県立鳴門高等学校(徳島)
「嫌われる指導」に込める愛情
昨年まで夏の徳島大会3連覇。今年の徳島大会では1997〜2000年に4連覇を達成した徳島商以来、史上2度目の偉業に挑む第3シード・鳴門。その鳴門を率いるのは2007年から2度目の母校指揮を執り、今年、第97回全国高等学校野球選手権大会「育成功労賞」受賞も決まった54歳・森脇 稔監督である。
練習では選手からあえて距離をとり「嫌われ役」に徹する指揮官。現代高校野球の指導法とは一戦を画す指導の真意とは?3連覇を期す選手たちの決意と、指揮官の秘められた愛情が今、はじめて語られる。
新入生を前にスイング理論を実演する鳴門・森脇 稔監督(県立鳴門高等学校)
「周りは『4年連続』と言いますが、チームは毎年変わるものですからねえ……。今年は特に難しい」4月のある日。2階にある監督室から選手たちの練習をくまなく見やり、時にはハンドマイク越しにズバリと指導する森脇 稔監督は、普段の取材対応ではベールに覆われている「本音」を語り始めた。
「僕は野球というものは野村 克也監督(元東北楽天ゴールデンイーグルス監督など)も言っていましたけど、エースと4番だと思っています。その中でウチはエースこそ昨年から下級生でしたけど、今年は4番も新チーム立ち上げ時から下級生がやってきた。実は過去を見ても杉本 京太(現:法政大3年)・伊勢 隼人(現:中大2年)・北尾 勇人(現:龍谷大1年)。2010年夏に僕が甲子園にはじめて出た時の4番の鈴江 啓太(駒澤大卒)も3年生でした。エースも4番も下級生は近年ないことですよ」
森脇監督は「4番」による様々な化学変化にも話を巡らす。「僕はいつも、4番をすぐに決めて、そこから上下を決めていくんです。4番は精神的にも技術的にも象徴となる存在なので。ただ、そう考えると手束 海斗(2年・左翼手)とかは成績的には残していても物足りない部分がある。
しかも手束は打点が少ない。5番の佐原 雄大(2年・捕手)や下位の河野 竜生(2年・投手)などの方が打点を稼いでいる。そう考えると1・2・3番が出塁していないということ。昨年は5月に入って北尾が4番に決まってグッと調子が上がったので、これを含めてどうしていくか。投手陣も昨年は1年生ばかりで怖いものなしでいけたのが、今年どうなるか。そして『どうやっても甲子園に行ける』という雰囲気をいかに引き締めるか。それが夏の課題でしょうね」
そして指揮官は、はっきりとこのことを選手たちに伝えるのだ。
最初に話が出た、野村監督を彷彿とさせるボヤキと究極のネガティブシンキング。これを眼前で言われたら高校球児は相当へこむ。その上展開する話は正論かつ理路整然としている。しかも、技術指導をすれば超一流である。取材日も明らかに力んでいる1年生のティーバッティングを見るや否や、「くらげになれ」と言ってまずは上体の力を抜かせ、インサイドアウトの理論を実演交え10分ほど説明。すぐに修正してしまった。選手側から見れば「グウの音も出ない」状況に追い込まれてしまうわけだ。
ここまで書けばもう隠す必要もないだろう。鳴門の選手たちは伝統的に森脇監督の話に触れると一瞬、ことごとく顔をしかめる。そして「監督を見返してやる」という感情を誰もが持って日々の練習に取り組んでいる。その反骨心が結集した成果が、過去3年、特に昨年はノーシードからの甲子園出場につながったと言える。
「僕は嫌われ者でいいんです」と、「小姑役」をあえて受け入れている指揮官。これが鳴門の強さを支える第一の要因である。
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[page_break:「読む」打撃技術とパーソナリティを「読む」]「読む」打撃技術とパーソナリティを「読む」4ヶ所を使う鳴門のフリーバッティング(県立鳴門高等学校)
では、昨年の場合はいかにして北尾 勇人を4番に育て上げ、ノーシードから勝ち上がったのであろうか。そこにはやはり「うずしお打線」と称される打撃強化が欠かせない。ただ、その指導方法は春までと春以降、さらに選手個々のパーソナリティによって変わってくる。これも森脇 稔監督が明かしてくれた。
「冬の練習を通じて振る体力は付いてきているので、春以降は配球を読むような打撃のテクニックを教えるんです。長打を打てる選手はフライを打つようにするし、そうでない選手はライナーを打てるように教える。北尾の場合は変化球が春以降に打てるようになったことが、4番に座れた要因ですね。今年ですか?昨年もこの時期に言っていましたけど、行けたらラッキーです(笑)」
確かに鳴門の場合、同じようなフォームで構える選手は誰もいない。まるでNPB選手のように自分に合った構えからスタイルに合ったスイングで打球を飛ばす。5月16日(土)の練習試合で四国屈指の好左腕・三本松の三好 大倫(3年)から8点を奪ったのも、相手バッテリーにとって抑えどころのつかみづらい彼らの「読み」があったからだ。
一方、2年生4枚がマウンドに上がる投手陣に対する配球、力の入れ方指導も当然違う。たとえばストレートが最速140キロを超えたエース左腕・河野 竜生(172センチ72キロ・鳴門市第二中出身)に対しては「初球はそこらへんに投げ、打たれてもカッカしない」と「いい加減」を勧め、春季大会は「県大会準決勝からの登板」を明言。練習試合での好調ぶりにセーブをかけた。
結果、河野は「自分が点を取られたことで迷惑をかけてしまった」昨秋四国大会2回戦・英明戦の反省をじっくり消化しながら「変化球でカウントを整えてから攻めていく」新たなスタイルを手に入れつつある。
対して186センチ75キロの恵まれた体格から最速143キロのストレートを投げ下ろす中山 晶量(生光学園中<ヤングリーグ>出身)には「最初から全力で行け!お前の代わりはナンボでもいる」と鼓舞しつつ、春はエース格として起用。これまでおっとり屋な行動が目立った右腕には生光学園に敗れベスト8に終わった春以降「他の投手と仲はいいけど、グラウンドではライバル」と言いきれる上昇志向と闘争心が宿ってきた。
さらに2人に加え、河野も「低めに丁寧に投げられて球数も少ない」と実力を認める常時130キロ中盤のストレートとツーシーム・フォーク系シンカーを投げ分ける右サイド・尾崎 海晴(175センチ77キロ・鳴門一中出身)や、右翼手兼任ながら左腕からのカットボールには見るべきものがある矢竹 将弥(176センチ70キロ・生光学園中<ヤングリーグ>出身)も健在。2つの「読み」は、鳴門を確実に押し上げている。
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では、最後の夏を迎える3年生は?選手17人中(他に3年生女子マネージャー1名)ベンチ入りは8名。一桁背番号に至っては2名という厳しい現実がある3年生と指揮官との交流は?今度は選手側から聞くことにしよう。
1番・主将・中堅手。淡路島出身ながら藍住リトルシニアで2年先輩の稲岡 賢太(現:中央学院大2年)に憧れ鳴門に進学。現在は下宿住まいの堀 皓貴(右投左打・166センチ62キロ)は「4年連続出場という重圧は当然ありますし、2年生が多いのでそこをまとめようとする意識は持っています。自分の背中で見せながら1つのことに向かってみんなでやっていこうとしています」と話した後、主将としての振る舞い方について、様々な人々からアドバイスをもらっていることを明かす。
「河野 祐斗・現:明治大2年)さんからは『自分1人でやろうとしすぎるな』、鳴川 宗志(現:法政大準硬式野球部1年)さんからも『1人では何もできないから、周りに頼りながら背中で語っていけよ』と言われていますね」
歴代主将からのアドバイスに続いて出たのは意外な人物である。「監督さんからも『ミーティングを多くやっていけよ。共通理解をしていかないと、みんなもついていってくれないぞ』と言われています」
指揮官の愛情はここに及んでいた。現に堀は4月末の時点で3年生だけを集め、こう訴えている。「全員がメンバーに入れるわけではないと思うけど、腐らず最後までサポートしてくれ」
「そのためにも僕がプレーで恩返ししたい。4年連続の甲子園をつかみたい」その時、堀の表情は曇天から日が射すように明るくなった。
「最終的にはゲームにどん欲になってガムシャラになるチームが勝つ。そのために練習で質のある追い込みをするんです。チームを1つにしたり、あえてバラバラにしたり。それを選手に対して、どの時期に、誰に、するのか。それがはまれば昨年のように甲子園に行けると思います」
「メンバーは重い方のトンボを振れ!軽いバットは夏になったらナンボでも振らせてやるわ!」練習終盤、恒例のトンボ素振りの際、発した選手たちへの檄の直前に柔和な表情で語った森脇監督。その過程が鳴門の選手たちにどのように染み込み、どんな結果を生み出すかは、第3シードとして7月11日(土)開幕、7月14日(火)に阿波西との初戦を迎える徳島大会で明らかになる。
(取材・写真:寺下 友徳)
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