大阪ガス投手陣の育成メソッド「大会でベストピッチングができるための調整法とトレーニング」(2)

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 全3回でお届けしている大阪ガスの「投手陣の育成メソッド」。第1回では、大会前の追い込み式練習法などを紹介していただきました。投手は走ることが基本といわれていますが、ただ数をこなすことだけに満足していませんか?第2回では、限られた時間で実践する効率の良いランニングメソッド、投手にとっては向き合っていかなければならないウエイトトレーニングの考え方などに迫ります。

大阪ガス流・ランニングメソッド

ブルペン投球を行う青木 貴之投手(大阪ガス)

 ランニングメニューに関しては時期によって重視する内容が異なってきます。シーズンが終わった前年の11月から1月にかけては100メートル、200メートル、400メートルの3種類の距離をミックスするメニューを徹底的に行います。トータル距離にすると一日当たり3キロから5キロ。この距離を全力で走るとかなり負荷がかかるため、筋肉の発達を促すことができる。車でいえば、エンジンの排気量を上げていくイメージです。

 ただしこの高負荷メニューは、毎日行うと筋肉の回復が不十分となり、発達をかえって妨げてしまうので、3日行ったら、必ず4日目は休むといったように、きちんと休養を入れながらメリハリをつけることが大切です。

 シーズンに入った3月以降は、1本あたりの距離を短くしたランニングメニューに移行していきます。具体的には20メートル、30メートル、50メートルという短い距離を中心にし、最長で100メートルまでにおさえる。大きくなったエンジンの回転数を上げていくイメージでスピードと体のキレを高めていきます。

投手に必要な持久力は長距離走ではつきにくい

 うちのチームでは10キロ、20キロといった長距離を走るメニューはありませんが、12分間走は年間を通して、ほぼ毎日、行っています。基本的なやり方は3分ジョギングした後、1分間ペースを上げる。これを3回繰り返すとちょうど12分となり、距離換算で約3キロを走ることになります。12分間走は冬場でもしっかりと汗をかくことができますし、溜まった乳酸の排出など、体をほぐす効果もある。故障予防にも大変有効です。

 冬場には距離換算で5キロほどを走る20分間走をメニューに入れますが、12分間走よりも負荷が高く、疲れが残りやすくなるため、シーズン中はやりません。ただし、まだ社会人の身体が出来上がっていない若い選手は例外で、彼らは1年を通し、20分間走も随時メニューに入れていきます。

「ピッチャーは持久力も必要なポジション。長距離走は必要では?」と思われる方もおられるかもしれませんが、走ることで投手に必要な持久力をつけることを求めるのなら、100〜400メートルの距離を1、2分程度の短いインターバルを挟みながら、10本、20本といった本数を全力で走る方が有効です。

 最初のうちは1本目と10本目のタイムに大きな差が生じるのですが、トレーニングを重ねるうち、筋肉の回復力が高まり、次第にタイムの差がなくなっていく。こういう変化がタイムに表れ始めると、長いイニングを投げても球威が落ちにくくなるのですが、この要素こそが投手に求められる持久力。ポイントは心肺機能を高めることではなく、筋肉の回復力を高めることだと思っています。

[page_break:大阪ガス流・投げ込みメソッド / 大阪ガス流・ウエイトトレーニングメソッド]大阪ガス流・投げ込みメソッド

ブルペンで投球する猿渡 眞之投手(大阪ガス)

 うちのチームは1日に100球以上投げる日を集中的に作る「投げ込み期」を1年の中で5回設けています。行う時期はキャンプを実施する1月と2月、シーズンが始まった直後の4月前半、都市対抗と日本選手権の間の9月中旬、冬季練習に入った直後の11月です。投げ込み期間が6日間の場合、全力で100球以上投げる日を3日、150球以上投げる日を2日設けるのが基本的な数値設定です。

 投げ込みの最大の目的は、投球動作を行う際に使う筋肉に負荷をかけ、張りを与えること。投球動作時に使う筋肉に刺激を与えるためには、ピッチング動作を集中的に繰り返すことが最も効率がよく、効果が高いという考えに基づき、行っています。

 ただし、まだ体が出来上がっていない高校生に関しては積極的に薦めません。成長期ゆえ、骨が発達途上の選手も多いでしょうし、投げ込みに耐えうる体力が不足している可能性も高い。ピッチングフォームが悪ければ投げ込むことが故障を誘発する可能性だってある。あくまでも大阪ガスの調整メソッドのひとつとして参考程度に認識していただけたらと思います。

大阪ガス流・ウエイトトレーニングメソッド

 ウエイトトレーニングに関しては専門家の指導の下、高卒3年目、大卒2年目以内の選手は強制的に週2回行わせています。20歳前後の成長途上の時期にいかに筋繊維を太くしていけるか。これはその後の成長率にも関わってくる重要なポイントだと考えているため、若い選手に関しては試合のスケジュールはあまり気にせず、体を強く、大きくしていくためのトレーニングを年間通じ、優先しています。それ以外の選手に関しては、毎週金曜日のみ、ウエイトトレーニングのメニューを組み込んでいます。

 ウエイトトレーニングで鍛える必須箇所は、投手陣に関しては下半身のみで、上半身に関するメニューは入れていません。最大の理由は故障のリスクを避けたいからです。ウェイト器具を使って上半身を鍛えることが投手にとってマイナスとは思わないのですが、ウエイトトレーニングでヒジや手首を痛めるケースがありうるため、ケガのリスクとトレーニングの効果を照らし合わせた結果、必須項目からは外そうという結論に至りました。

 ただし、ウエイトトレーニングの日は階段の上り下りが困難になるほどに下半身を徹底的に追い込んでいきます。そのためウエイトトレーニングは必ず一日の練習メニューの最後に組み込むようにしています。

 続いて第3回では、大阪ガスが行っている縄跳びや、また主力投手からへ高校球児へメッセージをいただきました。

(取材・文/服部 健太郎)

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