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 1990年春。「全日本プロレス(ジャイアント馬場社長)」のエース、天龍源一郎が突如として退団した。同時期に「新日本プロレス(アントニオ猪木オーナー)」からも、何人かの選手が同調するかのように退団。彼らの行き先は、豊富な資金でプロレス界に参入してきたメガネスーパーが作ったプロレス団体、「SWS(田中八郎社長)」だった(注1)。

 久々にプロレスを使ってたとえてみると、「馬場が米国」、「猪木が日本」、「天龍が英国」。「田中八郎社長が習近平」で、そして「SWS」がいま「乗るか・乗らないか」で世論を二分して沸騰中の「AIIB(アジア・インフラ投資銀行)」となる。

 増大一途と予測される、アジアのインフラ整備への資金調達を目指す「AIIB」。世界銀行やADB(アジア開発銀行)など、既存の国際金融機関があるだけに、米国中心のG7は静観の構えだった。ところが3月12日に英国が参加表明すると雪崩を打って追随する国が現れ、G7からドイツ、フランス、イタリア。さらにロシアやブラジルや韓国も加わり、現在57ヶ国が参加を表明した。創設メンバーとなるための締切りは3月末。主な不参加国は米国と、日本だ。

「バスに乗り遅れるな!」というが…

 この現状に野党や朝日新聞、毎日新聞、日経新聞、NHKあたりが連日、政府批判キャンペーンを張っている。いわく「アジアの成長から日本企業が取り残される」「衰える米国に忠誠を誓ってどうする」「いずれ元がドルに変わる基軸通貨になる!」などなど。

 不参加を支持する側も「融資決定基準など、ガバナンスが不透明すぎる」「出資金があるなら、中国はADBに借りた金返せ」と反論して、世論は二分されている(注2)。

 筆者は金融の専門家ではなく、紙幅も限られるため精細な検証はできないが、「参加しろ」派の主張と現実の乖離から見れば、いま日本の取るべき道が見えてくる。

アジアの経済成長から取り残され孤立する!
→締切りをとっくに過ぎたが、いまだに中国は「日米の参加を待つ」。

政治的な米国追随で、日本企業が困る!
→4月のロイター企業調査で「日本がAIIBに不参加となった場合にデメリットを感じるか?」との問いに、「あまり感じない」51%、「全く感じない」33%。

参加して中からガバナンスを整えればいい!
→整ってから参加すればいい。

「AIIB」は宝船なのか泥船なのか。AIIBがバスだとしたら行き先は天国なのか地獄なのか。……それを考える前に、現実を見るべき。中国は日本に参加するよう秋波を送ってきている。つまり、日本の金をアテにしているのは確かなのだ。

 ボールゲームでいえば、攻撃の選択権を持っているのは日本側だ。有利な状況で戦況を見極められるのに、わざわざ慌てて<不利やリスクを呼び込め>と主張する人たちは、経済合理性から離れた別の思想があるとしか思えない。

 冒頭で無理やり例にあげた「SWS」なる団体は、参加選手間に派閥ができ(ガバナンスが効かず)、オーナー企業も匙を投げて二年で崩壊している。

(注1) 各団体の社長…役職は当時のもの。
(注2) 借りた金返せ…麻生財務大臣は「国際金融機関から借金して、一日も遅れずに返済したのは日本くらいだ」と暗に借金を全く返さないAIIB提唱国を揶揄した。

著者プロフィール

コンテンツプロデューサー

田中ねぃ

東京都出身。早大卒後、新潮社入社。『週刊新潮』『FOCUS』を経て、現在『コミック&プロデュース事業部』部長。本業以外にプロレス、アニメ、アイドル、特撮、TV、映画などサブカルチャーに造詣が深い。DMMニュースではニュースとカルチャーを絡めたコラムを連載中。愛称は田中‟ダスティ”ねぃ