「呪いのシャ・ナ・ナ・ナ」貞子と伽椰子の配分は? デーモン閣下をブルボン小林がマニアック攻め

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前回(第1回)は、タイアップの話から、タイトなスケジュールで新曲を手がけた逸話を聞くことができたが、再びタイアップについての話を掘り下げようと思う。だが、イベント開始時間までわずかだ!


2つの印象的なキャラクターのある主人公の特徴を



──タイアップということも、たとえば落語の三題噺を頼まれたみたいに「だったら楽しんでやれ」みたいな意識もあるんじゃないでしょうか。閣下の中に。

閣下 まあそうだろうね。折角やる以上は。どのくらいの時間を使えるのかにもよるんだけれども、時間の許す限り、タイアップしてるものと作り出すもの、なるべく交わる点が多いほうが面白いかなと。

──ですよね。それに、さっきの仮面ライダーのことにしても、たとえば初代ライダーが好きだとか、平成ライダーの最初がどうのとか、ライダーを好きな人って皆ライダーのことしか言わない。原作者が石ノ森章太郎だってことを踏まえた人が……いや閣下は人ではないですが。

閣下 (笑)

──本当の正しいリスペクトですよ。そういった感じは『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』(正式には半角表記)にも色濃く出てると思ったんですよ。

閣下 そんなに色濃く出てますかね。

──まず、伽椰子、貞子(映画『貞子vs伽椰子』)という2つの印象的なキャラクターのある主人公の特徴を、1番と2番に律儀にあてがってる。1番では屋根裏と階段、2番では呪いのビデオにワンピース。「二日後に死ぬ」という設定も活かして。そして、それこそ怖いばかりではないと仰った通りで、今回の映画はちょっとお祭り感があるわけです。「vs」というのが、いわゆるゴジラ対ガメラみたいなね……まあ、ゴジラ対ガメラは実現してませんが(ここで閣下、ゆっくり首を縦に振る)。ちょっと映画的にも祝祭感があるというか、祭だぞみたいな。



閣下 (本編も)その通りになってたよ。

──曲を作った時点で、本編はまだ編集段階だったということは、これまでの貞子の映画などを事前にまあご覧になって、こんな感じかなと?

閣下 「こんな感じかな」(笑) まあ、リクエストがね、そんなにおどろおどろしい曲ではなくて、最後にぎやかにスピーディーな曲で終わってほしいっていう監督からのリクエストだったんで、監督及び制作か。

──意向というのは監督からもあったんですね。
(補足・これは筆者がある映画監督から聞いた話で、レコード会社が映画のエンディングの「枠を買う」形で曲が入ることが多いから、最近は監督でさえ自分の映画の主題歌を自由に選べない状態が多々ある。選べる場合もあるが、監督の前作が売れたとか、勢いがあるときだけだ、と)。

閣下 もちろん。今までのタイアップも、いろいろなパターンがあってね。だいたいどういう理由か分かんないけど、映画のタイアップって映画がほとんど撮り終わって、一番最後の最後になってエンディングテーマをお願いしますってパターンが、今まですべてそうで。

──(映画『陽炎』の主題歌)『赤い玉の伝説』(魔暦前8(‘91)年リリース)とかは?

閣下 あれなんかは、やっぱり同じような状況で、且つ時間がなかったので。実を隠そう、すでにある持ち曲の中からこれを当てはめてみて。歌詞がちょっとそれにハマるものにしようという作業だった。

──でも、あれも(映画本編に)ハマってますよね。
(補足・>「聖飢魔IIはいい加減なタイアップをしてこなかった」参照)

閣下 まあね。

──それで、結果として『赤い玉の伝説』なんていうモチーフが、日本の歌謡界に生まれたのがすごい。Jポップとかヒット曲の世界で、赤玉伝説のことなんて誰も歌わないじゃないですか。
(補足・筆者が北海道にいたころ、ラジオのランキング番組でアナウンサーが「次は今週の第*位、聖飢魔IIで赤い玉の……赤い玉の?……伝説?です」と狼狽して二度見ならぬ二度読みしたことを強く覚えている)。

閣下 (笑)

より聖飢魔IIらしい感じに


──タイアップへの律儀さがすごい表現を生むということでいうと『THUNDER STORM』という曲がありますね。

閣下 はい? すごいとこ来るね。双羽黒(笑)。

──もとは北尾光司がプロレスラーになったときの入場曲で、これはインストだったんですか?
(補足・元横綱双羽黒は所属部屋で暴行事件を起こし廃業。1990年に新日本プロレスでレスラーデビュー。閣下作曲『超闘王のテーマ』はシングルもリリース。『THUNDER STORM』は同年の聖飢魔IIの大教典(アルバムのようなもの)『有害』に収録)

閣下 インスト。最初は。

──いかにもプロレスラーの入場としても盛り上がりそうなギターがイントロで。それに後に歌詞をつけて『THUNDER STORM』という曲にされた?

閣下 まあ簡単に言うとそうだけど。一番最初のはギターサウンドももちろん入ってたけどもっとキーボードが多用されていた曲だったね。北尾光司の入場のときは。聖飢魔IIでちゃんと大教典に入れるときには、より聖飢魔IIらしい感じにした。

──それが、プロレスラー的なかっこよさがある曲なんだけども、歌詞に、めちゃくちゃ北尾が織り込んである。北尾が立浪親方の奥さんを蹴ったことまで入ってる(一同笑)。

閣下 「立つ波蹴散らして」だね(笑)。

──その通りだとは言ってない。普通に聴けば、ただのかっこいいロック音楽だけど。「南へ翔く雷鳥」つまり北に尾を向けてる、だから北尾だと。そんなの、どう思いつくんですか?

閣下 はっきり言っちゃったら面白くないじゃない。

──そうですね。

閣下 結構日本の伝統文化でもそういうこと言うの多いよね。あんまりズバっとそのもののこと言うのではなく、回りくどく。頭は西向きゃ尾は東みたいな状態でしょ? いまの話は。

──婉曲的に。気づく人だけ気づいてねっていう。全編が英語なんだけど日本語にも聞こえる曲とかも何種類か聖飢魔IIにはあって、リスナーは突然気づくんですよね。

閣下 『不思議な第三惑星』とか。
(補足・『不思議な第三惑星』は魔暦前11(’88)年の大教典『THE OUTER MISSION』収録。「不思議な=Who's singing now?」だけでなく全編が日本語にも英語にも聞こえる怪作)

──とか、他にもあるんですよ。あれは当時のティーンエイジは「自分で気づけた喜び」みたいなのがあって。


閣下 当時(ブルボンさんは)ティーンエイジ?

──高校生のときですね。そういうこともあるし、閣下の歌詞は、言葉に対する捉まえ方が常に独特ですよね。ドイツ語と日本語と英語と般若心経を混ぜこぜにしたり。あと急に名古屋訛になる曲とか。

閣下 名古屋訛なんて出てくる?

──『GUNS 'N’ BUTTER』という曲で。突然「どうやっても駄目じゃしょうがにゃあな」って。

閣下 あー! 別に名古屋弁ていうつもりはなかったけどね。(笑)
(補足・『GUNS 'N’ BUTTER』魔暦前5(’94)年の大教典『PONK!!』収録。題名からして不可思議な曲)

──でも、自由だなと思うんですよ。歌詞じゃなくても、ツェッペリンの『天国への階段』風のイントロから不意に『さくらさくら』に移る曲とか、谷村新司の『昴』を超高速で歌いきるとか、すごいですよね。
(補足・ここでいう「高速で歌いきる」というのは「曲のテンポが速い」という意味ではない。「AメロBメロのうちに早口で詰め込んで、サビの部分まで歌いきってしまう」という意味。この不思議なカバーは魔暦前4(’95)年のソロアルバム「DEMON AS BADMAN」収録。最近、復刻もされた迷盤にして名盤)。

閣下 (笑)マニアックだ、はい。(笑)

──高校時代に一番ショックだったのが、作詞『よみ人知らず』。

閣下 (爆笑)

──『IN MY ROOM』って洋楽に乗せて「祇園精舎の鐘の声」って平家物語を朗々と歌う曲があって、歌詞カードをみたら「作詞:詠み人知らず」って。

一同:(笑)

閣下 (笑) で、「作曲:The Walker Brothers」、何だそれ!(笑)
(補足・『IN MY ROOM祇園精舎』魔暦前9(’90)年のソロアルバム『好色萬声男』収録。実際の歌詞カード上の表記は「作詞:「平家物語」より読み人知らず、JOAQUIN PRIETO・PAUL VANCE・LEE TOCKRISS 編詩:小暮伝衛門 作曲:JOAQUIN PRIETO・PAUL VANCE・LEE TOCKRISS」)。

──だから、むちゃくちゃなアイディアの繋げ方ですよ。

閣下 そうね、そういわれてみればね。

──英語も、閣下の歌詞の語彙は不思議だと思ってて。Jポップでもヒット曲ってサビが英語になるじゃないですか。矢沢永吉が「君はファンキーモンキーベイビー」って歌ってから、歌謡曲の中に英語っていうものが自然と入るようになった。

閣下 そうね。

──でも、デーモン閣下の詩作の中の英語っていうのは、ご本人……ではなくご本魔が英語がご堪能であることは有名ですが、いわゆるJポップで耳馴染んだ英語ではない。単語レベルでも、ユアコンシャスネスって連呼する曲とかありますよね。

閣下 Your consciousness、「君の自意識」ね。

──いわゆるJポップみたいな場所で、CDでリリースされるような、ティーンエイジが聞くような曲には出てこない語彙ですよ。STREAKとかToungue-tied(舌足らず)とか、使われないです。他にも例えば「BIG GREED,HARD CREED,SPILL YOUR SEED!」とか……

閣下 何だっけ、その曲。

──これは『WINNING GATE』っていう……

閣下 アーッ、マニアック! すっごいマニアックだね! (笑)
(補足・聖飢魔IIの魔暦前3(’96)年小教典『野獣』のカップリング曲で、いまも極悪集大成盤などに未収録だからか、妙に閣下にウケてしまった)。

──これ、どういう意味なんです?

閣下 (まだ選曲のマニアックぶりに呆れ笑いが続く閣下)

──語呂はすごく良い英単語の並びなんだけど、やっぱり独特です。こうしたら耳障りがいいとかだけじゃない、不思議な頭の使い方をされてると思うんですが。

閣下「大望、不屈の信条、お前の『種』を放出せよ!」だね。それで韻を踏んで。日本語の歌詞を書くときも英語の歌詞を書く時も、基本的な姿勢は一緒で、ありきたりな単語に終始しないとか、あとメロディーがあるところに言葉が乗ってるわけだから耳触りがいいことも大事、韻を踏むことによる耳触りもあるし。

──そうですよね。今回の小教典『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』と両A面のもう一つの曲『GOBLIN'S SCALE』これも題名からして独特な語の選びで……(ここで「そろそろイベントです」と会場スタッフから声が)

閣下 (イベント後に)続きをやりますか。

──(やった!)いいでしょうか? お疲れでなければイベントの後。

その3に続く!
(ブルボン小林)

聖飢魔II オフィシャルWEBサイト