4/29グランドオープン、京都鉄道博物館のここが凄い
東寺の五重塔の前を行く東海道新幹線。京都に来たなと思わせる風景だ。
さらに東海道本線など在来線の列車が行き交う。
この絶好のトレインビュースポットはどこかというと……
来たる4月29日(金・祝)にグランドオープンを控える「京都鉄道博物館」だ(上の写真は本館3階のスカイテラスから撮ったもの)。4月に入って報道関係者向けに内覧会が開催されるというので、ひと足早く見学してきた。
博物館がオープンするのは、JR京都駅の中央口を出て、西へ20分ほど歩いたところにある梅小路公園。京都水族館の前を通り、嵯峨野線(山陰本線)の高架下をくぐるとその建物は現れる。
もともとこの場所には旧国鉄の梅小路機関区を利用した「梅小路蒸気機関車館」があった。京都鉄道博物館は、旧梅小路蒸気機関車館の施設とその隣に新設された本館とで構成される。車両をはじめとする展示物や所蔵資料は、一昨年閉館した大阪市の「交通科学博物館」からその多くを継承している。運営するのは、JR西日本の外郭団体である交通文化振興財団。
エントランスホールを抜けると、駅のホーム風のプロムナードがあり、蒸気機関車C62形、湘南電車として登場したクハ86形(緑とオレンジの塗色が鮮やか)、それから新幹線の最初の車両である0系と、鉄道史に残る名車たちが来館者を迎えてくれる。0系新幹線は2つの先頭車両に挟まれて食堂車とグリーン車が連結されている。新幹線の先頭車両が前と後ろとセットで見られるのは全国でもここぐらいではないか。
さらにプロムナードを進んでゆくと、ブルートレインに使われた客車(ナシ20形)や、少し前の「タモリ倶楽部」でタモリ一行が大阪まで来て乗車していた大阪環状線の103形電車(まもなく環状線から引退予定)などが展示されている。
さらに、こんな車両も。
スシ28形というこの車両は、戦前に製造された車両を食堂車に改造したもの。スシといっても寿司のことではなく、「ス」は車両の重さが37.5トン以上〜42.5トン未満であることを示す重量記号で、続く「シ」は食堂車という用途を示している。
名車の展示はプロムナードから本館1階へと続く。1階の中央部分には、JR西日本の開発した500系新幹線(アニメ「新世紀ヱヴァンゲリオン」とのコラボが記憶に新しい)、世界初の寝台電車クハネ581形、国鉄時代を代表するボンネット型の電車特急クハ489形が並ぶ。
ただし、残念ながら、ここに展示されている車両のほとんどは車内に入ることができない。保存のためにはしかたないこととはいえ、窓越しにしか内部が見られないのはちょっとじれったい。
本館1階では鉄道の歴史が、実物の車両や資料、模型やパネルによってたどることができる。それを見てゆくと、JR西日本のエリアには、日本の鉄道における「はじめて」が思いのほか多いことに気づかされる。
たとえば、トンネル。阪神間の石屋川・住吉川・芦屋川は、周囲の土地より高い位置を流れる天井川のため橋を架けられなかった。そこで外国人技師の提案を受けて川の下にトンネルを掘ることになった。こうして完成した東海道本線の石屋川トンネルが、日本初の鉄道トンネルだ(1871年完成。ただし現存せず)。ちなみに日本人だけの手でつくられた初めてのトンネルもやはり関西、東海道線の京都〜大津間の逢坂山トンネル(1880年完成)である。
このほか、鉄道連絡船(1882年、大津〜長浜間を琵琶湖上の航路で結んだ太湖汽船)、食堂車(1899年に山陽鉄道=現・山陽本線が京都〜三田尻=現・防府間で導入)なども現在のJR西日本のエリアから始まったものだ。ついでにいえば、1895年に日本で初めて路面電車(のちの京都市電)が走ったのも関西、それもこの博物館のお膝元の京都である。2階には、市電をはじめ京都の市内交通、また関西の大手私鉄を紹介する展示室も設けられている。
同じく2階にある「鉄道ジオラマ」でも、JRの列車模型に混じって、阪急電車と近鉄特急「しまかぜ」と私鉄の列車が見られる。このような私鉄の扱いは、同じJRグループの博物館でもJR東日本の鉄道博物館(さいたま市。運営は東日本鉄道文化財団)やJR東海のリニア・鉄道館(名古屋市)には見られない。JRと私鉄が熾烈な競争を繰り広げている関西ならではだろう。
なお、鉄道ジオラマは1回につき20分間実演され、そこでは早朝から深夜まで鉄道の一日を再現しながら、列車模型が都市部や山岳部などさまざまなロケーションを走り抜ける。その種類も、通勤電車をはじめ東北・北海道新幹線、北陸新幹線、東海道・山陽新幹線、山陽・九州新幹線の各列車、寝台特急や貨物列車などバラエティに富む。
さて、たくさんの車両を見られるのはいいのだけれども、ここではさいたまの鉄道博物館のように、新幹線の車両に内蔵されている連結器を出して見せたり、蒸気機関車を乗せた転車台を回したりなどといったアトラクション的なものはないのだろうか?
……と思いかけて、はたと気づいた。そうだ、この京都鉄道博物館では、8両の蒸気機関車がいまでも動かせる状態で保存、つまり動態保存されるのだった!
この博物館の一前身である旧梅小路蒸気機関車館では、扇形車庫に蒸気機関車が展示され、転車台まで動かしたり、さらに客車を牽引して運転も行なわれていた。これらは京都鉄道博物館になっても引き継がれる予定だ。車両を本来あるべき姿で見せるのだから、これにまさるアトラクションはないだろう。
扇形車庫は、内覧会開催時には耐震補強の工事中だったが、グランドオープンとともに再び見学できるようになる。車庫の付近に新設されたSL第2検修庫では、オープンに向けて機関車の修繕の真っ最中だった(その様子はガラス越しに見ることができた)。
その作業の様子を眺めるうち、この博物館では車両や資料ばかりでなく、機関車の修繕や運転といった技術をも含めて後世へ保存・継承しようとしているのだなと思いいたった。
内覧会では京都鉄道博物館の三浦英之館長が報道陣の取材に応じた。このとき三浦館長が開館にあたって望むことの一つとしてあげていたのが、「鉄道の人間がどういう仕事をしているのか知ってほしい」ということだった。それだけに、館内の展示には鉄道職員の仕事を疑似体験できるものが多い。
鉄道博物館やリニア・鉄道館など既存のミュージアムでも人気の運転シミュレータ(新幹線、在来線電車とあり)をはじめ、複数の列車をコントロールする運転指令所を再現したコーナーや、あるいは「ATS(自動列車停止装置)」「ATC(自動列車制御装置)」という装置について、模型を使った運転体験を通じてその役割としくみが理解できるコーナーもある。ATSやATCは万が一のヒューマンエラーに対しバックアップを行なうためのシステムだ。
思えば、JR西日本管内の福知山線では2005年に100人以上もの死者を出す脱線事故が起こっている。安全を前面に押し出し、それを支える人々の仕事を知ってもらおうというこの博物館のコンセプトの根底には、あの事故への反省があるような気がしてならない。
体験展示としてはこのほか、車両の保守点検を行なう工場を再現したコーナーが1階に設けられている。また、2階の昔と今の駅を並べて再現したコーナーでは、「マルス」という販売管理システムの端末を使った切符販売を疑似体験することもできる。ディスプレイに表示された乗客の注文にあわせて切符を用意するのだが、これがなかなか難しい(実際には乗客からは口頭で注文されるわけだから、もっと難しそうだ)。
と、まあ京都鉄道博物館にはいろんなものが展示され、かつ体験することができる。内覧会は3時間だったが、じっくり見て回っていたらまったく時間が足りない。オープン当初は連日混雑が予想されるし、出かけるならかなり時間の余裕を持って行ったほうがいいです。
博物館を出てからもなごり惜しくて、しばらく周辺をうろうろしていた。すると、館内の様子が垣間見える場所で、おじいちゃんらしき人に連れられた男の子が「ゴハチだ!」と電気機関車EF58形を指しながらはしゃいでいるのを見かけた。この博物館はまず何よりこういう子たちのためにある。ここには君が大喜びするものがもっとたくさんあると、ひと足先に見てきたおじさんが保証します。オープンまであと少し、楽しみに待ちましょう。
■京都鉄道博物館(2016年4月29日グランドオープン)
〒600-8835 京都市下京区観喜寺町
※JR「京都駅」中央口より徒歩約20分、嵯峨野線「丹波口駅」より徒歩約15分
(2019年には博物館北側に嵯峨野線の新駅が開業予定)
※「京都駅」前の北口バス乗り場よりバスで「梅小路公園・京都鉄道博物館前」または「梅小路公園前」下車
※駐車場はないので、公共交通機関か徒歩でお出かけください
【開館時間】10:00〜17:30(入館は17:00まで)
【休日】毎週水曜・年末年始(12/30〜1/1)
【入場料金】一般・1,200円ほか 詳細は公式サイトを参照
(近藤正高)
さらに東海道本線など在来線の列車が行き交う。
この絶好のトレインビュースポットはどこかというと……
来たる4月29日(金・祝)にグランドオープンを控える「京都鉄道博物館」だ(上の写真は本館3階のスカイテラスから撮ったもの)。4月に入って報道関係者向けに内覧会が開催されるというので、ひと足早く見学してきた。
博物館がオープンするのは、JR京都駅の中央口を出て、西へ20分ほど歩いたところにある梅小路公園。京都水族館の前を通り、嵯峨野線(山陰本線)の高架下をくぐるとその建物は現れる。
歴史に残る名車の数々
エントランスホールを抜けると、駅のホーム風のプロムナードがあり、蒸気機関車C62形、湘南電車として登場したクハ86形(緑とオレンジの塗色が鮮やか)、それから新幹線の最初の車両である0系と、鉄道史に残る名車たちが来館者を迎えてくれる。0系新幹線は2つの先頭車両に挟まれて食堂車とグリーン車が連結されている。新幹線の先頭車両が前と後ろとセットで見られるのは全国でもここぐらいではないか。
さらにプロムナードを進んでゆくと、ブルートレインに使われた客車(ナシ20形)や、少し前の「タモリ倶楽部」でタモリ一行が大阪まで来て乗車していた大阪環状線の103形電車(まもなく環状線から引退予定)などが展示されている。
さらに、こんな車両も。
スシ28形というこの車両は、戦前に製造された車両を食堂車に改造したもの。スシといっても寿司のことではなく、「ス」は車両の重さが37.5トン以上〜42.5トン未満であることを示す重量記号で、続く「シ」は食堂車という用途を示している。
名車の展示はプロムナードから本館1階へと続く。1階の中央部分には、JR西日本の開発した500系新幹線(アニメ「新世紀ヱヴァンゲリオン」とのコラボが記憶に新しい)、世界初の寝台電車クハネ581形、国鉄時代を代表するボンネット型の電車特急クハ489形が並ぶ。
ただし、残念ながら、ここに展示されている車両のほとんどは車内に入ることができない。保存のためにはしかたないこととはいえ、窓越しにしか内部が見られないのはちょっとじれったい。
関西ならではの展示
本館1階では鉄道の歴史が、実物の車両や資料、模型やパネルによってたどることができる。それを見てゆくと、JR西日本のエリアには、日本の鉄道における「はじめて」が思いのほか多いことに気づかされる。
たとえば、トンネル。阪神間の石屋川・住吉川・芦屋川は、周囲の土地より高い位置を流れる天井川のため橋を架けられなかった。そこで外国人技師の提案を受けて川の下にトンネルを掘ることになった。こうして完成した東海道本線の石屋川トンネルが、日本初の鉄道トンネルだ(1871年完成。ただし現存せず)。ちなみに日本人だけの手でつくられた初めてのトンネルもやはり関西、東海道線の京都〜大津間の逢坂山トンネル(1880年完成)である。
このほか、鉄道連絡船(1882年、大津〜長浜間を琵琶湖上の航路で結んだ太湖汽船)、食堂車(1899年に山陽鉄道=現・山陽本線が京都〜三田尻=現・防府間で導入)なども現在のJR西日本のエリアから始まったものだ。ついでにいえば、1895年に日本で初めて路面電車(のちの京都市電)が走ったのも関西、それもこの博物館のお膝元の京都である。2階には、市電をはじめ京都の市内交通、また関西の大手私鉄を紹介する展示室も設けられている。
同じく2階にある「鉄道ジオラマ」でも、JRの列車模型に混じって、阪急電車と近鉄特急「しまかぜ」と私鉄の列車が見られる。このような私鉄の扱いは、同じJRグループの博物館でもJR東日本の鉄道博物館(さいたま市。運営は東日本鉄道文化財団)やJR東海のリニア・鉄道館(名古屋市)には見られない。JRと私鉄が熾烈な競争を繰り広げている関西ならではだろう。
なお、鉄道ジオラマは1回につき20分間実演され、そこでは早朝から深夜まで鉄道の一日を再現しながら、列車模型が都市部や山岳部などさまざまなロケーションを走り抜ける。その種類も、通勤電車をはじめ東北・北海道新幹線、北陸新幹線、東海道・山陽新幹線、山陽・九州新幹線の各列車、寝台特急や貨物列車などバラエティに富む。
動く蒸気機関車も見られます
さて、たくさんの車両を見られるのはいいのだけれども、ここではさいたまの鉄道博物館のように、新幹線の車両に内蔵されている連結器を出して見せたり、蒸気機関車を乗せた転車台を回したりなどといったアトラクション的なものはないのだろうか?
……と思いかけて、はたと気づいた。そうだ、この京都鉄道博物館では、8両の蒸気機関車がいまでも動かせる状態で保存、つまり動態保存されるのだった!
この博物館の一前身である旧梅小路蒸気機関車館では、扇形車庫に蒸気機関車が展示され、転車台まで動かしたり、さらに客車を牽引して運転も行なわれていた。これらは京都鉄道博物館になっても引き継がれる予定だ。車両を本来あるべき姿で見せるのだから、これにまさるアトラクションはないだろう。
扇形車庫は、内覧会開催時には耐震補強の工事中だったが、グランドオープンとともに再び見学できるようになる。車庫の付近に新設されたSL第2検修庫では、オープンに向けて機関車の修繕の真っ最中だった(その様子はガラス越しに見ることができた)。
その作業の様子を眺めるうち、この博物館では車両や資料ばかりでなく、機関車の修繕や運転といった技術をも含めて後世へ保存・継承しようとしているのだなと思いいたった。
鉄道の仕事を疑似体験
内覧会では京都鉄道博物館の三浦英之館長が報道陣の取材に応じた。このとき三浦館長が開館にあたって望むことの一つとしてあげていたのが、「鉄道の人間がどういう仕事をしているのか知ってほしい」ということだった。それだけに、館内の展示には鉄道職員の仕事を疑似体験できるものが多い。
鉄道博物館やリニア・鉄道館など既存のミュージアムでも人気の運転シミュレータ(新幹線、在来線電車とあり)をはじめ、複数の列車をコントロールする運転指令所を再現したコーナーや、あるいは「ATS(自動列車停止装置)」「ATC(自動列車制御装置)」という装置について、模型を使った運転体験を通じてその役割としくみが理解できるコーナーもある。ATSやATCは万が一のヒューマンエラーに対しバックアップを行なうためのシステムだ。
思えば、JR西日本管内の福知山線では2005年に100人以上もの死者を出す脱線事故が起こっている。安全を前面に押し出し、それを支える人々の仕事を知ってもらおうというこの博物館のコンセプトの根底には、あの事故への反省があるような気がしてならない。
体験展示としてはこのほか、車両の保守点検を行なう工場を再現したコーナーが1階に設けられている。また、2階の昔と今の駅を並べて再現したコーナーでは、「マルス」という販売管理システムの端末を使った切符販売を疑似体験することもできる。ディスプレイに表示された乗客の注文にあわせて切符を用意するのだが、これがなかなか難しい(実際には乗客からは口頭で注文されるわけだから、もっと難しそうだ)。
と、まあ京都鉄道博物館にはいろんなものが展示され、かつ体験することができる。内覧会は3時間だったが、じっくり見て回っていたらまったく時間が足りない。オープン当初は連日混雑が予想されるし、出かけるならかなり時間の余裕を持って行ったほうがいいです。
博物館を出てからもなごり惜しくて、しばらく周辺をうろうろしていた。すると、館内の様子が垣間見える場所で、おじいちゃんらしき人に連れられた男の子が「ゴハチだ!」と電気機関車EF58形を指しながらはしゃいでいるのを見かけた。この博物館はまず何よりこういう子たちのためにある。ここには君が大喜びするものがもっとたくさんあると、ひと足先に見てきたおじさんが保証します。オープンまであと少し、楽しみに待ちましょう。
■京都鉄道博物館(2016年4月29日グランドオープン)
〒600-8835 京都市下京区観喜寺町
※JR「京都駅」中央口より徒歩約20分、嵯峨野線「丹波口駅」より徒歩約15分
(2019年には博物館北側に嵯峨野線の新駅が開業予定)
※「京都駅」前の北口バス乗り場よりバスで「梅小路公園・京都鉄道博物館前」または「梅小路公園前」下車
※駐車場はないので、公共交通機関か徒歩でお出かけください
【開館時間】10:00〜17:30(入館は17:00まで)
【休日】毎週水曜・年末年始(12/30〜1/1)
【入場料金】一般・1,200円ほか 詳細は公式サイトを参照
(近藤正高)