都立小平高等学校(東京)

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 西東京の都立校の中で、高い実績を残しているのが都立小平だ。2005年夏ベスト4、2008年夏ベスト8、2009年夏ベスト4、2014年夏ベスト8と書かれた旗がグラウンドに掲げられている。一体、どんな取り組みをして、チーム力を高めているのか。今回は都立小平グラウンドから強さの中身について迫った。

「速球を打ち返すこと」と「速い打球を捕ること」で日本学園を撃破

 先を見て準備ができるチームほど頼もしいものはない。都立小平がそういうチームだと感じたのは今春のブロック予選の日本学園戦(試合レポート)だ。2月末、ブロック予選で日本学園との対戦が決まった際、率いる石田 幹雄監督は、選手たちに日本学園について調べることを指示した。そこで分かったのはエース・一柳 大我の速球が速いこと、そして一柳を中心としたクリーンナップは打球が速いことだ。そこで都立小平は、速いボールを打ち返すことと、速い打球を捕る練習を繰り返すことを決めた。

 速いボールは振り遅れてでも、しっかりとバックスイングを取って、強く振ること。腕だけで振りにいく小手先の打撃では、通用しない。この教えは、練習試合で対戦した横浜高の渡辺 元智監督(関連記事)によるものだった。そして速い打球を捕る練習として、塁間からやや狭めた距離から硬式のテニスボールを打ち返し、速い打球を捕る練習を重ねてきた。

 そして選手たちは一柳投手の狙い球を定めて試合に臨んだ。初回に1点を先制すると、さらに4回裏にも1点を追加。そして8回裏にも2点を追加し、4対0でリード。そして実際に守備でも速い打球が飛んできた。6回表、無死一塁から日本学園の4番打者が放った一塁線の痛烈なゴロを大井 直秀(3年)が好捕し、併殺。さらに最後も痛烈な一ゴロが飛び、これを大井が好捕し、完封勝利。そして都立大森との代表決定戦でも1対0の完封勝利をおさめ、本大会出場を決め、本大会では0対1で世田谷学園に敗れたが、3試合で計1失点。守りのチームと印象付けた大会であった。

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 そして取材に訪れた6月のある日、この日の都立小平ナインは、夏へ向けて、1つの対策を行っていた。まず真夏対策。2、3年生はグラウンドコートを着て、練習する。暑いことを想定して、プレーしていたのだ。これは選手の発案によるものだ。

 プレーのスピードアップのために、グラウンドでは3人のマネージャーが、一塁横、三塁横、ホームベース付近に立って、ストップウォッチを持って立っている。これは本塁から一塁までのタイム、一塁から三塁までのタイム、二塁から本塁までのタイムを測る。チームとして定められた数字はない。各自が自分の持ちタイムを把握し、少しでも速くなるために工夫を凝らしている。これは5月に慶應志木と練習試合を行った際に慶應志木のやり方を取り入れたようだ。

 また練習後に卵を食べるのは、山梨学院大附の吉田 洸二監督の影響だ。多くの選手が身体が大きくなったことを実感しているようで、「今年は身長は小さくても、体重があり、パワーがある選手が多いですよ」と石田 幹雄監督も手応えを示す。またケガ防止のため、鉄棒を使って、懸垂や逆上がり、腰痛防止のエクササイズをする様子が見られた。これもトレーナーから教えてもらったもので、しっかりと自分達でこなしている。

 都立小平は多くの強豪校の取り組みや専門分野の方の意見をヒントにして、オリジナルの練習を築き、その練習を積み重ねることで、西東京内でも実績を残す都立校として成長したのである。

遠投100メートルを軽く超えるセンター・長嶋を中心に個性的な選手が揃う

佐藤 圭介主将(都立小平高等学校)

 今年の戦力について紹介をしていくと、守備の中心が、二塁手の佐藤 圭介(3年)と遊撃手の新宅 亮太(3年)。この2人は石田監督が発案した「短距離ノック」のもと、格段にレベルアップを遂げた二遊間である。新宅は、短距離ノックの効果についてこう答える。

「ああいう速い打球を捕ることで、球際にも強くなりましたし、守備範囲も広くなって、反応も早くなって、自分でもうまくなっていることを実感します」と手応えを感じていた。新宅はバットコントロールも良く、攻守の要である二塁手。主将の佐藤 圭介は、春は足を負傷し満足いくプレーができなかったが、今では都立小平と長年付き合っている整体師が運営している国立フィジオ研究所でしっかりと治し、元気にプレーができている。

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[page_break:今年は守備で勝負]

 さらに長打力ならばチーム一番の菊地 元哉(3年)。そして投打で注目されているのが、センターを守る長嶋 恭兵だ。長嶋の武器はなんといっても遠投100メートルを軽く超える強肩である。都立小平グラウンドは、校庭の奥からフェンスまでの距離は約95メートルほどだが、長嶋は、その位置から投げて、ネットの最上段にぶち当てるという。フェンスがなければ、ゆうに100メートルを超える。

 実際にバックホームでも、やや遠い位置からダイレクトで届く肩の強さがあるようだ。そして守備範囲も広くまさに守備の要。今では強肩を買われて、野球人生初の投手も務めているようだ。エース福井 丈史(3年)を中心に投手の駒はそろっているが、投手としてもチーム一番の速球を投げ込む長嶋は大きな存在だ。そして打撃も長打力があり、逆方向にも長打が打てる。

 桁外れの強肩を誇る選手は体格的にも素晴らしい選手とイメージしたくなるが、175センチ71キロとあまり大きくなく、どこからそんなパワーが!と驚かされる。長嶋は都立小平でのトレーニングを懸命に取り組んでいった結果、このような強肩を身につけたという。その長嶋は中学時代、オコエ 瑠偉(関東一)(2015年インタビュー【前編】【後編】)と同じ東村山シニア出身で、出場経験がなかった選手という事実にも驚きであった。長嶋は大会へ向けて、「オコエなど東村山シニア出身の選手に負けない活躍をしたい」と意気込む。

 都立小平は潜在能力が高い選手がそろっているのが強みで、慶應義塾との練習試合でも9回に勝ち越しを許したが、1対1の好勝負を演じている。

今年は守備で勝負

長嶋 恭兵選手(都立小平高等学校)

 13日に初戦を控えた都立小平。今年も守備で勝負するチームであることは変わらない。そのカギを握るのはエースの福井。コントロールに優れ、落差あるチェンジアップが持ち味。総合力が優れており、試合をしっかりと作ることを期待されている。石田 幹雄監督が求めるのは低めへの制球力。福井もブルペンの投球では、低めを意識した投球を続けている。他では変化球のキレがある左腕の保田 環(3年)、右腕・石原 稜平(2年)もスタンバイ。ここにチーム一の速球を投げ込むセンター・長嶋 恭兵が機能できるかにかかっている。

 また捕手では、打撃、守備ともに安定している石橋 幸大(3年)とリードが優れた藤本 浩徳(3年)で競わせており、2人で日々高めあっている。強いチームには、好捕手ありということで、2人がどれだけ投手の持ち味を引き出すことができるか。

 主将の佐藤 圭介が夏へ向けての意気込みを語ってくれた。「去年の夏を経験しているのが、長嶋、新宅、菊池、福井、そして僕なので、その経験を生かしていきたいと思います。チームとして神宮球場でやるところまで勝ち上がって、神宮で一勝を挙げたいです」

 西東京は明治神宮球場を初戦から使う東東京と違い、準々決勝からとなる。チームとしてベスト8をめざし、佐藤が掲げた神宮で一勝を挙げれば、昨年を超えるベスト4である。石田監督をはじめ、選手も今年の西東京は厳しい戦いになると口を揃えている。だが春の大会のような、計画的な試合運びを見せた時、この夏の上位に進出する力は十分に持っている。

(取材・文=河嶋 宗一)

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