沼地から発掘される数千年前のバターの塊「ボグ・バター」とは、そして食べた人の感想は?
約2000年前に作られたと推定される約10kgのバターの塊が、アイルランドのミース州の沼地から発掘されたことが報じられていますが、アイルランドで太古のバターが発見されたのは初めてではなく、2009年にはキルデア州で3000年前に作られた約35kgのバターの塊が、2013年にはオファリー州で約5000年前に作られたと見られる約45kgものバターの塊が発掘されています。これらのバターの塊はいずれも沼地に埋められていることから「ボグ・バター(沼地バター)」と呼ばれているのですが、スミソニアン博物館を運営するスミソニアン学術協会がボグ・バターについて解説しています。
http://www.smithsonianmag.com/smart-news/a-brief-history-of-bog-butter-180959384/
ボグ・バターとは、数千年前の人類が保存のため沼地に埋めたバターが現代になって発見されたもの。アイルランド人は燃料としてコケを使用する文化があったため、コケを掘り起こしていた一般人が、自宅の庭からボグ・バターを発見することもあったそうです。
発見されたボグ・バターを調査したブリストル大学の研究によると、バターのうちいくつかは乳製品ではないものも含まれていましたが、動物のミルクから作られたものが多く、いくつかは保存料として獣脂が混ざっていたことがわかっています。アイルランド考古学ジャーナルで公表された研究によると、ボグ・バターの多くは土器のポット、木製容器に入ってたり、動物の皮や樹皮などでくるまれていたりすることが多いとのこと。いずれも刺激性のチーズ臭を放つという特徴を持っています。
これまで274個のボグ・バターが発掘されており、鉄器時代から中世にかけて沼地に埋められたものと判明しています。バターを製造した初期のケルト人が、単純に保存するためか、泥棒から保護するために沼地に埋めていたと考えられています。低温、低酸素・高酸性の沼地はまさに「自然の冷蔵庫」の役割を果たすため、現代まで残存しているわけです。
当時のバターは非常に価値のあるもので、そのまま食べるだけでなく、税金の支払いや干ばつ・飢饉(ききん)への備蓄として重宝されていたとのこと。また、地中にバターを埋めるという行為は、神や精霊への贈り物だった可能性もあるそうです。ブリストル大学の研究者は、バターを泥の中に埋めることで化学組成が変更されることから、味を良くするための一種の食品加工だったという推測もあります。
今回ミース州で発見された2000年前のボグ・バターは、部屋に充満するほど強いバターのような匂いを放っているとのことですが、研究者は「理論上は食べられるが、食べない方がいい」と述べています。過去には実際にボグ・バターを食べた強者も存在しており、2014年にはアイルランドの有名なシェフであるケビン・ソーントン氏が4000年前のボグ・バターを試食しています。ソーントン氏は「発酵物独特の味はなくなってしまっているものの、強烈な味わいを舌と鼻で感じる」と説明しており、体調を崩すことなく「歴史の味」を感じることができたようです。アイルランド国立博物館のアンディ・ハルピン氏は、「鉄器時代の珍味を体内にサンプリングするのは賢明ではない」とコメントしています。
またNordic Food Labは、ボグ・バターの作り方を再現したレシピを写真付きで公開しており、以下のページからその工程を見ることができます。
Bog butter: a gastronomic perspective - Nordic Food Lab
http://nordicfoodlab.org/blog/2013/10/bog-butter-a-gastronomic-perspective
なお、完成品を食べた作成者によると、「うまみと嫌悪感を同時に味わえる。『動物の脂』『腐敗臭』『コケ』『刺激臭』『悪臭』『サラミ』などの匂いがする」と話しています。獣脂を加えたり、木に包んだり、沼地に埋めたりするレシピのため、おいしいのかまずいのかよくわからない風味を得てしまうようです。