初回からピンチ、月9「ラヴソング」はどうしたらいいのか

写真拡大

「ラヴソング」第1話(フジテレビ 毎週月曜 夜9時〜)
脚本:倉光泰子  演出:西谷弘


なぜ、視聴率10.6%だったか


4月11日(月)からはじまった月9「ラヴソング」。主演の福山雅治はデビューから26年、ミュージシャンとしても俳優としても常に第一線を走ってきたが、ここへきて、初回の視聴率が10.6%といまひとつの成績に、本人はどう思っているかわからないが、世間は大騒ぎだ。

元ミュージシャンで、今、臨床心理士の主人公・神代公平(福山雅治)と、大型車販売店の整備工場で働く佐野さくら(藤原さくら)。各々の事情で心に傷を負っているふたりが出会い、触れ合い、心を通わせていくラブストーリーが、なぜ興味をもたれなかったのか。原因としてはこんなことが挙げられている。

結婚問題

長年、独身を貫いてきた福山雅治が、昨年、女優・吹石一恵と結婚した際、一瞬、所属事務所の株価が下がったほど、多く女性ファンたちを嘆かせたので、やはり結婚が視聴意欲に影響したのではないか。
福山が、幸せ太りなのか、おっさん化(現在47歳)し、魅力がなくなったのでは、という意見もあるようだ。

年齢差問題

47歳の福山の相手役が20歳の新人・藤原さくらであること。いくら最近、年の差結婚が増えているとはいえ、父娘でもいいくらいの27歳差はやり過ぎという戸惑いを世間が抱くのも無理はない。

タブー問題

女性がけだるく横たわって福山を誘うシーンや、女性の喫煙シーンが出て来て、不快感があったからではないか、なんていう意見も。
近年、喫煙シーンやお色気シーンは、そういうものが嫌いなひとに配慮して、ドラマからどんどん減っているのだ。

ラブストーリーは流行らない問題

ラブストーリーの需要が減り、一話完結のミステリーや医療ものが好まれるのが、近年のドラマの傾向。福山が主演して高視聴率をあげた「ガリレオ」(07、13年)もラブストーリーではなく、ミステリーだった。

1に関しては、確かに、年をとったバロメーターである顎のあたりの肉のたわみは確認されたが、ふつうの47歳よりは断然保っているし、完全に言いがかり的な印象も受ける。異性の恋心をくすぐることで成り立つ職業はほんとうに大変だと、福山をお気の毒に感じる。
2、3に関しては、一般的な見地からいったら、まず避けることかもしれない。たとえば、27歳差の共演なら、福山を若く見えるお父さんにして、父と娘の話にしたら、2と4問題が解決したのではないか。

福山の別れの言葉


ではなぜ、2、3、4問題を事前に摘まずに発進したのだろうか。
むしろ、「ラヴソング」は世の中の流れにあえて逆らうチャレンジ作ではないだろうか。
3問題なんて、嬉々としてやっているように見受けられた。
大型車販売店の整備工場に働く女性従業員たちが休憩時間、おしゃべりに興じている。おやつに出てくるのが、ヨックモックの「シガール」。「葉巻」という名前のそれに目もくれずに、ヒロインさくらは「煙草」を吸いに外へ出る。あとから、ほかの従業員も吸いに来て、集団喫煙。そこで注目したいのは、やって来た彼女たちは、「煙草の匂いがはんぱなくね」「日本なに目指してるんだろ」とつぶやいているのだ。
喫煙場所を固定することによって、その空間だけ異常に煙草くさくなる、そこをたまたま通った時の破壊的なダメージを考えていないのか、と疑問に思う人間にとっては、この場面、うんうん頷いてしまう。
このどうでもよさそうな場面に、こんなに意識が働いているのだから、このドラマが何かをしようとしていると思うのだ。
それこそ、冒頭、福山演じる公平が、居候していた女の部屋から去っていく場面にドラマの決意がこもっているのではないか。
「わたしが言いたいこと当ててみて」という女に、福山は「元気でね」と別れを告げて、ピシャリ!と叩かれる。

福山は、このドラマで、独身のイケメン枠から決別する宣言をしてみせたのだ。
「元気でね」と、独身という価値観で自分を見ていたファンたちへの別れの言葉を発した福山はどこに向かうのか。
「ラヴソング」に散りばめられたアイテムは、「レオン」のような若い女の子との恋、昔のバンド仲間との関係(福山が選んだマニアックなギターがいろいろ出るらしい)、喫煙シーン(福山は吸ってないが)、忌野清志郎の「500マイル」・・・って、それらは皆、おっさんのドリームではないか。
月9で、「湯けむりスナイパー」「孤独のグルメ」「東京センチメンタル」のようなおっさんの夢を目指すのは、かなり冒険であろう。
・・・と思ったら、初回の裏番組で15.3%の高視聴率をとった「月曜から夜更かし」(日本テレビ)の功労者は、66歳の桐谷さん、というまさにおっさんだった!

つまり、おっさんのドラマを目指すのは間違ってはいない。
元々、ラジオでの下ネタ全開トークで男性ファンも多くもっていた福山、今後は「ましゃ」でなく「まっしゃん」を目指して、がんばってほしい。
(木俣冬)