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●CD・DVD、書籍で売上拡大を図る
東京都渋谷区にHMVの旗艦店が5年ぶりに復活した。店名は「HMV&BOOKS TOKYO」。取扱い商材は、大まかに「CD・DVD」「書籍」「雑貨・グッズ」の3点。市場環境の変化で苦戦が強いられている商材だが、ローソンHMVエンタテイメントは、売り場を工夫した新業態で顧客獲得に挑もうとしている。

渋谷からHMVが消えたのは2010年11月のこと。かつては、タワーレコードとともに渋谷のシンボルともいえる存在だったが、CD販売の落ち込みに抗し切れず、撤退してしまった。もともとは英HMVの日本法人が運営していたHMVだが、運営元が移り変わり、渋谷店の閉店後に、ローソンが買収。子会社化してローソンHMVエンタテイメントになったという経緯がある。

運営元が変わったことに注目すれば、純粋な復活とは言えないかもしれないが、取扱商材の"種類"に、大きな変化はない。HMV&BOOKS TOKYOでは、CD・DVD、書籍、雑貨・グッズで、いずれも苦境に立たされたコンテンツばかり。それにもかかわらず、HMV事業の53店舗で年商400億円を維持、HMV&BOOKS TOKYOで年商17億円、同店のスタイルを踏襲した店舗を10店舗に増やすことで、2018年におおよそ年商600億円を目指すという。

○売り場の工夫

では、どうやって売るのか。その秘密のひとつは売り場にある。HMV&BOOKS TOKYOは、商材ごとに専用エリアを設ける従来のような売り方はしない。CD・DVD、書籍、グッズを関連性の高いものにまとめて売りだす。

たとえば、レシピ本。そのまわりには、調理グッズがあり、料理の最中に聴きたくなるようなCDが置かれる。そのため、本来は書籍が置かれる棚にワインが置かれ、ワイン関連の本があるといった具合だ。同社の盛谷尚也常務によると「いままでCDを買うような方が、書籍も買うというように、複合的に商品を買う傾向があった」とし、それを具現化したのが、HMV&BOOKS TOKYOとなる。

関連商材をまとめて売るために、売り場ごとにテーマがあるのも特徴だ。店内には「食」、小説やエッセイなどを揃え女性の生き方の秘訣が探れる「男と女」、着こなしやお避けの飲み方など大人向けの「大人の趣味」、新刊・新婦・話題作などの旬な最新情報を提供する「A Day in the Life」などがある。

売り場ごとに専任の発注担当者がおり、担当者が売り場を作り込む。そうした、こだわりのある売り場に行くことで、思いがけない商品との出会いが生まれる。来店者が売り場を見る楽しさを提供する。

HMV&BOOKS TOKYOはCDショップではない
○売り場は書店に近い

HMV&BOOKS TOKYOの売り場を実際に見ていくと、旧HMVの復活をイメージすると面くらうかもしれない。店内の印象は、CDショップではなく、書店に近いからだ。

それは商材の構成比からもわかる。「HMV&BOOKS TOKYO」では、書籍が6割、CD・DVDが3割、雑貨・グッズが1割。CDショップをイメージすると、主従が逆転しているように見えてしまう。

その理由としては、音楽からではリーチできない商材でも、書籍ならリーチしやすいから。たとえば、人工知能を扱ったいくつかの書籍の横に、「ターミネーター」のDVDが置かれる。しかし、人工知能に関連したCDはない。音楽よりも書籍のほうが商材のハブになりやすいと判断する。店名に"BOOKS"と入るのは、売り場を見れば納得できる。

○新しいエンタメとの出会い

HMV&BOOKS TOKYOが目指すのは、商品との出会いだけではない。"新しいエンタメとの出会い"も店舗コンセプトとなる。

店内には、各階ごとに50人、100人、150〜200人収容のイベントスペースがあり、作家やアーティストのトークショー、セミナー、ミニライブなどが毎日行われる。その数は年間で1000回を予定しているという。

さらに、店内には、InterFMサテライトスタジオも併設され、公開生放送やイベントと連動した公開録音を行うという。

HMV&BOOKS TOKYOが握る未来

より多くの人に来てもらい、集客態勢も整えたHMV&BOOKS TOKYO。書籍を軸にし、商品を複合的に取扱い、数多くのイベントも開催するエンタメ複合店となる。こうした新業態は消費者の関心を引けるのか。同社は2018年までに同種の店舗を10に増やす計画だが、その成否は同店が握ることになる。

さらには、苦戦の続く出版業界・音楽業界にとっても、注目の的になるだろう。もしかしたら、これらの業界にとっての業績回復のヒントになるのかもしれない。

(大澤昌弘)