「つるピカハゲ丸」のむらしんぼの壮絶借金生活「コロコロ創刊伝説」で完済を目指す

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「コロコロコミック」を卒業した大人のための漫画雑誌として話題を呼んでいる「コロコロアニキ」


そんな「コロコロアニキ」で、コロコロ黎明期の編集者、漫画家たちの熱い物語を描いている連載「コロコロ創刊伝説」(コミックス第1巻発売中)の作者・のむらしんぼ先生インタビュー第3弾。

最終回となる第三回は担当編集の石井さんも加わって、「コロコロ創刊伝説」創作裏話から、のむら先生の借金問題まで、ディープすぎる話を訊いた!
第一回第二回


●ああ、漫画家でよかった


──そろそろ、今回の「コロコロ創刊伝説」の話をしたいと思うんですが、やっぱり一番驚いたのは、のむら先生が今、まさかの借金生活を送っているという……。「つるピカハゲ丸」の時に相当、儲かっていたでしょうに!


のむら マンションを買ったのにバブルがはじけちゃったり、離婚したりとか色々あったんですけど……お金って残らないもんですねぇ〜。

ただ、お金は苦しかったけど、漫画家としての精神は鍛えられたし、それはそれで幸せは感じていましたけどね。

「ハゲ丸」から離れて色んなことにチャレンジしていた時に改めて思いましたよ、「ああ、漫画家でよかった」って。

それに、編集者がずっとオレを捨てないでいてくれたのが嬉しかったです。……まあ、捨てられかかった時もありましたけど(笑)。そんな時に、石井さんから「コロコロ創刊伝説」の話を頂いたんですよ。

──その辺の話は漫画の中でも描かれていますが、本当に「ハッキリ言って古いんですよね〜」なんて言われたんですか?

のむら あれは漫画的な表現で、直接「古い」とは言われてませんけどね。

石井 しんぼ先生も長年コロコロで色々連載してきましたけど、さすがにもう60歳ですし、どうしても読者との乖離があって……。ギャグが今の子どもに通用しないという、つらい時期があったんですよね。

のむら まあ自分でも分かってるんですよ。「超熱ゲームキッド!!クリエイ太」を描いていている頃も、「あんな太い眉毛のヤツはいない」「最近の流行りじゃない」とか思われてたんだろうなって。

「コロコロ創刊伝説」をはじめる前も、別のギャグ漫画の企画を温めていたんですけど、石井さんに「その企画は全部捨ててください」って言われて。

石井 そこまで厳しく言ってませんよ!

のむら 「忘れてください」くらいだったかな(笑)。「それもいいんですけど、しんぼさんにしか描けないコロコロの歴史を描いてみませんか?」って。

正直、オレは不満だったんですけどね。どうしても描きたいキャラクターだったんで、そっちを世に発表したかったんです。

●昔からコロコロを知っているオレにしか描けない漫画


──自伝的な漫画を描くことにはあまり興味がなかったんですか?


のむら もちろん、安孫子(藤子不二雄A)先生の「まんが道」への憧れはありますから、いつか自伝的漫画を描いてみたいという願望はありましたけど、もっと歳を取ってからでいいかなと思っていましたね。

ただ、自分の漫画が古くなっているというのに薄々気づいている中で、漫画家としての武器は何かって考えたんです。最近の若い漫画家には絵のデッサン力じゃ勝てないし……。

とはいえ、今さら必死になってデッサンの勉強したって、もう間に合わないんですよ。上手くなる頃には死んじゃいますから。

だから自分の短所は全部捨てて、長所だけに光を当てていこうと思ったんですね。「のむらしんぼは古い」と思われてるかも知れないけど、古さも武器になるんじゃないかと。

ちょうど石井さんからこの話を頂いて、昔からコロコロを知っているオレにしか描けない漫画を描いてみたらいいんじゃないかと思ったんですよね。

石井 いやホントに、コロコロでずっと描いている漫画家さんって、しんぼさんだけですからね。

のむら 自分からは「コロコロ創刊伝説」という発想は出なかったと思うんで……。冷静に見てくれる客観の視線って大事ですよね。

弘兼先生も「担当編集者は一番最初の読者だ」と言っていましたけど、漫画を描く上で担当編集さんの力って大きいですよ! ……石井さんがいるからヨイショするわけじゃないですけど(笑)。自分ひとりで漫画を描けると思っている漫画家は間違いです!

最初は「コロコロ創刊伝説」も、ギャグじゃないから、8頭身の劇画風な絵柄で描こうと思っていたんですよ。でも石井さんが「しんぼさんのいつもの絵柄でいいですよ」って言ってくれたんですよね。

──「コロコロアニキ」のターゲットである、ボクみたいに「ハゲ丸」を読んでいた世代からすると、この絵柄の方が読みやすいですよ。

のむら もしそれで、劇画調で格好つけて描いていたら、大批判浴びていたと思いますね。石井さんに足を向けて寝られませんよ!

●小学校低学年に向けた児童漫画も描きたい


──コロコロの歴史を描くに当たって、現在の借金苦や離婚の話からはじまるのはどうしてなんですか?

のむら それは、石井さんが「描け描け」って言うから……。オレは別にプライベートは描きたくなかったんですよ。コレは世間の人たちに言っておきたい!

でも、石井さんと色んな話をしていていく中で「しんぼさん、これを描かなくちゃダメだ」って。オレはかなり抵抗したんですけど……。

それから、初代・担当編集の平山さんと食事した時にも「石井さんが、ここまで描かせようとするんですよ。助けて下さいよ〜」と泣きついたんですけど「しんぼちゃん、漫画家はこういう恥をさらさなきゃダメなんだ! ここで読者が付いてくるんだよ!」って……。

オレを育ててくれた平山さんにそう言われたら描くしかないですよねぇ〜。

──結果的には、借金まみれの現在と、過去の思い出が交互に展開していくというこの構成は大正解だったんじゃないですか?

のむら 別れたかみさんからも怒られてないし、娘とも連絡取れたしね。これからまた何を描けって言われるか怖いですけど(笑)。

でも、石井さんには本当に感謝していますよ。取材だけじゃなくて、オレの借金までどうにかしてくれようとしましたからね。「借金、なんとかしましょうよ。弁護士事務所に問い合わせてみますから!」って。一緒にアディーレ法律事務所に行って……。ホントに編集者の鑑!


石井 結局、過払い金がなかったんで、借金はそのまま残っちゃったんですけどね。

のむら それでも、そこまで心配してくれるのかって思いましたよ。

──その過程も漫画のネタに出来るという考えも……。

石井 それも、もちろんありましたけどね!

でも、しんぼさんは早く借金を返しちゃわないとホントにマズいんですよ。年金も払っていないし……。漫画描けなくなったら大変ですよ。漫画以外のところはメチャクチャな人なんで。

──えっ、稼いでた時期も年金を払ってなかったんですか?

のむら どうも滞納しちゃうんですよね、年金も国保も……。家賃もギリギリだし。

これを言うとまた石井さんに怒られそうだけど、今月分の家賃もカードローンの借入枠を使って何とか払いましたからね。

──カードローンの借入枠は貯金じゃないですよ!

のむら いやぁ〜、自分でも10年前までは、カードの借入枠を自分の貯金のように勘違いして使っちゃうだなんて思ってもみなかったんですけどね。

最初のうちは借金だって理解しているんですけど、1年も経たないうちに、キャッシュカードで貯金をおろしにいくみたいな感覚になっちゃって……。

でも最近は趣味・借金返済ですよ。やっと借金を返すことに楽しみを感じてきました。「今月は10万も返せたぞっ!」って。


──単行本に折り込まれているチラシにも「のむらしんぼ先生の借金返済にご協力ください!」って書かれていましたよね(笑)。

石井 とりあえず順調に売れているみたいですよ。重版するためにも、もっともっと買って頂けたら!

のむら まあ、なんとか第1巻を出せたんでね。2巻か……3巻くらいまで出せれば御の字ですよね。

石井 いやいや、ネタはいくらでもありますから、もっと続きますよ! まだファミコンやミニ四駆といったホビー全盛の、いわゆる「コロコロ」という時代にすら入っていないですから。


──今後の展望としては、とにかく「コロコロ創刊伝説」をがんばって借金完済という感じでしょうか?

のむら そうですね。何とか借金を返して安心出来れば(笑)。

ただ、石井さんは「コロコロ創刊伝説」1本に集中して欲しいと思っているんでしょうけど、オレとしては、やっぱりノンフィクションだけじゃなく、小学校低学年に向けた児童漫画も描きたいんですよね。

──確かに「コロコロ創刊伝説」は大人向けですもんね。

のむら もう60歳だし、「これで一発当てたい」とか変な欲じゃなくて、子どもの幸せをテーマにした、笑って泣いて、読んでいると自分も元気をもらえるような……。そんな漫画を描きたいですね!
(北村ヂン)


発売中の「コロコロアニキ」第5号では、「コロコロ創刊伝説」第1巻の続きが読めるぞ!
コロコロアニキ公式サイト