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■想定外の誤算、顧客情報の大量流出事件

「経営者は結果がすべて」――。経営者なら誰もが口にし、耳にタコができるくらい良く聞かれる言葉だ。それは、優れた経営手腕を買われ、外部から経営変革の宿命を背負わされ経営トップに起用された、いわゆる「プロ経営者」にとってより高いハードルとして突き付けられる。そんな彼らがいま試練にさらされている。

プロ経営者の代表格と囃されたベネッセホールディング(HD)の原田泳幸会長兼社長、LIXILグループの藤森義明社長がそれぞれ、6月で退任に追い込まれる憂き目をみたからに他ならない。「敗軍の将」に弁明の余地はない。

原田氏は米アップルの日本法人から日本マクドナルドホールディングスのトップへの鞍替えを「Macからマックへ」と揶揄され、2014年にベネッセHDに社長として迎え入れられた。文字通り、プロ経営者として華麗なる転身を地でいった。しかし、同社は2016年3月期に2期連続の最終赤字に陥り、5月11日の決算発表記者会見で原田氏は「経営トップとして責任をとる」と述べるより術はなかった。

創業家の福武総一郎氏に請われて就任間もなく、「進研ゼミ」「こどもチャレンジ」を手掛ける通信教育事業子会社で発覚した顧客情報の大量流出事件は想定外の誤算で、原田氏が退陣に追い込まれる致命傷になった。

LIXILの藤森氏の場合は、積極果敢なM&A(企業の合併・買収)によって、住宅設備・建材という“内向き”な事業をグローバル化に大きく舵を切った。しかし、その路線が墓穴を掘った。藤森氏は米ゼネラル・エレクトリック(GE)で上級副社長を務め、GE中興の祖として最高経営責任者(CEO)を務めた名経営者、ジャック・ウェルチ氏の薫陶を受けた国際派の手腕を買われ、11年にLIXILの社長に迎えられた。

■プロ経営者の起用は一つの選択肢でしかない

しかし、買収した独グローエ傘下の中国企業の不正会計を見抜けず、660億円の特別損失を計上し、LIXILの16年3月期決算は6年ぶりの最終赤字に追い込まれた。藤森氏には就任前の11年3月期にわずか3%に過ぎなかった海外売上高比率を16年3月期に30%に引き上げ、LIXILをグローバル企業に導いた自負はあった。

結果がすべてのプロ経営者にとって自失に逃げ道はなく、退任に追い込まれる。後任には工具インターネット販売大手、MonotaRO(モノタロウ)を育て上げた瀬戸欣哉氏が就く。後釜のプロ経営者は5月9日のLIXILの決算発表記者会見で、6月の就任前にもかかわらず、隣に座る藤森氏を前に、「買収後の統合プロセスが全然不十分。いまの資産をどう生かすかが最優先だ」と、「藤森路線」にダメ出しした。さながら、矢継ぎ早のM&Aで肥大化した組織に「瀬戸流」のメスを入れるとの意思表示であった。

米欧で決して珍しくないプロ経営者のトップ起用は、日本企業でも近年、注目され、採用例が増えつつある。ローソンのトップからサントリーホールディングスの社長に電撃移籍した新浪剛史氏、日本コカ・コーラの副社長、会長から資生堂の社長に転身した魚谷雅彦氏、ジョンソン・アンド・ジョンソンの日本法人からカルビーのトップに転じた松本晃氏らがその代表例だ。

年功序列、終身雇用が根強く残る日本型の雇用慣行にあって、日本企業でトップは組織内昇格型が一般的だった。しかし、歴史が積み重なり組織や意志決定の仕方が硬直化すれば、事業・経営の変革に外部の力が必要な場合もある。その意味で、プロ経営者の起用は一つの選択肢でもある。それが最適解かは原田、藤森両氏のケースをみるまでもない。

(経済ジャーナリスト 水月仁史=文 時事通信フォト=写真)