[書評]ミシェル・オンフレ『<反>哲学教科書』
本書は、フランスの哲学者ミシェル・オンフレ先生が教鞭をとっていた高校で実際に使用していた哲学教科書です。しかも、過去の著名な哲学者と著書をただ羅列するのではなく、オンフレ先生が、日常の素朴な疑問を提示し、そこから哲学の世界へと生徒を導いていくという構成になっています。
たとえば“自由”の章では、先生は生徒に、「なぜ君たちの学校は刑務所みたいに造られているのだろう?」と疑問を提示します。そして“自由”について、「個人の自主性を示すあらゆることは、社会全体にとっては著しい妨げになってしまう」「最も従順な人、最も目立つ形で個人の自由を放棄する人に、それを歓迎する社会の側は、報酬をもって応える。雇用、責任ある地位、権力の代行、社会階級上の身分、他者に対する支配力、そして満ち足りた生活が送れ、その人が同化の模範例に見えるに十分な額の給与などだ」と言い、哲学者の著書を引用します。
ドゥルーズが考える“統制”や、ベンサムが考える“パノプティコン(監獄)”を紹介し、「ベンサムは、監獄だけに特化して考えていたわけではなかった。そのモデルは、新しい社会のいかなる構造物にも利用可能だった―そして本当に利用された―のだ。フランスが考案し、たちまちのうちに欧州の各国政府が飛びついたと警察という機構も、パノプティコンの双子の兄弟だ」というフーコーの言葉を引用し、読者を哲学の世界に引き込んでいきます。
また、“自然”の章では「君たちはかつて、人の肉を食べたことがある?」という疑問からモンテーニュへつながり、“意識”の章では、「気を失うとき、いったい何が消えるのだろう?」と提示し、そこでデカルトが登場する、といった構成になっていて、読み進むうちに、哲学の世界へぐいぐいひきこまれていきます。
ユニークなのが、巻末付録の「採点官の心を捕らえるには?」。なんと、フランスの高校3年生が年度末にうけるバカロレア=大学入試資格試験への対策が書いてあるのです!哲学の試験は4時間。生徒は、いくつかの題目からテーマを選んで自由作文を作成するという論述問題をこなさなければなりません。この困難な試験を突破できるように、オンフレ先生は、テーマの選び方から論旨の組み立て方や言葉の使い方まで、細かくアドバイスをしてくれます。
新しい環境での活動が始まってそろそろ1カ月。大型連休を利用して、「君はどこまでサルか?」というサブタイトルの、このユニークな哲学教科書に挑戦してみてはいかがでしょうか?(嶋崎正樹訳、NTT出版、2004年11月刊、2520円)【了】
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たとえば“自由”の章では、先生は生徒に、「なぜ君たちの学校は刑務所みたいに造られているのだろう?」と疑問を提示します。そして“自由”について、「個人の自主性を示すあらゆることは、社会全体にとっては著しい妨げになってしまう」「最も従順な人、最も目立つ形で個人の自由を放棄する人に、それを歓迎する社会の側は、報酬をもって応える。雇用、責任ある地位、権力の代行、社会階級上の身分、他者に対する支配力、そして満ち足りた生活が送れ、その人が同化の模範例に見えるに十分な額の給与などだ」と言い、哲学者の著書を引用します。
また、“自然”の章では「君たちはかつて、人の肉を食べたことがある?」という疑問からモンテーニュへつながり、“意識”の章では、「気を失うとき、いったい何が消えるのだろう?」と提示し、そこでデカルトが登場する、といった構成になっていて、読み進むうちに、哲学の世界へぐいぐいひきこまれていきます。
ユニークなのが、巻末付録の「採点官の心を捕らえるには?」。なんと、フランスの高校3年生が年度末にうけるバカロレア=大学入試資格試験への対策が書いてあるのです!哲学の試験は4時間。生徒は、いくつかの題目からテーマを選んで自由作文を作成するという論述問題をこなさなければなりません。この困難な試験を突破できるように、オンフレ先生は、テーマの選び方から論旨の組み立て方や言葉の使い方まで、細かくアドバイスをしてくれます。
新しい環境での活動が始まってそろそろ1カ月。大型連休を利用して、「君はどこまでサルか?」というサブタイトルの、このユニークな哲学教科書に挑戦してみてはいかがでしょうか?(嶋崎正樹訳、NTT出版、2004年11月刊、2520円)【了】
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