「かっぱえびせん」など定番スナック菓子で国民的な知名度を誇るカルビー。近年はシリアル「フルグラ」も好調だ。

そんなカルビーの会長兼CEOの松本晃氏が今秋、テレビ番組にて「従業員はツール(道具)ではない」「社員の待遇をよくするのはいちばん大事な投資」という主旨の発言をし、「こういった考え方が広まってほしい」と注目を集めた。近年、ブラック企業の問題が取り沙汰され、消費者の間でも、そうした企業を支援したくない=商品を買いたくないというムードが広がっている。優秀な人材を定着させるという意味でも、働き方や社風、待遇は重要な企業戦略のひとつだ。

カルビー広報の朱靖さんによると、同社は「ダイバーシティ」を経営上の重要な戦略のひとつとして位置づけ、女性の活躍推進にグループ全社をあげて取り組んでいるという。インタビューの後編では、前編に引き続きフルグラ事業部 1課 課長・網干弓子さんも交えて、カルビーの働き方について聞いた。(編集部)

【前編はこちら】カルビーを業績好調に導いた「フルグラ」 年商5倍の逆転劇とは

「女性の活躍なしにカルビーの将来はない」

--女性活躍推進に優れた企業として、経済産業省・東京証券取引所が共同で選定する「なでしこ銘柄」に2014年・2015年と2年連続で選ばれたカルビーですが、具体的な取り組みはいつから始まったのでしょうか?

朱靖さん(以下、朱さん):2009年からです。今の会長である松本が弊社に来て「女性の活躍なしにカルビーの将来はない」と。松本はもともと外資系医療メーカーの出身なのですが、そこで日本法人のダイバーシティが進んでいないことを指摘されたそうです。それをきっかけに多くの女性を登用、その結果業績が上がったという経緯があったそうです。

そして弊社へ来てみたらまだまだ女性の管理職率が低い。そこで「それじゃダメだ! 時代遅れだ!」とダイバーシティ委員を発足し、2010年4月1日において5.9%であった女性管理職比率は2014年4月1日には14.3%まで上昇しました。これからも女性の活躍を推進し、2020年には女性管理職30%という数字を目標に掲げています。

社員の待遇を悪くすると、会社への貢献度が下がる

--松本会長と言えば、TVで「給料を増やし社員の待遇をよくするのはいちばん大事な投資」と語っていたのが印象的でした。

:いつも言っていることですね(笑)。松本は「給料を下げたり、人件費を減らすと社員はやる気を失って会社へ貢献しなくなる。すると新しいものは生まれず、会社の成績も落ちるという悪循環へ陥る」と考えています。そうならないためにまずは社員の待遇をよくし、仕事への士気を高めることを一番だと。

朱靖さん

生活の変化に合わせて働けるシステムがある

--松本氏の「会社はお客さんへの責任もあるが、次は従業員とその家族に対して責任がある」という言葉も印象に残っています。とくに女性社員にとって仕事とプライベートの両立は避けて通れない問題ですが、カルビーの女性社員たちはどのような働き方をしているのでしょうか?

:女性社員に限らず社内全体が朝活を推進しています。サマータイム実施期間は、8時に出社して16時半には退社、早く来て早く帰るという仕事スタイルなので、仕事もプライベートも両立できている社員が多いと思います。また週2回の在宅勤務も可能ですし、パソコンやスマホも支給されているのでどこでも仕事ができるので、既婚者はもちろん、母親業を兼ねている社員も多い。ライフスタイルやライフステージの変化に合わせて働けるようなシステムになっています。

網干弓子さん(以下、網干):私も実際、子育てをしながら働いている1人です。管理職と主婦、母親業の両立は大変だと思われがちですが、そんなことはありません。9時に出社して16時半には退社。時短制度を取得していますが、それでも仕事をしっかりと終わらせることができるのは、限られた時間内にクリアすべき目標がしっかりしているからです。

これは松本が「労働時間が長い割に生産性が低い」と指摘されて来た日本の企業への変革のひとつでもあります。当社では管理職が率先して時短制度、在宅制度を活用するなどして、効率的な働き方の努力をしています。すると結果的に家庭の時間も充実し、プライベートが充実すると仕事もはかどるという好循環が生まれました。

管理職は「偉い人」ではなく「まとめ役」

--網干さんだけでなく、管理職に就かれている女性も多いと思うのですが、上に立つことで感じる大変さや苦労はありませんか?

網干:管理職を偉い人だと思って、張り切り過ぎたり頑張り過ぎたりする女性もいると思いますが、管理職は偉いのではなくまとめ役。先ほど話した通り、限られた時間の中で、いかに効率よく仕事をし、成果を出すためにチームをまとめるかが仕事だと思います。

実際、フルグラチームでは部内会議や定期的なミーテイングは一切必要ありません。本当に必要なことだけアウトプットすれば、話は1時間もかからず終わるものです。そのためにも大切なのは管理職がスタッフ1人1人をしっかりと見ること。例えば「あの人は朝与えた仕事を夕方まで悩んでいる、なら何で止まっているのか、アイディアがでないならばその日は気分を切替えて帰宅するか、外の世界を見てみたら」とかアドバイスをしています。

チャンスがあったら掴む柔軟性が大切

--そのためにはスタッフ同士のコミュニケーションが必要不可欠ですね。

網干:そうですね、管理職が意識してスタッフを見て、声をかけるようにしています。基本的にはフリーアドレスなので会話も生まれやすいというのもメリットですね。コミュニケーションを通してその人にはどんな仕事傾向があり、どんなことで悩んでいるかを把握できれば仕事の効率はぐんっと上がります。またチームとしての目標を明確にすることも大切。

売り上げを100億、200億、400億といったように、目指すところを一緒にすることで役割も見えてきます。管理職になったからと、1人で頑張る必要なんてありません。もし管理職になれるチャンスが巡って来たら、自分の人生設計を見直して、できると思ったら飛び込んでみるのがいいと思います。向いていないと思ったらそのときはそのときです。チャンスがあったら掴む、その柔軟性が大切だと思います。

(根本聡子)