骨抜き就活「新ガイドライン」! フライング内定が続出する背景

写真拡大

■今後、就活ガイドラインの是非が問われる

日本経済団体連合会(経団連)が就職活動での学生の負担を和らげようと、3月にスタートした企業による新卒採用スケジュールを改定した新たなガイドラインが既に骨抜き状態に陥っている。

昨年までの8月を前倒しし、企業に面接などの選考活動を解禁する6月を待たずに、会社説明会など企業の広報活動を解禁した3月直後から内定を出す企業が続出しているからだ。大学側から「学生に混乱を招くだけ」と上がった批判を押し切り、「学業優先」を掲げ2年連続でスケジュールを改定した経団連の狙いは脆くも崩れ、ガイドラインの是非を巡る論議が再燃しかねない。

新ガイドラインが早くも骨抜きとなった実態は、人材情報会社が実施した複数の調査の結果で明らかになっている。マイナビ(東京都千代田区)が4月14日発表した「企業新卒採用予定調査」(調査時期:2月上旬〜3月上旬)によると、3〜5月に面接を開始する企業は72.6%に上り、同時期に内々定を出す企業も50.7%と半数を超えた。さらに、アイデム(東京都新宿区)が採用広報活動の解禁された3月1日時点で人事担当者を対象に実施した調査の結果、6月の選考活動解禁前に56.2%が面接を実施し、39.9%が内定を出し始めることが判明した。

両調査の結果からは、多くの企業が経団連の新ガイドラインを守るどころかほとんどが無視し、ガイドラインの規定がほとんど形骸化している実態を裏付けた。経団連は基本的に会員企業に対してガイドラインが定めた規定の順守を要請しており、加盟していない企業は対象外となる。

確かに、マイナビ、アイデムによる調査は、それぞれが対象とした企業に経団連会員以外の企業も多数含まれている。外資系や中堅・中小企業、ベンチャー企業には非加盟が圧倒的であり、ルール無視はお構いなしである。しかし、それを差し引いても、両社の調査結果からは、ガイドラインが健全なかたちで企業の採用活動、学生の就活に寄与していない現実を突き付けている。

■過熱する就活問題に最適解はあるか

この背景には、ガイドラインの見直しにより、5カ月の期間があったに昨年に比べ、今年は3月の広報活動解禁から6月の選考開始まで、企業、学生双方にとってわずか3カ月の期間しかない「短期決戦」に切り替わったことが大きな要因に働いている。とりわけ、学生の「売り手市場」が続く環境下にあっては、優秀な人材を確保したい企業側が浮き足立ち、経団連会員企業ですら“掟破り”の採用活動に踏み込まざるを得ないという現象を生んでいる。

経団連のガイドラインが会員企業の自主性を重んじ、罰則のない、いわゆる「紳士協定」となっている点も、会員企業に順守徹底を迫れない理由である。しかし、企業の採用活動が毎年、物議を醸すのは、「新卒一括採用」が絶対的な慣行として日本企業に定着しているという点に根本的な原因がある。

企業側には新卒者採用のコストを抑えられるなどの理由で、世界的に特異な日本型の採用活動からなかなか抜け出せない事情もある。これに対し、経団連とはライバルの経済同友会は、希望した仕事と採用した企業の業務のミスマッチなどから早期に退社した、いわゆる「第2新卒」らを含め、卒業後5年間の就職希望者を新卒扱いで採用し、企業に通年採用を促す提言をまとめ、解決策が一向に見出せない就活問題に一石を投じた。

しかし、新卒一括採用の日本型慣行を再考する問題提起となったとしても、これを打破するために費やされるエネルギーの大きさは計り知れない。その意味からいっても、過熱する一方の就活問題に最適解はないのが現実だ。

(経済ジャーナリスト 水月仁史=文)