本代表強化のためと言いながらも、サンウルブズが代表の試合よりも優先されるなど、連携がうまく取れていたとは思えない部分もありました。ですが、2017年度は昨季アシスタントコーチを務めたフィロ・ティアティアがHCを務め、昨年日本代表のHCに就任したジェイミー・ジョセフと密な連携を取ります。海外生まれの選手がラグビーの日本代表になるには、日本に3年以上継続して住み、他の国の代表になったことがない場合です。必ずしも日本国籍を取得しなくても良いのです。基本的にサンウルブズに選ばれている海外生まれの選手は、日本代表資格を持っています。
フィロ・ティアティアHC
2シーズン目となる今季は公式マスコット「ウルビー」も誕生。2月25日に秩父宮で行われた開幕戦では、記念撮影をしようと、ウルビーの周りに多くのファンの姿がありました。ウルビーという名の語源は“ウルフ+ビクトリー”と“ウルフ+ラグビー”です。
日本の“ホーム”がシンガポール!?
日本代表強化のため、日本国内でのラグビー人気向上のためにも日本チームがスーパーラグビーに参入することは実現させなければいけませんでした。しかし、日本チームが参入することで、遠く離れた直行便もない南アのチームは、丸一日かけての日本遠征を行わなければならなくなるため、日本チームの参入には難色を示していました。そこで、南アの地理的負担を軽減させるため、日本ホーム試合の何試合かを中間地点のシンガポールで行うことで、サンウルブズのスーパーラグビーの参入が決定したのです。シンガポールはもともとスーパーラグビー参入に名乗りを上げており、新規参入最後の1枠を日本と競い合った経緯があります。サンウルブズがシンガポールで試合を行うことはアジアでのラグビー普及の点でも重要な役割を担っています。
サンウルブズの2017シーズンの試合日程を紹介すると
第1節 2月25日サンウルブズ-ハリケーンズ(東京・秩父宮)
第2節 3月4日サンウルブズ-キングズ(シンガポール)
第3節 3月12日チーターズ-サンウルブズ(南ア・ブルームフォンテイン)
第4節 3月18日ブルズ-サンウルブズ(南ア・プレトリア)
第5節 3月25日サンウルブズ-ストーマーズ(シンガポール)
第6節 休み
第7節 4月8日サンウルブズ-ブルズ(東京・秩父宮)
第8節 4月14日クルセイダーズ-サンウルブズ(NZ・クライストチャーチ)
第9節 4月21日ハイランダーズ-サンウルブズ(NZ・インバーカーギル)
第10節 4月29日チーフス-サンウルブズ(NZ・ハミルトン)
第11節 5月7日ジャガーズ-サンウルブズ(アルゼンチン・ブエノスアイレス)
第12節 休み
第13節 5月20日 サンウルブズ-シャークス(シンガポール)
第14節 5月27日 サンウルブズ-チーターズ(東京・秩父宮)
第15節 7月2日 ライオンズ-サンウルブズ(南ア・ヨハネスブルグ)
第16節 7月9日 ストーマーズ-サンウルブズ(南ア・ケープタウン)
第17節 7月15日 サンウルブズ-ブルーズ(東京・秩父宮)
東京の秩父宮で戦うのは全15試合中、昨季より1試合少ない4試合のみ。シンガポールで3試合、南アフリカで4試合、NZで3試合、アルゼンチンで1試合と、唯一の北半球チームであるサンウルブズには10万キロ超えともいわれる過酷な移動距離が課せられています。移動距離だけでも過酷ですが、シンガポールは赤道に近く、年間を通して高温多湿。南アのブルームフォンテインは標高1400メートル、ヨハネスブルグは1753メートルと高地での戦い。宿泊先の環境や食事面でも苦労するなど、ピッチ外での課題も少なくありません。
第14節と第15節の間は1か月ほど空きますが、6月はテストマッチが行われます。日本代表も次の3試合を行うことが発表されています。
6月10日 日本-ルーマニア(熊本)
6月17日 日本-アイルランド(静岡エコパ)
6月24日 日本-アイルランド(東京・味の素)
ジョセフ日本代表HCは日本代表選手の選考について、サンウルブズのメンバーを優先して選ぶとの方針を示しており、6月の代表戦にもサンウルブズの選手が多数出場することになります。
日本国内のトップリーグ、スーパーラグビー、日本代表とトップ選手たちは年間を通じて休みなく、試合に出場することになりました。2019年W杯日本大会までに選手がパンクしてしまわないよう、出場試合数をしっかり調整することも重要な課題となります。
そんな過酷なリーグですが、秩父宮でもシンガポールでも、試合中にオオカミの遠吠えを真似ての応援スタイルもすっかり定着し、オオカミの耳や被り物をするファンの姿も増えました。今までの国内リーグ戦とは異なるスタジアム内の雰囲気はラグビー初心者にもオススメです。